004 仲間
二人組の女が目の前で立ち止まる。
片方は150cmあるかどうかのチビ巨乳。
もう一人は高めで160半ばはありそう。
「やっほー!」
チビ巨乳が屈託のない笑みと共に手を挙げる。
肩に掛かる長さをした朱色の髪が綺麗で、顔は可愛い。
(琴乃も結構なサイズだが、これは……桁違いだな)
何かの拍子で琴乃の胸がDカップだと知った。
それより明らかに大きいので、目の前の巨乳は少なくともEカップ。
もしかしたらその上……FやGもあり得る。
「ふふふ、触ってみる?」
俺の視線に気づいたチビ巨乳がニヤニヤする。
「え、いいの?」
「いいよ」
「こら海斗!」
琴乃が鬼の形相で睨んできた。
俺は咳払いし、「失敬」と真顔になる。
「それで俺たちに何の用かな?」
「ウチらも混ぜてくれない? 一緒に行動しようよ」
「ふむ」
チビ巨乳が「いいでしょ?」と体を揺らす。
素晴らしき豊満な胸が縦横無尽に動いて感動した。
「そうだなぁ……」
考えながらもう一人の女を見た。
こちらはきりっとした目の美人で、髪は恐ろしく艶やかな黒のロング。
この場に居る女子の中で最も長い。
一方で胸は琴乃よりも小さかった。
とはいえ「まな板」と表現する程でもない。
Cってところか。
どこかで見た覚えのある顔だな、というのが彼女に対する印象だ。
「そんなのダメだよ! ダメダメ!」
言ったのは琴乃だ。
「なんでー?」
「だって信用ならないもん! シンセの人だから素性が知れないし」
「そうなのー?」
チビ巨乳が俺を見る。
「琴乃の言い分にも一理ある」
「じゃあ仲間に入れてくれたら胸を触らせてあげるから。それでどう?」
「よし、いいだろう。今から仲間だ」
「おい」
光の速さで琴乃がツッコミを入れてきた。
「いいじゃないか、別に」
「なんでさ。信用ならないじゃん。それに胸ならあたしだってあるし!」
シンセの二人が「わお」と驚く。
琴乃は「やっぱり胸は無し」と顔を赤くした。
「胸はどうでもいいんだよ。いや、よくないけどさ」
「だった何でよ?」
琴乃の頬がぷくっと膨らむ。
「頭数は多いほうがいい。そりゃ数十・数百人規模になると話は別だが、2人より4人のほうが安全だろう」
「そうだけどさぁ……」
「それに俺が拒否ってもこの二人は勝手についてくるだろ。そうなったら止められないさ」
「まぁね」
俺は「そんなわけで」とシンセの二人を見る。
「行動を共にしよう。既に知っているかもしれないが、俺は夏野海斗。で、こっちが春宮琴乃だ」
琴乃がふてぶてしい口調で「よろしく」と言う。
「ウチは秋名由梨! 揉みごたえ抜群の巨乳が由梨ちゃんって覚えてね!」
「巨乳の由梨ね、了解。で、そっちの女子は?」
ここでようやく黒髪ロングの女が口を開いた。
「冬月佳奈。よろしく」
その名前を聞いてピンッときた。
「もしかして女流棋士の人?」
「そうだよ」
「やっぱり。見覚えのある顔だと思ったんだ。テレビに出ていたよね」
「うん」
琴乃が「女流棋士って?」と尋ねてくる。
「囲碁のプロなんだよ、彼女は」
「囲碁!? すごっ!」
「それほどでもないよ、私以外にも高校生のプロはいるし」
「そ、そうなんだ」
「うん、そう」
「……」
由梨とは対照的に佳奈は会話が苦手なようだ。
「海斗たちは何でUターンしてきたの?」
佳奈が口を閉ざすと、今度は由梨が口を開いた。
「港が魔物で溢れかえっていたからな。ゴルフ場へ行くつもりだ」
「へぇゴルフ場で何をするの?」
「色々だ。細かいことは移動してからでいいか?」
「ほいほーい」
新たな仲間を引き連れてゴルフ場に向かった。
◇
ゴルフ場は宿泊していたホテルに隣接している。
経営陣がホテルと同じだからだ。
その為、向かっている途中に他の生徒と遭遇した。
嫌味の一つでも言われるかと思いきや普通に感謝された。
ロビーでの戦いは想像以上に感動を与えたようだ。
そんなこんなでゴルフ場に到着。
「まだ荒らされていないな」
ホテルの連中はまだ行動を起こしていない。
道中で会った奴らも何となく歩き回っているだけだった。
「琴乃、リュックはここに」
「了解!」
フロントデスクの傍にリュックを置く。
「で、これからどうすればいいの? 指示求む!」
危機感の欠片もない由梨。
琴乃と同じで彼女も楽観的のようだ。
「適当なリュックを見繕ってその中に使えそうな物を詰めてくれ」
「イエッサー! それが終わったらどうする?」
「自販機でスポーツドリンクや水をひたすら買いまくってくれ」
「何それ!? 何でそんなことするの?」
「いつ使えなくなるか分からないからな」
女子たちが「えっ」と驚いた。
「使えなくなるの? どうして?」
「この世界から高校生以外の人間が消えた可能性が高い。それはつまり、発電所の作業員もいなくなっているってことだ。そうなると電力供給の要である原発なんかは早けりゃ数時間で停止する」
「発電所って自動で動いているわけじゃなかったんだ」
「ちゃんと人が管理しているよ」
「もしかして冷蔵庫とかも止まっちゃうの?」
「もちろん」
「ギョエー!」
俺がホテルを出た理由の一つが電力のタイムリミットだ。
いつ切れるか分からないからこそ迅速に行動したかった。
数百人規模で行動するなら、チームの編成で無駄な時間を食う。
この局面では絶対に避けたい。
遅かれ早かれ食糧問題にも直面するだろう。
機敏に動けなければ餓死のリスクが高まる。
「サクッと作業を済ませようか。ここに長居する気はない」
ホテル勢の近くにいるのは危険だ。
大堂が気づけば「物資を置いていけ」と怒る可能性が高い。
九頭竜や他の生徒もそれに追従するだろう。
だから素早く済ませて距離を取る。
この後のことは既に考えていた。
何せこの島は俺の故郷。
庭も同然なので、どこに何があるかは知り尽くしている。
「よし、見つけたぞ」
男用のロッカールームで車のキーを発見。
ドアの開閉のみボタン操作で行うキーレスキーだ。
電子キーなので対象の車が分からなくて困ることもないだろう。
「ついでに金も貰っておくか」
適当な長財布に札を詰めていく。
使い勝手を考慮して1000円札ばかり集めた。
1万円札が使えない機械は意外に多い。
「ねね、お金ある? 自販機を使いたいんだけど」
由梨がやってきた。
小さめのリュックとゴルフバッグを担いでいる
「女の更衣室には無かったのか」
「空のロッカーしかなかったよ。だから琴乃も違うところを探してるし」
「無理もないか。ここの利用客はおっさんばっかだし」
俺は「これを使え」と長財布を渡した。
「ありがとー。じゃあお礼に……」
「ご自慢の巨乳に触らせてくれるのか?」
「そうじゃなかったんだけど、触りたいならいいよ」
由梨は目を瞑り、「ほれ」と胸を突き出す。
ここまで恥じらいがないと逆に気が引ける。
「い、いや、今はいいよ。それよりお礼は何だ?」
「有益な情報を教えてあげようと思ってね!」
「ほう?」
「魔物って光と音に反応するんだって!」
「そうなのか。どうして知っているんだ?」
「ネットで誰かが言ってた!」
「なるほど」
「有益な情報だったでしょ?」
俺は「そこそこな」と笑った。
「ではお礼に俺も有益な情報を教えてやろう」
「お礼のお礼!?」
「そういうことだ」
「なになに?」
「ゴブリンの顔に付いている目と耳は形だけで意味がない」
「どゆこと?」
「ホテルで戦った時、目潰しをしたり耳をちぎったりしたが、動きはそれまでと変わらなかった。耳は自信ないけど、目は間違いなくオマケだ。潰したところで効果がない」
「あの戦いの最中にそんな細かいところまで見ていたんだ? すんごい!」
「未知の敵と戦う時は観察することが大事だからな」
全てのロッカーを漁り終えた。
得られたのは車のキーと幾ばくかの金くらいだ。
思ったよりもしけた結果に残念な気持ちを禁じ得ない。
由梨と一緒にロビーへ移動した。
「由梨、質問いいか?」
「ブラのサイズならFだよ」
「なるほど、やはりFだったか……って、そうじゃない」
由梨は「なはは」と笑った。
「訊きたいのは君と佳奈が関西弁じゃないことについてだ」
シンセの連中はどぎつい関西弁で話す。
いや、あれは関西弁というより大阪弁だろう。
しかし由梨たちは違う。
イントネーションこそ関西弁ぽいだが、言葉遣い自体は標準語。
「ウチと佳奈はどっちも大阪の人間じゃないからね、元々」
「そうなのか」
「ウチは中学まで山梨に住んでいて、親の転勤で大阪暮らしが決まっていたからシンセに入ったの。佳奈は高2でプロになるまで岡山に住んでたし」
「なるほど」
「それよりウチらがどうして海斗についてきたか気にならないの?」
「別に気にならないが」
「えー」
「訊いてほしいなら訊くぞ」
「訊いて訊いて!」
「なら訊こう。どうしてだ?」
「ただならぬオーラを感じたから! ホテルでの戦いぶりもやばかったし!」
「要するに勘だな。佳奈も同じ理由なのか?」
「んーん、佳奈は魔物と戦う前から海斗のこといいなって言ってたよ」
「いいなって何だよ」
「八校の金髪野郎がイジメていたのを助けたでしょ?」
「あー九頭竜とのやり取りを見ていたのか」
「そそ」
「なら佳奈は後悔することになるな」
「何で?」
「俺はイジメの撲滅を願うようなタイプじゃないからさ。俺の見えないところで行われるイジメについては気にしない。だからきっと佳奈の思っているような男じゃないぜ、俺は」
「人間味があっていいと思うけどねー、ウチは。佳奈がどう思うかは知らんけど」
由梨は自販機で飲み物を買い始めた。
購入後に抽選が行われる無能タイプなのでテンポが悪い。
自販機からハイテンションな「当たりが出ればもう1本!」の声。
そもそも1本で十分な上に、当たりが出たのを見たことがない。
「やったー! 当たりー! もういっぽーん!」
「……その調子で頑張ってくれ」
「はいよん!」
自販機を由梨に任せる。
すぐ近くの物販コーナーでは、佳奈がゴルフグッズを物色していた。
目が合うと彼女の口角が少し上がり、こちらに手を振ってきた。
俺も軽く手を振る。
(車の様子でも確認しておくか)
そう思って外に目を向けた時、琴乃が走ってきた。
「海斗、ちょっと来て!」
「どうした?」
「犬がいるみたい!」
「犬……もしかしたらシェリーかな」
「シェリーって?」
「犬だ」
「それは分かってるよ!」
「で、犬はどこにいる?」
「こっち!」
琴乃が向かったのはスタッフルームだった。
扉の前で立ち止まり、振り返って俺を見る。
「ここから鳴き声がするの!
「ほう」
俺は扉をノックしてみた。
「ワンッ! ワンッ!」
犬の鳴き声が返ってきた。
「たぶんシェリーだろうな」
扉を開けようとする。
しかし鍵がかかっていた。
「鍵を探さないと」
「あるよ!」
「開けてくれ」
琴乃が鍵を開ける。
いよいよ感動の対面だ。
「ワゥゥゥン」
扉の向こうにはホワイトシェパードがいた。
艶やかでモフモフした純白の毛並みが美しい。
琴乃が「わー! 可愛い!」と声を弾ませる。
「やっぱりシェリーだったか」
シェリーはこのゴルフ場の看板犬だ。
今の年齢はおそらく6~7歳。人なら4~50歳だ。
性別はメス。
「何がどうしてこの部屋に隔離……って、おい」
シェリーはロビーのほうへ走って行った。
「ちょ! めっちゃ可愛い犬がいるんだけど!?」
由梨の興奮する声。
俺と琴乃は後を追うようにロビーへ移動した。
シェリーはそこら中を走り回っていた。
スタッフを探しているのだろう。
残念ながらスタッフは残っていない。
シェリーもそのことが分かったようだ。
露骨に悲しそうな表情を浮かべて近づいてきた。
そして俺の前で伏せる。
「この子、一緒に連れて行かない? 独りぼっちは可哀想だよ」
「琴乃に賛成ー! 連れて行こうよ!」
由梨が近づいてくる。
「私はどっちでもいいよ」
佳奈も加わった。
由梨と同じで彼女もゴルフバッグと小さめのリュックを担いでいる。
「一緒に来るかはシェリー次第さ。用も済んだしここを離れよう」
シェリーの横を通り抜けて外へ向かう。
「クゥン……」
シェリーはその場から動かず、寂しそうにこちらを眺めている。
「あの子、海斗が『おいで』って言ったら来ると思うよ」と由梨。
「言ってよ海斗、シェリーに『おいで』って」
琴乃が袖を引っ張ってくる。
「来ないと思うけど、それで二人が納得するなら言うよ」
ということで、俺はシェリーの目を見つめて言った。
「ほら来いシェリー、一緒に行くぞ」
「ワンッ!」
シェリーは嬉しそうに尻尾を振りながら近づいてきた。
「海斗ってヒトだけじゃなくてイヌからもモテるんだね」
由梨が「にくいねぇ!」と肘で小突いてくる。
「何を言っているんだか」
やれやれ、と苦笑いを浮かべた。
「俺たちの車はどれかな?」
ゴルフ場を出たらキーのボタンを押す。
反応したのは水色のSUVだった。
4人と1頭で利用するのにちょうどいい。
トランクに荷物を積んで車に乗り込む。
運転席に俺、助手席に佳奈、後部座席に琴乃と由梨が座る。
シェリーは後部座席のど真ん中。両手に花だ。メスだけど。
「じゃ、行くぜ」
エンジンを掛けてアクセルを踏む。
何の問題も無く動いた。
「うお、車に乗っとる奴おるで!」
「夏野やん! 車の運転もできるんか」
「えぐっ、多才過ぎやろ」
ホテルの前に屯していたシンセの連中が驚いている。
そのざわつきに気づいたのか、ホテルから九頭竜と大堂が出てきた。
二人は怒りの表情で何やら叫んでいる。
その頃には既に距離があったので聞こえなかった。
きっと「物資を奪うな」とでも言ったのだろう。
「海斗君、これからどこに行くの?」
「南沿岸部にある集落――南魔窟町さ。今のところ魔物は北からしか来ていないから、南魔窟町は魔方陣が出ていないと思うんだ。であれば、北魔窟町と違って安全に過ごせる。車中泊でもいいけど、やっぱり横になって寝たいからな。他にも行きたいところがあるし」
「なるほど」
島の大部分は北側に集中している。
国策による開発の手も北側にしか及んでいない。
だが島民は南側でも活動している。
港はないものの、農業が主流なので畑が多い。
食糧に困ることはないだろう。
「それと俺のことは呼び捨てでいいよ。俺も佳奈って呼ぶし」
「分かった。海斗は何か部に入ってた?」
「いや、何も」
「そう、私も」
「…………」
「…………」
「囲碁のプロって男が大半なんだろ?」
「うん」
「たしかプロ試験は男女混合だとか」
「そうだよ」
「女でしかも高2かそこらでプロって、やっぱりすごいと思うぜ」
「ありがとう」
「…………」
「…………」
運転しながら佳奈とぎこちない会話を繰り広げる。
その頃、琴乃と由梨は大はしゃぎでシェリーを撫で回していた。
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