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005 ☆思惑

 海斗たちを乗せたSUVに向かって、大堂と九頭竜は吠えた。


「なに盗ってくさっとんねん!」


「おい! 車をパクってんじゃねぇぞ!」


 舌打ちする九頭竜。


 その隣で大堂は思った。

 今は東京モンと言い争う時ではない、と。


「九頭竜、やっけ?」


「何だよ」


 九頭竜は足の震えを必死に抑える。

 本当は大堂のことが怖くて仕方なかった。

 だが八校のリーダーなので怯むわけにはいかない。


 ここでビビっているのがバレたらおしまいだ。

 シンセの連中にはバカにされ、八校勢からの信用も失う。

 常にリーダーでいたい彼にとっては避けねばならなかった。


「お前の言う通り指揮系統は別々で行こか。シンセは俺が仕切るから八校はお前が仕切ったらええ」


「さっきまであれほど『俺が仕切る』って訊かなかったくせにどうしたんだよ」


「こんなしょうもないことで揉めてる場合やないってだけや。お前も見たやろ。夏野がゴルフ場から車やら何やらパクりよった。このままじゃアイツと同じようなことをする奴が続出して物資の奪い合いになってまうわ」


「たしかに」


「せやから譲歩したる。その代わりお前も譲歩しぃや」


「何を譲歩すりゃいいんだ?」


「資源は共有や。メシも武器も両校で使う。山分けやなくて共有やからな。奪い合いせぇへん為や。そのくらいええやろ?」


「ま、まぁ、そうだな、いいぜ、俺も譲歩しよう!」


 九頭竜の心中には「ラッキー」という言葉が浮かんでいた。

 このあと食糧や武器の奪い合いが待っていると思ったからだ。

 交渉の手間が省けた。


「ところで大堂、このホテルは大きいから物資をまとめたほうがいいと思うのだが?」


「賛成や。使えそうなもんは2階の会場にでも集めたらええ。いくつかあるから用途別に分けられるやろ」


「その作業は八校(ウチ)で担当するよ」


「なんやて?」


「さっきの戦闘ではそっちに頑張ってもらったからな。詫びみたいなもんだ。東京の不良にだってそのくらいのマナーはある」


「なんやお前不良やったんか。ただいちびっとるだけやと思ったわ」


「不良の仲間や暴走族(ゾク)の先輩だってたくさんいるぜ。ヤクザにだって顔が利く」


「へー、大したもんやん。インテリタイプやねんな」


「そういうことだ」


 この時、大堂は思った。

 (ひがし)の不良はなんと低レベルなんや、と。

 誰かの威光を笠に着ないとイキれないのか、と。

 だが、この程度のほうが扱いやすくてちょうどいい。


「ほな物を集める作業はそっちに任せるわ。でも各フロアに数人ずつ見張りをつけさせてもらうで。お前のことをまだ信用しきっとらんからな」


「問題ない」


 大堂は「ほなな」とホテルを出る。


 九頭竜は大きく息を吐いた後、学年全員が参加するグループラインでロビーに集まるようチャットを飛ばした。

 既読した人間を表す数字が続々と増えていく。

 その数字をタップすると誰が読んだか名前が表示される。


 既読者の中に琴乃の名があった。

 それはつまり海斗にこの発言が知られるということ。


 九頭竜は舌打ちする。

 敵に情報が漏れているような気がして不快だった。

 ロビーに人が集まるまでの間に、彼は新たなグループを立ち上げた。


 ◇


 シンセの男子が監視する中、八校の生徒が使えそうな物を2階に集める。


 九頭竜は地下2階の厨房にいた。

 この場所に来たのには理由がある。


 人が消えたことでつけっぱなしのコンロが火災に繋がると思った。

 などということではなく、欲しい物があったからだ。

 コンロのことはこの場所に着くと同時に気づいたが問題なかった。

 ホテルを発つ前に琴乃が止めておいたからだ。


 ではなぜ九頭竜が厨房へ来たのか。

 その理由は――。


(あった……! あったぞ!)


 ニヤリと笑う九頭竜。

 彼の手にはペティナイフが握られていた。

 武器の確保こそ彼が厨房に来た唯一無二の理由だ。


 ペティナイフは小さいので懐に忍ばていてもバレない。

 それでいてプロの使うナイフだから切れ味は抜群。

 現在の環境において最も魅力的な武器といえた。


(あとはこれをどうやって懐に入れるかだが……)


 九頭竜が何食わぬ顔で後ろを向く。

 シンセの男子が目を光らせていた。


 監視者は一人ではなく数人。

 殆ど形だけの存在で、しばしば携帯を触っている。


 しかし九頭竜の監視だけは徹底していた。

 絶対に誰か一人は必ず見ている。

 他の生徒とは明らかに扱いが違っていた。


 もちろん大堂の指示によるもの。


「八校の金髪野郎は胡散臭いからよう見ときや」


 そういう指示が飛んでいた。


(このままじゃペティナイフを盗めないな)


 適当に手を動かしながら九頭竜は考える。

 考えがまとまったら辺りを見渡してカモを探した。


(おっ)


 鈴木小太郎を発見。

 その瞬間、彼は叫んだ。


「おい小太郎! お前今何かパクっただろ!」


 全員の視線が小太郎に向く。

 これまで九頭竜の監視を徹底していたシンセの生徒たちも例外ではない。


(今だ!)


 九頭竜はすかさずペティナイフをブレザーの胸ポケットに忍ばせた。


「そ、そんな、僕、何も盗んでない!」


 小太郎が真っ青な表情で叫ぶ。

 表情は真っ青でも顔は真っ赤だ。

 身振り手振りで必死に身の潔白を訴えている。


「調べれば分かるねん」


 1人のシンセ男子が小太郎を調べる。

 スマホと生徒手帳しか出てこなかった。


「何も隠してないやんけ」


 今度は全員の視線が九頭竜に向かう。


「鼻くそを口に隠したような気がしたんだがな」


 九頭竜と仲のいい男子連中がゲラゲラ笑う。

 シンセの生徒たちもウケていた。


「東京モンもたまにはおもろいこと言うやんけ」


 九頭竜はホッと胸をなで下ろした。


 ◇


「一度引き返してきてからゴルフ場に入ったんか」


「間違いないで。話しかけたから覚えとる」


 大堂はホテルの外にいた生徒から海斗たちのことを聞いていた。


「港のほうは思ったより魔物がぎょーさんおったんやろな。それで戻ってきたんや。そこまではええ。肝心なのは次にどこへ行くかや」


 彼は海斗のことが気になって仕方なかった。

 何を考えていて、何をしたがっているのか。


 海斗が異彩を放っていることは誰の目にも明らかだった。

 常に冷静で、ひたすらに先を読み、それでいて無類の強さを誇る。


 故に大堂は海斗に対して敬意の念を抱いていた。

 仲間であればどれほど心強いことか。


 しかし海斗は仲間にならなかった。

 今後も仲間になることはないだろう。


 故に大堂は海斗のことを疎ましく思っていた。

 このまま好き放題にさせると邪魔になりかねない。

 見せしめの為にも分からせる必要があった。


「なるほど、南にも町があるんか」


 大堂はスマホの地図アプリで魔窟島を調べ、南魔窟町を発見した。

 海斗たちが向かったのはそこに違いない。


「おい男子、集まってくれ。話があるねん」


 大堂は男子連中を呼び寄せる。

 彼の一声で100人を超える生徒が集結した。


「この中に車の運転が出来る奴おるか?」


「できるで」


「俺も! ATだけやけどな」


「ATだけでええなら俺もいけるで」


 何人かの男子が手を挙げた。


「適当な車をパクって南の町に行ってもらえへんか? ゴルフ場には夏野が乗った車以外にも何台かあるからそれを使えばええ」


 スマホに表示された地図を見せて場所を説明する。


「ほんまは自分で行きたいねんけどな、シンセの頭がこの場を離れるわけにいかんやろ。せやからすまんが頼むわ」


「それはええけど、目的地に着いたあとは何したらええんや?」


 男子の一人が尋ねる。


「夏野にゴルフ場やホテルから持ってったもんを返させろ。余裕があれば他にも使えそうなもんを調達してくれ」


「町を漁るのはええけど、夏野に物を返させるんは無理やろ。あいつ強い上にめっちゃ頑固そうやで。断られるんちゃう?」


「ボコボコにしてでも返させろ。戦闘に備えて野球部も同行したれ。バットの代わりになりそうなもんなんてそこらにあるやろ。それでしばいたらええねん。夏野がどんなけ強かろうと人間や。一人で集団には勝てん。それもバットを持った野球部が相手なら尚更な」


「それもそうやな」


「九頭竜には俺が事情を説明しといたるから遠慮無く暴れたれや。頼むで」


「ほんまにやるんか? 夏野には世話になったから気が引けるで」


 大堂は「まぁな」と言いつつも、真剣な表情こう続けた。


「仲間じゃない奴は敵や。甘ったれたこと言うとったら野垂れ死ぬで。世界は変わってもうたんや」


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