唯我独尊
仙ヶ谷高校出場メンバー
ヴォルト(VAULT )
本名:南条 颯 ランク:フロア64
スサノ(Susano)
本名:月城 八都寧 ランク:フロア64
シャランガ(SharangA )
本名:水篠 梵 ランク:フロア100
ニト(NitoO)
本名:二戸 陽菜 ランク:フロア78
テレス(TeLeS)
本名:日比野 晶 ランク:フロア83
仙ヶ谷高校はNF杯の出場を1週間後に控え、初の5人揃った打ち合わせをしていた。
eスポーツ部の部室から5人揃ってログインし、ウォーダウンシティ大通りカフェのテラス席でシャランガとテレスによる戦術の説明を受けている。当たり前だが、ヴォルトもスサノも仮面は外しているので騒ぎになる事はない。
非常にありがたい事に2人にも分かりやすい簡単な戦術しかなかった。そして、30分ほどで説明は終わりを迎えた。
「以上が戦術になります。基本的にはヴォルトさんとスサノさんとサポート係の僕の3人による奇襲、その混乱に乗じたシャランガさんとニト部長の戦略的優位地奪取が柱になります。その後はマップに応じて配置を完了させます。」
「俺とスサノの動きはランク戦とあんまり変わらないって事?」
ランク戦ではヴォルトとスサノの2人で奇襲して頑張るという脳筋的作戦を採っていた。博識ングとの出会い以後は遠距離スモークによる射線管理や時間経過策を取り入れ、奇襲の精度を高めていた。
「そうだ。お前らが暴れている動画が拡散されていたからな……、探すまでもなく2人の戦い方は把握できた。今回の大会では、ヴォルトとスサノはいつも通りに暴れるだけでいい、俺ら3人が合わせる事でチームとしての形を作り上げる。」
「私達主体のチームってこと?シャランガくんじゃなくていいの?」
「俺主体のチームでは2人の強みが活かしきれない。それでは夏に優勝できなかったしな。どっちみちヴォルトとスサノが主力だと言えるぐらい暴れてくれないと優勝は出来ないよ。2人には期待してる。」
以前からも感じていたが、シャランガの2人に対する期待値は異様に高い。今回の戦略にもそれが顕著に現れていた。悪い言い方をすれば重責…、だがヴォルトは責任感よりも自分のエゴを認められる嬉しさが勝る。スサノも口元には笑みが溢れていた。
MeTuberと剣道日本一…多かれ少なかれエゴイスト的一面は持ち合わせている。今回の戦略は彼らのエゴを認め、実力を十二分に発揮させる事を目的にしていた。
戦略の説明が終わり、初戦相手の分析結果をテレスが発表する。
「初戦の相手は青森県立青山田高校です。スペシャルワンのヘビーガンナーを中心とする力押しチームですね。初手は全員で固まって動く傾向があるので、僕達も分散しない方が賢明でしょう。ヴォルトさんとスサノさんは仮面二人組としての知名度は高いですが幸いな事にプレイヤーネームの方はそこまで浸透していません。しかし、敵の分析班の精度によっては筒抜けの場合もあるので念のため細心の注意をはらってください。」
(※ヘビーガンナーについては試合にて…)
シャランガはテレスの分析に自分の見解を付け加える。
「奇襲が完全に虚をつけるのは初戦だけだろう。その相手がCブロックで1番の強豪だったのは運がいい。俺は一度練習試合で戦ったことがあるが、勢いに押されて前半ラウンドは敗北した苦い経験がある。その時反省から導き出した対策は、敵の攻勢を躱しながら確実にキルをとっていく事だ。素直に撃ち合いには応じず確実にキルを取れる瞬間を狙っていけ。」
「ですので、ヴォルトさんの奇襲のタイミングはいつもより遅めでお願いします。」
「完全に意識を他に向かせた後、確実にキルするって事だな。了解!!」
「スサノさんは敵がヘビーガンナーなので射線が切れるまでは前に出ない様にお願いします。」
「うん!マシンガンの弾を全部避けるなんて不可能だし……、その方がいいね。」
「はい。ヴォルトさんが姿を表す段階で煙幕を展開するのでその時からが出番です。」
「りょうかーい!」
対青山田高校の対策も固まった。
後は練習するのみ。シャランガは練習場所として射撃練習場を指定した。地形編集を利用してそれぞれの実力の再確認、細かい部分でのチームプレイの練習にはうってつけだ。
◇ ◇ ◇ ◇
南の門の先にある射撃練習場に行く為に大通りを南側に進んでいく。
大通りはゲーム内で最も人通りが多い場所だ。有名人が現れると騒ぎになりやすい。2日前に仮面状態のヴォルト達が歩いた時はプチパニックになっていた程だ。現在は仮面をつけていないし、U-17日本代表であるシャランガも目立たぬ様に帽子を深くかぶっている。騒ぎになる要素は無い。
だが、大通りはプチパニックどころか空港にハリウッドスターが降り立ったレベルの騒ぎになっている。騒ぎの中心はヴォルト達ではなく南の門付近で発生した。
騒然としている有象無象達の声は南の門に向かって歩いているヴォルト達の耳にも届いている。
(おい!なんだこの騒ぎは?)
(国防大附の奴らが現れたんだと!)
(国土防衛大学附属高等学校?)
(そう、アイツらが道を掻き分けながら向かってきてんのよ。)
(俺はあいつら調子乗ってるから好きじゃねぇんだよな…)
(強ければ放漫ぐらい許してやれよ。俺は好きだぜ。)
(ファンは多いよな〜。夏のNF杯は優勝してるし)
(男の憧れみたいな戦い方すっからな。)
(逆に女子人気はねぇらしいぜ。)
(そうなの?)
(周り見渡してみろよ!あいつらを一目見ようと集まってんの野郎ばっかだろ。)
(うわっ!本当じゃん。男臭せぇ。)
(お!見えてきたぜ!)
(先頭を歩いてる2メートル近くありそうなでけぇヤツがJ-Kid?)
(あいつ身長185だぞ?オーラに殺られて過大視してるんじゃねぇか?)
(ひゃー!目つき悪りぃ…喧嘩売ったら死ぬ自信ある。)
(おいおい!肩ぶつけただけで殺されそうだから道開けようぜ?)
(そ、そうだな…)
仙ヶ谷高校の先頭を歩いていたヴォルトの目の前が急に開けた。
大通りを北方向に歩く国防大附。
大通りを南方向に歩く仙ヶ谷高校。
このままではかち合う事になる。
「ねぇ、ヴォルトくん。横にずれない?雰囲気的に避けた方がいいよ。」
スサノは状況を察知しヴォルトに促す。ヴォルトも自分勝手な性格ではあるが見知らぬ集団相手にに「俺の歩く道だから」と喧嘩を売る様な不良ではない。
「そうだな。避けようか。」
他の観衆と同じように横の道に逸れようとする4人を止めたのはシャランガだった。
「待て。アイツらに道を空ける必要はない。」
「お、おい!待てって!」
普段なら騒ぎを避けたがるシャランガが何故だか争いが起きそうなヤツらに向かって先頭を歩き出す。背中でついて来いと言わんばかりの雰囲気だ。
強者のオーラで威圧感を放ちながら我が物顔で大通りを歩く国防大附J-Kid。
その行く先をシャランガが塞いだ。
不穏な空気が流れる。
「誰だ?お前。俺の道を塞いでタダで済むと思ってんのか?」
「お久しぶりですね。ジェーキッドさん……、相変わらずの唯我独尊っぷりで安心しましたよ。」
シャランガは丁寧な言葉を使ったが、口元は笑っていないし、これまで見た事ない冷たい目をしている。彼を全く敬っていないのは明らかだった。
「あ゛?喧嘩売ってんのか?顔見せろや!!」
ジェーキッドはシャランガの帽子を手ではらい、顔を見るなり大声で笑い出した。
「おいおい!誰かと思ったら行方不明のシャランガじゃねぇーか!?クズ野郎がまた新しい子分引き連れて何してんだ…?」
無表情だった顔が怒りに支配されていく。
「は?今の言葉訂正しろよ。百歩譲ってクズ野郎なのは認めるが、こいつらは子分じゃない仲間だ。」
シャランガは〝新しい子分〟という単語に過剰に反応した。
「お前は次々に子分を捨てていくクズ野郎じゃねぇか。また使い捨ての子分でも見つけたんだろ?」
「こいつらは子分じゃねぇ、訂正しろ。」
「人を道具としか思ってねぇその目が証拠だろ。」
埒があかない。もう…口論はお終いだ。
シャランガは我を忘れてジェーキッドに殴りかかる。大きく振りかぶった拳はジェーキッドの横顔にクリーンヒットした。
だが、ジェーキッドはビクとも動かない。
「共に戦った誼で我慢してやってたんだが…、、、
俺に殺されたいって事でいいな?」
頬に当たったままの拳を掴み、そのまま背負い投げの要領でシャランガを投げ、地面に転がった無防備な腹を間髪入れずに蹴り飛ばす。
シャランガは人混みの中を10メートル程吹き飛ばされ、人にぶつかった頭から血が流れる。
ここはゲーム内、痛みはない。だが、確実に怪我をした場所の感覚を失っていく。
シャランガは気合でフラフラと立ち上がろうとする。人混みを吹き飛ばしながら近づいてきたジェーキッドが立ち上がる動作の途中で後頭部を殴り地面に叩きつけた。
完敗…この言葉が相応しいような敗北だった。
「やっぱりお前はつまらない。1年前の自分が馬鹿みてぇだ。」
ジェーキッドは喧嘩に敗北したシャランガを周知に晒そうと手を伸ばす。
だが、その手を止める男がいた。
ヴォルトだ。
「おい。初期の衣服着てる様なカスが俺の手を止めるな。」
「初期とかカスとか関係ない。俺の仲間に触るな。」
「ふんっ、酷く躾けられた子分だな。いずれお前もコイツに捨てられるぞ?シャランガはクズ人間だ。」
「正直、コイツのことはまだそんなに分からない。だが、これだけはハッキリと言える。シャランガが見下した目で俺らを見た事は一度もない。だから、俺はコイツを信じる。」
「正に忠犬だな。だが、俺の邪魔をする理由にはならねぇ。最後の忠告だ、コイツと同じ目に会いたくなかったら手を離せ。」
「断る。」
拒否の言葉がゴングを鳴らし、殴り合いが始まる。
ジェーキッドは掴まれた右手ではなく左手でヴォルトの顔を殴る。
ドゴッ!!!
生々しい音が周りに響き、悲鳴をあげる女子プレイヤーも現れた。
だが、ヴォルトは倒れていない。仁王立ちのまま鼻から滴れる血を拭き取る。
「ふっはっは!俺に殴られて耐え切るなんて大した根性じゃねぇか!」
ジェーキッドは嬉しそうに笑っている。正直、コイツの思考は全く理解できない、理解したくもない。
「痛てぇだろうが。人の顔殴っちゃ行けないって学校で習わなかったか?」
「痛い訳ないだろ、ゲームだぞ。俺の高校は格闘技を習う。」
「倫理も教えてもらえ。」
喧嘩を売っているつもりだった。だがジェーキッドは未だ嬉しそうなのだ。
「言いやがる…気に入った!お前、名前は?」
「仙ヶ谷高校のヴォルト。」
「高校生ならNF杯出るだろ?俺達と戦うまで負けんなよ。」
ジェーキッドは満足そうに立ち去った。彼が暴れた理由も、自分が気に入られた理由も、最後の挑発にノってこなかった理由もわからない。
正に唯我独尊を体現したような男だ…。
「なんなんだ、アイツ…」
嵐は去った。




