弐章/英雄/挿話弐拾参/もう一つの壁
実質的に露衣土討伐軍となった反乱軍は、
此処へ来て、足止めを喰らう形となっていた。
一つは様々な事情により、戦力を一本化出来ない事。
更にもう一つ、大きな問題を抱えていた。
これまで、炎の大陸、風の大陸では露衣土の圧政に対する
反発も強く、民衆の多くは露衣土帝国の支配から
解放される事を望み、その望みを反乱軍に託すような
形だったので、大概の場合において、反乱軍は民衆に
歓迎され、民衆は反乱軍に協力的でもあった。
しかし、氷の大陸まで来ると、
さすがにこれまで通りとはいかなくなってきている。
というのも、当然に氷の大陸の民衆にとっては、
露衣土帝国が自分達の誇りにもなっているからである。
世の情勢が逆転したとはいえ、氷の大陸の民衆にとって、
討伐軍は未だ反乱軍であり、侵略者として見ているのだ。
そんな中で、力ずくで進軍でもしようものなら、
それは、露衣土帝国がやってきた事と
なんら変わりが無くなってしまう。
かと言って、露衣土をこのまま放っておいて、
露衣土が黙っているわけでもない。
恐らくは、再び露衣土帝国の戦力を
蓄えさせてしまう事になるであろう。
そして、また、情勢が逆転する事も
無い話ではないのである。
結局、戦争が終わる事無く、より多くの民衆が
犠牲になる事になってしまうのだ。




