壱章/人斬り/挿話弐/物騒な男達
ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。
「大丈夫か?嘉兵衛?」
「はい。なんとか」
二人は息を切らしていた。
「ちょっとあそこの木陰で休むとするか」
「はい」
六郎と嘉兵衛の目線の百尺程先に、
大きな桜の木があった。
幹の太さは大の大人四人で手を繋いで、
輪になったくらいの太さであろうか。
花も散り終り、
葉桜もまた趣を異にして、
なかなかに美しい。
そんな桜の根と根の間に、先ず、
六郎が腰を下ろし幹に背を預けた。
続いて根を一本挟んで、
隣の根と根の間に嘉兵衛が腰を下ろし幹に背を預けた。
「まだまだ夏は先とはいえ、
さすがにこれだけ走ると暑くてたまらんな」
「そうですね」
ハァ、ハァ。
はぁ、はぁ。
「なんかあったのか?」
突然、幹の反対側から声をかけられた。
途端に六郎と嘉兵衛は立ち上がって、
桜の木から距離をとり、刀の柄に手を添え、
六郎が尋ねる。
「何奴?」
「おいおい、声をかけただけで刀に手をかけるってのは
どういう了見なんだ?」
「うるさい!いいから出て来い!」
先ず嘉兵衛が刀を抜いた。
それに続くように六郎も同じく刀を抜いた。
「物騒な奴等だなぁ。
俺の顔を拝みたけりゃあ、こっちに来ればいいだろ」
六郎と嘉兵衛はお互いの顔を見合わせ、
二歩程さらに距離をとり、
挟み込む形で徐々に反対側へと回り込んだ。