壱章/人斬り/挿話壱/柄じゃない男
時は幕末、此処京都では、
倒幕派の志士達と、新撰組という集団により、
毎日のように血が流されていた。
タッタッタッタッタッタッタッタッ、
ットットットットットットットット、
「嘉兵衛!こっちだ!」
「わかりました。六郎殿」
二人の男共は汗だくになりながら、
必死に何者かから逃げているようだった。
「どけぇい!」
どた~ん!
一人の男が嘉兵衛に押し退けられ、
地面に倒れ込んだ。
六郎と嘉兵衛は、その事を気にも留めず、
そのまま走り去って行く。
そこへ、一人の女子が駆け寄る。
「大丈夫?虎士郎ちゃん?」
「いててて、」
「まったく、名前は強そうなのに、
てんでだらしがないんだから」
女子は、ちょっと笑いながら、そう言った。
「待てー!」
「逃がすなー!」
六郎達が来た方向から、
数人の者共が追いかけて来た。
その者共は皆一様に、浅葱色の羽織を纏っていた。
新撰組の隊士達であった。
新撰組の隊士達は六郎達を追って、
あっという間に走り去って行った。
虎士郎が立ち上がる。
「お園ちゃん、ありがとう」
「どういたしまして。それよりも、さ。
虎士郎ちゃんも一応は、お侍さんなんだから、
もうちょっと、しっかりしなきゃ駄目よ」
「う~ん、僕はどうも、
お侍って柄じゃないようなんだよねぇ」
申し訳なさそうに虎士郎は、そう言った。