壱章/人斬り/挿話拾玖/誉める女
残暑の残る日差しの中、
虎士郎はお園と二人で京都の町を歩いていた。
「虎三郎ちゃんが、
三番隊の隊長さんになったんだってねぇ」
お園が言った。
「隊長の斉藤さんが何者かに斬られちゃったから」
虎士郎は何とも言えない表情で応えた。
お園は言葉が見つからず何も言えない。
「それにしても虎三郎はすごいや。僕とは大違いだ」
寂しそうに虎士郎が言う。
「そんな事言わないで、」
今度は虎士郎が言葉に詰まる。
「虎士郎ちゃんの優しいところが、
虎士郎ちゃんのいいところじゃない」
「慰めはいらないよ。
優しくたって何も出来やしないんだ」
虎士郎は俯いて立ち止まってしまった。
「虎士郎ちゃんの馬鹿!
私は慰めてなんかいないわよ!」
お園は立ち止まった虎士郎に体を向け、
少し怒ったように言った。
虎士郎は何も言えず、俯いたまま微動だにしなかった。
「人を斬る事がそんなに偉い事なの?」
虎士郎はまだ何も言えないでいた。
「だったら虎次郎様を斬った人は、
斉藤さんを斬った人は、
そんなに偉い事をしたって言うの?」
「そういうわけじゃないけど、でも、」
虎士郎はそこで言葉に詰まった。
「でも、何!?、
人なんて斬れなくたっていいじゃない」
虎士郎はまた何も言えない。
「子供達と遊んでいる虎士郎ちゃんが、
私は素敵だと思うよ」
「ありがとう」
虎士郎は俯いたまま一言だけ応えた。




