壱章/人斬り/挿話拾肆/遊びたがる男
その男はとても大きかった。
さらに額から左頬にかけて大きな刀傷がめだっていた。
黒谷天竜である。
天竜は岡田以蔵と名乗る男に向かって、
「俺も弱虫なんだよな。だから俺の相手もしてくれよ」
悪戯っぽく言い放った。
それを聞いた虎三郎は天竜に言った。
「此処は僕に任せて下さい。
そいつは兄の敵かもしれません」
「いや、そいつは違うぜ。
ついでに言うなら、岡田以蔵ってのも嘘だろうぜ」
以蔵を名乗った男は、
二人のやり取りを用心しながら見ていた。
「そうなんですか!?」
虎三郎は天竜に問うた。
「だからよぅ、
敵をくれてやる代わりにこいつは俺が頂くぜ」
「わかりました」
虎三郎は言いながら、
以蔵と名乗る男から少し距離をとった。
天竜は以蔵と名乗る男に向かって、
「というわけだ。続きは俺と遊んでくれよ」
楽しそうに言う。
以蔵と名乗った男は虎三郎にも注意を払いながら、
天竜と向き合う形へ向きを変えた。
そして今度は両手で剣を握って構えた。
表情にはもう笑みは無かった。
天竜はすぐさま、何の躊躇もなく、
以蔵と名乗る男へと斬り掛かって行った。
以蔵と名乗った男は両手で握った剣で、
天竜の剣を受けにいった。
勝負は一瞬で片が付いた。
以蔵と名乗った男の剣は折られ、
そのまま首を撥ねられていた。
地面に折れた剣の切っ先が刺さっていた。




