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ブルースターズ  作者: 彩坂初雪
第五章
20/23

信じてる

 次の月曜日。

 俺は普通通りに登校した。

 周りではおはようという声が聞こえるが、俺はまだ誰にも言っていない。前島はまだ登校して来ていないし、綾も、自分のクラスにいるようだった。

「椎歌、よっす」

「おう」

 程なくして、前島が来た。

 先日のことをまとめて「すまなかった」と謝り、いつもと同じ他愛のない会話を始める。

「そういや今日って英語の小テストあるんだっけ?」

「あるんじゃないか? でもあの先生のことだから、どうせ教科書からなんて出さないだろうけどな」

 十五分ほど話したが、綾の話題はなかった。



 昼休みを過ぎても綾はうちのクラスには来なかった。

 最近、放課後は部室で過ごしているようなのでこの調子だと今日は話せなさそうだ。できれば今日のうちに話しておきたかったが、綾だけでなく、花波さんとも顔を合わせづらい。文芸部の部室へは行きたくなかった。明日にでもすぐ会えるだろう。





 火曜日。

 朝、うちのクラスのドアを開いて中を見回す。

 綾の姿は、ない。

「ま、昼休みにでも来るだろ」

 特に気にせず、自分の席に着く。

「おっす椎歌」

「よう前島」

 前島と、普通通りのあいさつ。

 そのまま適当にだべり、朝のショートホームルーム開始。



 昼休み。

「来ないな……」

 終了五分前になっても綾は姿を現さない。これは今日もダメなパターンか?

「椎歌から行ってやればいいのに」

 前島も、俺が気にし始めてるのが分かったようで、声をかけてくる。

「それは無理。あっちが謝りに来るのが筋ってもんだろ?」

 結局、会えずじまい。





 水曜日。

 いつもより早く学校へ着いてしまう。

 少しだけ期待してドアを開ける。まず、自分の席の辺りに目をやった。綾はいない。ざっと教室中をぐるっと見回してみるが、やはりいない。

「おっす。なんだ? そんなとこで突っ立って」

「おっす。別に理由はないよ」

 前島に少しだけにやっとされる。もう気になってるの完全にばれてるな。



 昼休み。

「だから、行ってやれば良いだろ? たぶん来にくいんだよ」

「嫌だって」

「じゃあ、そんなそわそわすんなよ」

「してないし」

 どうしても、ドアが開く度にそっちの方に目がいってしまう。口では気にしてないと言っても全く信憑性がないのが自覚できるレベルだった。

 しかし、この日も綾は姿を見せず、会うことはできなかった。





 木曜日。

 ここまで来るとさすがに俺も不安になってくる。

 今まではケンカをしても次の日か、一番長くて三日以内くらいにはなにかしらのアクションをお互いに起こしていた。しかし、既に四日目。いや、行ったのは土曜日だから正確には五日目か。

 綾と別れるなんてことはあり得ないと思う。むしろあってはならないとすら思う。

 けれど、実際に四日以上経過し、あれ以来一言も口を聞いていない。


 異例、だった。


「早く来いよな……」

 クラスに綾の姿がないのを確認して不安とも怒りとも言えないものが襲ってくるのを感じた。前島と二人の朝、というのは決して珍しいことではないけれど、そこに居てもおかしくない人間がまるっきり姿を見せないととても寂しく感じる。

「椎歌、そろそろ意地張るのやめて行かないと、本気でマズイだろ」

 前島の声にも真剣味が濃くなっている。

「直接会わなくても、朋野さんにメールして綾の様子を聞くとかちょっとは動いた方が良いんじゃないか? アドレスは教えてもらってあるんだろ?」

「そうだけど、なんでこっちから動かなきゃならないんだよ」

「そんなこと言ってる場合か。もしこれで――」

「だから、それもあり得ないって!」

 声を大きくして反論するが、説得力がないのくらい分かってる。

 だけど、信じたいんだ。

 綾が、この程度のことで尻込みして俺と別れるなんてことを選ばないと。



 昼休み。

「なあ、椎歌」

「ん?」

「本当に、綾とお前ってそう言い切ることができるくらいの仲なのか?」

 もふっとクリームパンを頬張りながら前島が訊いて来た。

「……そうだと思うよ」

「なら、こっちに来たくても来れない理由があったりするって可能性はないのか? 例えば作品書きがすごく忙しいとか」

 作品書き……そういえば文芸部の部誌の〆切がそろそろなんだっけ?

 それもあるかもしないけど、でも。

「いや、それはないと思う。いくら作品書くのが忙しくても、綾がこっちを放っておくなんてことしないはず。野球部時代も、自分のことそっちのけで手伝いとかしてくれてたし、たぶんない」

「そうか。なら、なんでだろうな?」

 昼食はほとんど喉を通らなかった。

 綾との仲が壊れそうになっている。

 その事実に俺は想像以上に不安を感じていた。


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