子供部屋おじさん、社会復帰を決意する
40歳、子供部屋ニートおじさん。
名前は鈴木 亮太。
親に泣かれた。
「……当たり前だよなぁ」
お風呂に入った後。子供部屋……実家の自室にて、ベッドに寝転がりながらそんなことを呟いた。
面と向かって泣かれたわけじゃない。
ただ、1階で60後半の母と、60後半の父が泣いていたのが、聞こえてしまったのだ。
感動する映画を見て泣いた……というわけでは、明らかにない。
普通に母親の「ううう、亮太が心配で心配で……」と嗚咽していたので、ヤバいやつである。
胸が苦しい。
罪悪感と情けなさでどうにかなりそうだ。
「はあ。40にもなって、俺はなにしているんだ……」
言い訳だが、5年前まではバリバリのサラリーマンとしてしっかり働いていた。
しかし経営難によって、会社が倒産。
さあ転職するか、となるはずが……どこか精神的にぽっかり穴が開いたというか、燃え尽きたというか、萎えてしまった。
とりあえず空白期間入れてから、転職しよう、と思ったのがさらなる悪循環を生んだ。
気がつくとまた働こう、という気がなくなり、実家でニートを5年続けた。
子供部屋おじさんの爆誕である。
意外にも、時間の流れは早くここまであっという間だった。
両親はめちゃくちゃ優しく、鈴木が働かないことを叱らず、好きにすればいいんだと受け入れられている。
が、良いわけがなかった。
両親は泣いていた。
というか、今まで鈴木に見せなかっただけで、きっと前から泣いていたのだ。
「俺はバカで、人間のクズだな……どうしようもないやつだ……」
そもそも40歳というのは、自立しているどころか、子供を育て家を買い、落ち着いている人も多い年齢だ。
実家暮らし自体は悪いことではないが、働いていないのはさすがにまずい。
正直、楽な生活に慣れた。
体はもう、怠けて寝る生活が染みこんでいる。
しかし……このままでは、いけない。
「……よし。決めた」
40歳の子供部屋おじさんが、社会復帰を決意した瞬間である。
☆
次の日の10時から、さっそく出かけた。
外へ出ること自体は、慣れている。
ニートだがいっちょ前に、朝のランニングが趣味なのだ。
体力もそれなりにはある。
そういうのもあって、彼が電車とバスを乗り継いで向かったのは――最寄りの“探索者協会”であった。
そう。彼が次に選んだ仕事は、“探索者”なのだ。
今から120年前。
地下に突如として、“ダンジョン”が現れた。
RPGのような世界のそこには、ロマンと宝に溢れていた。
ダンジョンに現れるモンスターは次世代エネルギーとなる魔石を落とし、人々はステータスを得た。
もちろん、命がけの危険な仕事だが――手っ取り早く稼げるようになる仕事ではある。
同時に、上手く行けば高所得になれる可能性もあった。
そして……これが一番の理由なのだが。
興味があった。
ニート時代、よく見ていたのは探索者による“ダンジョン配信”であった。
ドローンを飛ばし、ライブ放送してダンジョン攻略の模様を配信するのだ。
実際のところ、ドローンを飛ばすのは事故やトラブル予防義務から始まった、協会による規定なのだが……結果として、インターネットで輝く配信者のごとく、探索者達を輝かしい仕事へと昇華させた。
そんなわけで、地下のダンジョンの上へ建てられた5建てのビル――探索者協会の受付へ行き、ライセンスを申請。
職員に案内され、2階で講座を受けた。
☆
探索者として心得や、ダンジョン法などなど1時間にも渡る説明を受けた後、ついにライセンスが発行された。
そして若い男性職員から鑑定スキル受ける。便利なもので、ステータスに目覚めていなくても、鑑定で事前に内容を確認ができるようだ。
職員は、おお、と声を上げた。
鈴木 亮太 LV1
HP 12
MP 10
攻撃 8
防御 8
魔力 8
精神 9
俊敏 7
スキル 炎魔法LV1 回復魔法LV1 超睡眠
「素晴らしいです。初期値の平均HP、MPは9、それ以外は5ぐらいなのですが、どれも平均以上。さらに最初から炎魔法、回復魔法という後衛もこなせる多様なスキル。おめでとうございます、これは才能がありますよ!」
「えっと……この超睡眠というのは?」
「お待ちください」
職員が手元のタブレットを操作した。
「データベースで検索したところ、該当なし。しかし睡眠をサポートするスキルはあるので、そういった類のものだと思われます。ユニークスキルですが、眠りが良くなる、という程度のものだと思いますよ。説明文も“最高の睡眠を得る”でしたから」
「はぁ……わかりました」
良い結果で嬉しかったが、たまにいるらしい“最強のユニークスキル持ち”というわけではないようで、そこはガッカリした。
(贅沢を言っちゃあ、いけないか。とにかく、早くまともな収入を得られるように、ここから頑張らないと)
職員と共に1階へと戻り、さてさっそくダンジョン探索……と、言いたいところだが、その前にここから近くにある探索者向けのショップへと向かった。
良い鑑定結果を貰ったので、気兼ねなく必要な道具を買うことが出来る。
幸い、サラリーマン時代は金を豪快に使っていなかったということと、実家暮らしはあまり金がかからない、というアドバンテージもあり、貯金は400万円ある。
道具は安いものから高級品まであるが、そこそこ優秀なものを買おうと決意した。
まず、武器としてダンジョン産金属の特殊棍棒12万円を1本。
防具も頑丈な素材で作られた、探索者向けのシャツ、ズボン、ジャケットで合計20万。
必須とされている、探索者協会推薦のドローン20万円。
そして1個5万円するポーション3つと、頑丈な10万円のリュックサックを購入した。
試着室で防具を着て、棍棒を細長い黒のケースに入れ、脱いだ服は協会のコインロッカーへと一時預けた。
そして再び協会へと戻り、受付の女の子にライセンスを見せる。
「お初の探索者様ですね。お1人で?」
「そうですね」
「お気をつけて。1階層のモンスターでも、攻撃はしてきます。データベースを見たところ、高ステータスの方のようですが、無理はなさらないでください」
「わかりました」
受付を通してもらい、奥の金属の扉を開ける。
広い空間。そして3か所に、階段が設置されている。
どこから降りても同じならしいが、真ん中の階段を降りていく。
自分の足音が木霊するのを聞きながら――再び、金属の扉の前へ到着。
そのドアノブに、手をかけた。
「……よし。やるぞ」
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