第1話 君は俺なんかと違って天才なんだから
師匠はよく言う。
「ポール——君は俺なんかと違って天才なんだから」
そのたびに僕は首を傾げている。
僕は辺境の田舎にある平凡な農家の息子だ。
学もなかったし、父さんの手伝いしかしてこなかったし、そもそも魔法も使えなかった。
師匠に教わるまで、僕はひとりで魔獣を討伐することさえできなかった。
そのことでお礼を言うと、
「俺は基礎的な理論しか教えてないよ。実践できたのは君に才能があるからさ」
と師匠はいつもカラカラと笑う。
褒めてくれるのは嬉しいけれど、僕にはお世辞にしか聞こえない。
だって僕がやっとの思いで仕留めた巨大猪を、師匠なら寝起きすぐにでも片付けてしまうのだから。
——もう60は過ぎているはずなのに。
しかも師匠は村はずれにひとりで住んでいて、この村を襲ってくる魔獣たちをバッタバッタと倒してしまう。
僕がその歳になったらきっと畑に出るのもやっとだろう。
それに村の設備だって、ほとんど師匠の発明だ。
水洗トイレができた時は村中お祭り騒ぎだった。
本当にすごいのは、師匠の方だ。
だから、秋に王都で開かれる収穫祭へ村の作物を届けに行くことになったと話した時、
「せっかくだし王立魔法学園の入試でも受けてみれば?」
と師匠に言われたが、僕は首を横に振った。
とんでもない。
王立魔法学園は、基本的に貴族の子供が通う学校だ。
平民にも特待生枠があるが、その試験は王国で一番の難関だ。
師匠だって若い頃、一度落ちたことがあるらしい。
師匠でダメなら王都には師匠よりもすごい人がいくらでもいるってことだ。
僕はまだ師匠に全然及ばない。
そんな僕なんかが試験を受けたって恥をかくだけだ。
そんなことを師匠に言うと、師匠は寂しそうに笑った。
「確かに俺はチートを授からなかったからな。社畜時代に読み漁った本の知識があるだけで……俺よりすごいやつはいるだろうな」
ちーと? しゃちく?
師匠はたまに変なことを言う。
「でもポールには才能がある。それに試験は誰だって受けられる。ダメで元々。記念だと思って受けてみるのもいいんじゃないか?」
「師匠がそこまで言うなら……」
僕は渋々頷いた。
★★★
家に帰ると、さっそく僕は父さんと母さんに試験のことを話してみた。
「へぇ〜。ハーゼン先生がポールにねぇ」
「うん。ダメだよね? 母さん」
どうせ反対されるだろうと思って、半ば世間話のつもりだった。
「いや。いいんじゃないか?」
ところが予想に反して父さんはあっさり頷いた。
「作物の献上が終わったら俺たち大人は飲むだけだからな。そんなところにいても暇なだけだろ?
だったら暇つぶしに受けてみてもいいんじゃないか?」
——いや。僕は収穫祭を楽しもうと思ってたんだけど……。
「受験料もラルフさんが出してくれるんだろ?」
「うん。師匠はそう言ってたよ」
ラルフ・ハーゼン。それが僕の師匠の名前だ。
「だったら問題ないさ。それにもし合格したら俺も鼻が高いってもんさ。村の誇りだ。ガッハッハッ!」
父さんは酒杯を片手に高笑いする。
まったく。父さんは調子がいいんだから。
父さんも母さんもどうせ受からないと思っているらしい。
合格したらラッキー程度。
宝くじを買うようなノリだ。
でも、だからこそ僕も決心がついた。——というより気が楽になった。
元々受かるわけがないんだ。
どうせ王都に行くんだし、土産話として記念で受けてみるのもいいかもしれない。
そう考えると、僕は次の日、師匠に受験すると伝えに行くことにした。
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