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ト

春は、人に約束をさせる。


『また来年も一緒に桜を見ようね。』


たった一言。


それだけで、人は来年が当然あるものだと信じてしまう。


季節は巡る。


想いは募る。


伝えようとして、飲み込む。


失うことを恐れた時間さえ、今となっては愛おしい記憶だった。


卒業の日。


人混みの中で振り返った彼女は、少し照れくさそうに笑う。


『ずっと待ってたんだけど。』


その言葉で、止まっていた時間が動き出す。


『次の春は、恋人として隣にいてくれる?』


答えは、笑顔だった。


二人はようやく同じ未来を見つめ始めた。


部屋には静かな時計の音だけが響く。


一秒。


また一秒。


誰も気に留めない秒針の音は、すべての人間に等しく時を刻む。


挿絵(By みてみん)


私は、その音を聞いていた。


人は時間が味方だと思い込む。


だが、時間は誰の味方でもない。


約束も。


恋も。


来年の桜も。


時計はただ、終わりへ向かって進み続ける。


そのことを知っていたのは、私だけだった。

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