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第176話:消えゆく焚き火

工房の中は、息が詰まるほどの圧倒的な熱気に包まれていた。


中心で黄金の輝きを脈打たせる琥珀色の結晶「太陽ソル」。


それを組み込んだ新型の冶金炉は、限界を超えた出力で稼働し続けている。


ノズルからは純粋な熱エネルギーの指向性ビームが噴き出し、周囲の空気が強烈な陽炎となって重く波打っていた。


私が図面を見直し、寸法の計算を繰り返している間も、工房のドアはほとんど閉まることがなかった。


ノアと彼の部下たちが、新たに見つかった洞窟から重いズック袋を絶え間なく運び込んできているのだ。


再びドアが軋み、息苦しい部屋にノアが入ってきた。


ドスンッ!


彼はパンパンに詰まった二つの袋を敷居の前に無造作に放り投げた。


中から、キラキラと輝くラピスラズリの欠片がこぼれ落ちる。


「おい、アイアン」


ノアは手の甲で汗ばんだ額を拭いながら呟いた。


「連中がまた青い鉱石を掘り出したぜ。どこに置く?」


「ああ、そこに置いておいてくれ……その隅に」


私は顎でしゃくり、同じような袋が山積みになっている場所を指した。


キャンプが完全に深い夜の闇に包まれる頃、冶金炉はようやく長く尾を引く唸り声を上げて停止した。


内部の「太陽」の結晶がゆっくりと輝きを失い、冷却モードへと移行していく。


私は疲労でヒリヒリと痛む目をこすった。


作業台の周りには、これから建造する塔のコンポーネントが規則正しく並べられている。


計算は完璧に一致した。


エネルギーネットワークの構築は完了している。


私は窓の外を見た。


キャンプは漆黒の闇に沈んでいる。


(さあ、塔を建てるか――)


その思考が形になるより早く、目の前にネオンブルーの警告インターフェースが鋭く展開された。


【戦術状況分析】


照度:危機的低水準(0.5%)


組み立てリスク:高。暗所での不適切な動力ノードの接続は、『オーシャン』コアの暴走デトネーションを誘発する恐れあり。


推奨:最終組み立ては日の出まで延期すること。


「……わかったよ」


私は小さく呟いた。


「夜明けにやろう」


工房に鍵をかけ、私はキャンプの中心へと向かった。


そこからは、焼けた肉の微かな匂いと、人々の穏やかなざわめきが漂ってきている。


中央広場では巨大な焚き火がパチパチと心地よい音を立てて燃え上がり、ドルンハイムの夜の冷気を追い払っていた。


黄金の火の粉が、暗い夜空へと舞い上がっていく。


マレクがアルバートと静かに語り合い、クララはダーウィンと談笑しながら乾いた枝を火に投げ入れている。


労働者たちは、与えられた休息を楽しみながら、控えめな笑い声を響かせていた。


私は炎から少し離れた場所に車椅子を止め、串焼きにされたジューシーな肉を勢いよく頬張っていた。


隣の丸太にはノアが座り、水の入ったマグカップを揺らしている。


彼は狩猟ナイフで肉を切り分けながら、不機嫌そうに呟いた。


「で、その塔はいつ完成するんだ?」


私が答えるより早く、マレクの肩越しからエリリアが弾丸のように飛んできた。


「そう! その通り! いつなの!?」


彼女は甲高い声でまくしたてる。


「毎晩毎晩、飛び回ってキャンプをモンスターから守るなんて、もう本当にうんざり! 私にだって、もっと大事で偉大な仕事があるっていうのに!」


「今回ばかりは、こいつに同意せざるを得ないな」と、ノアが口を挟んだ。


クララとマレクは、突然の不満の嵐に静かな微笑みを浮かべている。


私は空になった皿を膝の上に置き、彼らをぐるりと見渡した。


「もう少しだけの辛抱だ」


私は落ち着いた声で言った。


「明日の夜明けと共に組み立てを開始する。合金はすべて完成し、フレームも鋳造済みだ。動力ノードの計算も終わっている。もうすぐ全てが変わる。夜も眠れずに、化け物から境界線を守る必要はなくなる」


エリリアは勝ち誇ったように鼻を鳴らし、優雅にクララの肩に降り立った。


しばらくして、焚き火の勢いが弱まってきた。


会話も途切れがちになる。


怒りっぽかった精霊は、とっくに機嫌を直していた。


私の目の前で目に見えない気流に乗って漂いながら、彼女は退屈そうに私を観察していた。


その時、ふと彼女の視線が、私の着古したジャケットの襟元に止まった。


エリリアは顎にぶつかりそうなほど急接近すると、驚いたように小さな指で私の首元を指差した。


「アイアン、あなたがいつも身につけてるそのお守り、何?」


彼女は不思議そうに首を傾げた。


「私が出会ってから、一度も外してるのを見たことない。すごく古そうだし……あなたの作ってる『エンジニアの道具』とは全然違うみたい。私もそういうのが欲しい! 私にも似たようなの作って、お願い!」


私の指は本能的に首元へ滑り、服の下にある、年月と汗で黒ずんだアミュレットを探り当てた。


「……お前には作ってやれないよ、エリリア」


手のひらの中でその金属を軽く握りしめ、私は静かに呟いた。


「これはただの飾りや機械じゃない。贈り物なんだ。昔……ずっと昔に、古い友人が私にくれた。正直、そいつが今も生きているかどうかすら分からない。だから……」


「わかった、もういいわ」


エリリアはぷいっと顔を背けた。


「お守りなんかいらないもん。でも、私に噴水を作ってくれるって約束したよね! それと、永遠の薔薇の庭も!」


(そんな約束をした覚えは全くないんだが……まあいいか)


頭の中に、皮肉めいた思考がよぎる。


「忘れてないよ」私は口に出して言った。


「塔と基本的な防衛設備が完成したら、お前の噴水と庭に取り掛かろう」


「いつもそうやって後回しなんだから!」


彼女はすねたように言い捨てると、闇の中へ飛んでいった。


私は車椅子に座ったまま、焚き火の消えゆく熾火が踊るのを静かに見つめていた。


心の奥底で、声なき独白がこだまする。


(……お前が望んだ通り、私は心を持たないゴーレムにはならなかったよ)


消えかけの焚き火を囲んで、再びたわいない会話が始まった。


沈黙を最初に破ったのはマレクだった。


彼はよっこらせと重い腰を上げ、ポキポキと関節を鳴らしながら大きく伸びをした。


「よし。夜も無限じゃない。明日は歴史的な一日になる。力を蓄えておかねぇとな。みんな、もう寝るぞ」


「あら、避難民のくせに随分と偉そうに仕切るじゃない」と、クララがニヤリと笑う。


「おい! お前なぁ……」


マレクはバツが悪そうに呟いた。


「冗談よ、冗談」


クララは笑いながら、彼の背中を親しげにポンと叩いた。


「あなたの言う通りね。休まなくちゃ」


一分もすると、人々はそれぞれの場所から立ち上がり始めた。


静かに「おやすみ」と声を掛け合いながら、それぞれの家路へと散っていく。

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