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97.秘密を暴いてみせましょう




「えーーーー⁉」



 部屋に響き渡るネリの絶叫。



「ろろろ、ローザが、フィーお嬢様の専属メイドに⁉」


「ええと、まあ……はい……」



 私はごにょごにょと呟きます。

 フィー=エメルはネリにとって憧れの人。専属メイドとなることは、きっとネリの夢だったでしょう。



「すごいよ!」



 きまり悪さに縮こまっていると、ネリは私の手を握って目を輝かせました。



「さすがあたしの教育の賜物……じゃないや。さすがあたしの友達だよ! おめでとう! ひゃぁぁっ、うれしい! うれしいなぁ!」


「あ、それは本当に、ネリのおかげです」


「あはは、冗談だよ。ローザの実力だって!」



 う、そんな反応をされると余計に罪悪感が……。

 ゼトにもさんざん言われたあとですし……。



「でもさ、お付きメイドって部屋替えまでしなきゃいけないんだ?」


「……そのようです」



 ベッドの下から自分の荷物を引っ張り出し、私は苦笑しました。



『今夜からこの寝室で一緒に寝泊まりしてくださいね』



 そう命じられましたので。

 抵抗は試みたのですが、フィーが満面の笑みで同じセリフを繰り返すので、結局従わざるを得ませんでした。



「そっか、寂しいなぁ。……ってその顔どうしたの⁉」


「これですか? 壁にぶつけたんです。転んで」


「えぇっ⁉ ローザも転ぶことあるんだ」


「あ、ありますよ。それはもちろん」



 湿布が貼られた頬を慌てて髪で隠します。

 それから、私はネリに向かって手を差し出しました。



「さきほども言いましたが、こうして曲がりなりにも一人前に働けるようになったのはネリのおかげです。部屋は離れますが、これからもどうぞ仲良くしてくださいね」


「……っ、当たり前じゃない!」



 目を潤ませたネリが抱きついてきます。

 どこまでもまっすぐな彼女に思わず笑みがこぼれるのを感じながら、私はその体を抱きしめました。



「ありがとう。ネリ」






 フィーの専属メイドとしての仕事がはじまりました。

 ……といっても、隣に付き従っているだけなのですが。

 ドレスの着付け。食事の給仕。スケジュール管理。そういった仕事については先輩メイドが万事てきぱきとこなしていて、新米の私には入り込む隙がありません。

 唯一自信があるのは掃除ですが、お付きのメイドはそういったことをしないらしく、掃除道具を探していたら笑われてしまいました。

 その代わりというか、フィーはどこにでも私を連れて歩きました。

 礼拝、慰問、散歩、お茶会、お風呂に至るまで。片時も離れないとはこのことです。

 そして私がすることといったら、ただひたすら彼女のそばに突っ立っているだけ。



「ご苦労様です。ローザ」



 虚無感に襲われている私を見て、フィーは労わるような笑みを浮かべました。



「お嬢様。これは仕事というのでしょうか……?」


「もちろんです。『ずっと一緒にいてください』って、私からお願いしたんじゃありませんか」


「………」



 やはり腑に落ちないというか、彼女の狙いがわかりません。

 そう思う一方で、これは降って沸いたチャンスだという気持ちもあります。

 彼女と共に寝起きし、彼女と共に一日を過ごす。

 お兄様との婚約破棄が目的である私にとって、これほど有利なポジションもないでしょう。

 ……ふむ。

 ここはひとつ、彼女の秘密を暴くべく動いてみましょうか。



「フィーお嬢様」


「はい」


「ひとつご提案があるのですが」


「まあ、何かしら?」


「専属メイドとして、もっとお嬢様のことを詳しく知りたいと思います。そうすれば、よりふさわしい行動が取れるようになるでしょう。ですからどうか、お嬢様についてお尋ねする機会をいただけないでしょうか?」


「……! そんなふうに考えてくれていたのですね。ええ。ローザの助けになるなら、なんでも聞いてくださいな」


「ありがとうございます」



 ……あなたならそう言ってくれると思っていました。

 それから移動時間やお茶に付き合わされるときなど、私はフィーに向かって質問をするようになりました。



「お好きな色はなんですか?」


「ご家族で一番仲がいいのはどなたですか?」



 毒にも薬にもならない質問から始めて、徐々に内容を深めていきます。

 フィーはだんだん質問されることに慣れてきたのか、少しくらい砕けた質問をしても笑って答えてくれるようになりました。

 そして、専属メイドになって三日目。

 孤児院へ向かう馬車の中で、私は一歩踏み込むことにしました。



「フィーお嬢様」


「はい。今日はどんな質問ですか?」


「お嬢様は──誰かに恋をしたことはありますか?」




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