98.破滅級の誤解が生まれているのですが
「恋……ですか?」
フィーが戸惑ったようにこちらを見ます。
「今日はずいぶんロマンチックなことを聞くんですね」
「はい。お嬢様のことをよりよく知りたいので」
清廉潔白なフィーお嬢様。
これまで浮ついた噂が一切ないことは調査済みですが、だからといって本当に何もないという証拠にはなりません。
ほんのわずかでもいい。男の影を見つけることができれば。
あらゆる手を使って、その情報を社交界に拡散してさしあげます。もちろん盛大な尾ひれつきで。
そう。お兄様との婚約がめちゃくちゃになるまで──
「ありません」
あっさりした回答に、私は心の中でがくっとうなだれました。
「本当に? 一度も……?」
「ありませんね」
「で、では、ゼト様のことはどう思いますか? 元許婚ですよね?」
苦しまぎれに尋ねます。
ペンダントのやり取りといい、容赦ない平手打ちといい、あまり見込みはなさそうですが。
…………あれ?
フィーの顔がほんのり赤く染まっています。
これは。
まさか。
脈……あり?
「お嬢様、もしやゼト様を──」
「もう、だめよ、ローザったら」
彼女は慌てたように私をさえぎります。
「彼といい仲のあなたが、そういうことを知りたがるのはわかりますけど……!」
………………
………………
………………
………………
………………
………………いい仲?
「何の話ですか?」
「だって、この前、庭で……」
「庭で?」
「彼と逢引きしていたでしょう?」
「⁉」
あれのどこが逢引きに見えるのですか?
私、勢い余ったとはいえ殴られたのですが。
「お嬢様、それは完全なる誤解──」
「いいんですよ。私の前では隠さなくても」
「ですから違──」
「ゼトのようにプライドの高い人が、使用人のあなたと人目につかない場所で会うというのは、つまり、そういうこと……だと。あの、私。ちゃんとわかっていますから」
どうして恥ずかしそうに目を伏せるのですか⁉
さっきからまったく人の話を聞いてくれませんし⁉
そして、私はあることに気づいて愕然としました。
『私が責任を取ります』
あのとき、フィーが発した大げさな言葉。
あれは──
『あなたのことは、私が守ります』
つまり──
そう、いう──?
「でもね、ローザ」
顔を上げ、急にまじめな口ぶりになって言います。
「彼はカフラーマ連合国の盟主となる人。いずれ身分の釣り合う女性と結婚することになるでしょう。これ以上関係を続けても、あなたが苦しむだけです。今のうちに距離を置いたほうが、あんなふうにいがみ合うことも……」
ああ。
フィーにとってこの前のことは。
ゼトが情婦である私と痴話喧嘩した──『私の体を弄んだのね!』『本気にするほうが悪い!』『ひどい、ひどいわ!』『うるさい離せ!』みたいな──と思われていたわけですね。
……えーと。
軽く想像しただけで吐きそうなのですが。
「とにかく誤解です! 私はただ、お嬢様の恋のお話が聞きたかっただけで──」
「そうなのですか?」
「そうです!」
「……別に、話せるほどのことはありませんよ」
ふと寂しげな笑みを口元に浮かべて。
フィーは穏やかな声で言いました。
「誰かを好きになる資格なんて、私にはないですから」




