表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/173

94.恋愛フラグを立てましょう




「…………………」


「聞こえませんでしたか? あなたには、フィーと駆け落ちを」


「いや待て待て待て!」



 耳の先まで一瞬で真っ赤になったゼトが叫びます。



「どうしてそうなる⁉」


「? きわめて平凡な発想だと思いますが。お兄様とフィーの結婚を阻止する手段として、このうえなく直接的な──」


「そういう問題じゃない! 嫌いな男と駆け落ちする女がどこにいる!」


「嫌いな男?」



 怪訝な顔で聞き返すと、ゼトは目を閉じて深く息を吐き出しました。

 気持ちを整理するような間を置いてから、言います。



「フィーは俺を嫌ってる」


「なぜそう思うのですか?」


「誰がどう見たって、俺はあいつにとって邪魔者だ。幼いころに大人の都合で許婚にされて、将来は知り合いなど一人もいない国へ嫁がなきゃならないところだった。あの公爵のおかげで俺との婚約が解消されて、今ごろほっとしているだろうよ」


「………」



 フィーと初めて会った時のことを思い出します。

 あのとき、彼女はゼトの暴力から私をかばってくれました。ですがそのあとの会話では、反対にゼトをかばっているようにも見えました。



「嫌われているか……は、わかりかねますが」



 私は腕組みしてゼトを見上げます。



「少なくとも、好きになってもらう努力をするべきでは?」


「それは……そうかもしれないが……」


「わかりました。作戦を考えます」


「作戦?」


「要は、フィーがあなたを好きになればよいのでしょう?」



 私は自信たっぷりに微笑みます。

 そんなことが可能なのか?

 そう思っていらっしゃる顔ですね。

 侮っていただいては困ります。この世界のフラグ建築に関して、私の右に出る者はいないと自負しております。

 あなたとフィーの恋愛フラグ──

 この私が打ち建ててさしあげましょう。






 私が提案したのは、原作『アストレア帝国記』に出てくる恋愛劇の模倣。

 ゼトに合うよう、ぶっきらぼうな騎士のエピソードを選びました。


 ──放浪の騎士ジークは美しい令嬢エリシャに出会い、ひと目で恋に落ちる。しかし武骨な彼は正面から彼女を口説くことができない。

 あるとき、エリシャは騎士の持つ飾り石に目を輝かせます。自分もそんな綺麗な石がほしい。無邪気にそう言う彼女に、ジークは身に着けていた石を外して贈りました。

 守護石は、騎士が命と名誉の次に大切にするもの。本来ならば死ぬまで肌身から離さないものですが、騎士は彼女の喜ぶ顔を見て満足します。

 この石がどんな災いからも、愛しい女性を守ってくれるように。そう願いながら。

 騎士が旅立ったあと、エリシャはその石がどれほど大切なものだったかを知ります。彼女は石を握りしめ、騎士のあとを追いかけていき──


 と、このようなエピソードなのですが。それにしても原作のエリシャは恋愛爆弾をばらまいていますね……。

 ゼトは騎士ではありませんので、守護石は持っていません。

 ですから、そこは代替品になります。



「おい、フィー」



 ゼトがフィーを呼び止めるのを、私は物陰に隠れて見ていました。

 この世界は『アストレア帝国記』の中。

 転生者である私とエリシャによって原作の筋から離れはしましたが、設定やエピソードは利用できると考えています。たとえば、原作でエリシャの命を救った《霊薬》はティルトの体質改善に効果ががありましたし、私も命拾いしました。

 この仮説が正しいなら、恋愛エピソードも応用できるはず。



「お前に渡したいものがある」


「まあ。急にどうしたの?」



 フィーは目を丸くしてゼトを見つめました。

 一方ゼトは照れ隠しなのかわかりませんが、いつも以上に凶悪な顔つきになっています。



「ん」



 そう言って彼が差し出したのは、三日月のような形をしたペンダント。

 作戦を話したとき、彼は「それならちょうどいい品がある」と言っていましたが、あのペンダントのことだったのですね。

 フィーは不思議そうにそれを受け取ってから、はっとした顔で彼を見ました。



「これは……」


「昔、ほしいって言ってただろ。やる」


「え? でも」


「いいから。やる」


「でも、ゼト」


「やるって言ってんだろ!」



 ビリッと壁が震えます。

 ああもう。どうしてそこで吠えるのですか……。

 まぁいいでしょう。ちょっと強引ですが、ひとまず作戦の第一段階は完了して──



「いらない」



 と。

 ぞっとするほど冷たい声でフィーが言いました。



「もう子供じゃないの」



 今までの彼女からは想像もつかないほどの怜悧さで、



「こんなもの、もういらない」



 そう言い放ち、ほとんど投げ捨てるようにペンダントをつき返します。

 ゼトは一瞬呆けたように固まっていましたが、



「………ああ。そうかよッ!」



 叩きつけるように叫ぶと、ペンダントを握りしめてフィーに背を向けました。そのままずんずん歩き去ってしまいます。

 え、あれ、そんな。

 思わぬ展開に困惑したまま、私は離れていく二人を交互に見ました。

 ゼトが視界から消えても、フィーは同じ姿勢のまま彫像のように固まっています。

 なぜあんな言い方を……?

 私は迷ってから、ぎゅっとスカートの裾を掴み、ゼトのあとを追って駆け出しました。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ