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53.悪女はひそやかに笑う




「───答えは出たかね?」



 謁見の間に戻ると、皇帝テリオスが静かに尋ねてきました。

 何やらひと悶着あったらしく、フォルセイン王国の騎士と対峙した叔母が顔を真っ赤に染めています。もっとも騎士はいたって涼しい様子ですが。



「陛下」



 少々苦い顔をしていらっしゃるお兄様の隣で、私は答えます。



「私はシルバスティン家へ参りたいと思います」


「ああ、やっぱり! 私たちを選んでくれると信じていましたよ!」


「フラウ……!」



 感極まった声を上げるニーナ。愕然とするユリアス。

 私は彼らに向けて小さく首を振りました。



「いいえ。私は《白銀》を継ぐとは申しておりません」


「………え?」



 ぽかんとするニーナから視線を外し、再びテリオスを見上げます。



「私は三歳のころに《白銀》を離れました。もう……ほとんど覚えてはおりません。ですから、もう一度あの場所を訪れたいと思っています」



 それから私を囲む三人を順に見まわし、



「私が殿下と婚約をするとしても、《白銀》を継ぐとしても、隣国へ赴くとしても。豊かな穀倉地帯であるシルバスティンを訪れることはきっとよい経験になります。叔母上や従兄弟ともゆっくり話ができるでしょう。……騎士様とも」



 視線を止めてそう言うと、若い騎士は中性的な顔にやわらかな笑みを浮かべました。



「フィル……と。ただそうお呼びください。フラウ様」


「わかりました。では、フィル。私とともに母の生まれ育った土地へ来てくれませんか?」


「喜んで参ります。我が王女」



 フィルと名乗った騎士が優雅に一礼します。

 テリオスは含みのある目をしつつも、私の言ったことを肯定も否定もしませんでした。長い沈黙のあとにただ一言、



「ひとまずこれまでとしよう」



 そう言い残し、奥殿へと去っていきました。






 私はお兄様と一緒にフレイムローズ邸へ引き返すことになりました。

 シルバスティンに向けての旅支度を整えねばなりません。ニーナとフィルに一旦別れを告げ、領地での再会を約束します。

 花嫁道具としてここまで運ばせた荷物は無駄になってしまいましたね。

 ……それが心の中ではちょっぴりうれしいのですけれど。

 ユリアスは私に付き添い、馬車に乗り込むまで見送ってくれました。



「フラウ、大丈夫なのか?」


「はい、殿下。必ず叔母上を説得して戻ってまいります」


「ああ……」



 少し前までは晴れやかな笑顔だったユリアス。今日が正式な婚約日となると信じて疑っていなかったのに、今ではどうしようもなく途方にくれた顔をしています。

 不安げに揺れる黄金の瞳で、



「信じてよいのだな?」



 と呟く彼に、



「はい」



 私はやさしくうなずいて馬車に乗り込みました。

 馬車が走りはじめてすぐにカーテンを閉め、するりと向かいの席に滑り込みます。

 すべての緊張から解放され、崩れるようにもたれかかる私を、お兄様がそっと抱き留めてくださいました。



「うまくいくと思うか?」


「………はい」



 目を閉じ、髪を梳くお兄様の指の感触を味わいます。



「当主を交代させようだなんて……シルバスティン家も一枚岩ではないでしょう。私が内部に入り込み、何もかもめちゃくちゃにしてさしあげます。あのフィルとかいう騎士も、幻滅して王国へ帰ることになるでしょう」


「そう簡単に事が運ぶかな」


「運んでみせます」



 お兄様の胸にぎゅっと顔を埋めます。

 息を吸い込み、私は小さく笑いました。




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