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51.私はあなたのお人形がいい




 用意された控えの間は大きな二間続きで、二人の人間に対してあまりに広すぎました。壁と距離があるので、盗み聞きされる心配はなさそうですが。

 L字型のソファーに私とお兄様は斜めに向かい合い、少しひざを寄せるようにして座りました。



「シルバスティン家がこれほど強引な動きに出てくるとはな」



 額に手を当て、忌々しそうにお兄様が呟きます。



「私も驚きました。ニーナ叔母様があんなことを考えていたなんて」


「実は、お前を養子にしたいという話はこれまで何度かあった」


「……そうなのですか?」



 初耳です。

 再婚する母とともにフレイムローズ家へ移る際、私をシルバスティン家に残さないかという話が出たことは知っていましたけれど。



「現当主のティルトは幼いうえに体が弱い。子孫を残さないまま没する可能性もある。それよりはすでに成人しているお前を当主に迎え、家を存続させたいというのがあちら側の意向だろう。だが……」



 お兄様が苦々しく言葉を切ります。

 ……そうですね。

 《白銀》の当主になったとして、私は《真紅》で育った人間。あちらの親戚の名前も、臣下の顔もわかりません。

 私がシルバスティン家を継ぐ。それはすなわち叔母であるニーナの操り人形になるということ。叔母が私に望むのは《白銀》の血筋を残すために子を産むことだけ。そんな形ばかりの当主など願い下げです。

 同じ人形であるならば、私はお兄様の人形がいい。



「まさか同じタイミングでフォルセイン王国まで出てくるとは」


「お兄様は、私の出自を知っていらしたのですか?」


「……ああ」


「!」


「お前の母から聞いていた」



 お母様から。

 いつか夢で見た、お兄様とお母様が真剣に話している場面。あれはやはり現実にあったことなのですね。



「お母様はなぜ隣国の王子と……?」


「互いに一目ぼれだったと聞いている。当時、第三王子はお忍びでアストレア帝国に来ていた。そのとき偶然知り合ったらしい。だがあいにく、どちらにも許婚がいた。それでやむを得ず駆け落ちしたのだと」



 お母様。昔はずいぶん情熱的だったのですね。

 そしてそのときの熱が忘れられなかった。

 いつだって遠くばかり見つめていましたもの。



「……私には話してくださらなかったのに」



 少し妬ましい気持ちで見つめると、お兄様は困ったように首をかしげました。



「あの人は王国を憎んでいた。だが、お前にとっては父親の祖国だ。どう話していいかわからなかったんだろう」


「憎んでいた?」


「ああ」


「結婚を認めてくれなかったから?」


「………いや」



 わずかな逡巡のあと、お兄様は息をつきました。

 その紅の目に冷たい光が宿ります。



「お前の父親を……殺されたからだ」




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