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Chapter 3  特報!今夏、公開予定!

スピカは映画づくりをキースへ提案した。けれど、キースは断った。


「私がどうしてそんなくだらないことをしないといかんのだ」キースは言った。

「このままでは、第4軍団は来春にも解散しますわね」


スピカはさりげなく第4軍団の財政状況が書かれたレポートをチラつかせる。


「魔王軍の他の軍団からの借金約3000万ゴルド。魔王軍に秘密でこっそり借りた中立系の国家からの借金約7000万ゴルド。借金総額1億ゴルド。

このままでは、由緒ある第4軍団は解体され、お城と配下たちは借金のカタにされますわ」

「その情報、小娘、どこで手に入れたっ!」

「パパは、宰相でしたもの。書斎から借りてきましたわ」スピカは資料を手に持ちながら、言った。


魔法の発展は、戦場を変えた。

かつては安い・多い・強い、とモンスターの花形であったアンデットも、全体攻撃魔法や聖魔法の発展に対応できず、その地位を急速に落とした。

今や、時代遅れのアンデット系モンスターを主力とする第4軍団は、魔王軍のお荷物であり、帝国や王国の草刈り場と化しているのである。

あちこちの利権をかけた戦いで敗北を繰り返し、そのたびに軍団の再建費用として金を借りるという最悪のパターンに陥っているのだ。


「映画をヒットさせたなら、1億ゴルドなんて一瞬で返済できますわよ」

「……そんなことが可能なのか」キースは、スピカの目を見た。

「任せなさい!このスピカを誰だと思っているの」


この日、のちに世界を揺るがすことになる契約が成立した。




アンデット・ロード、キースとの契約が成立して、はや1ヶ月が経過した。

ついに、王子主催のパーティーが開かれる時がやってきた。

 

グランツ王国第一王子、ウォルター・グランツ主催のパーティーは、別荘で開催される。

別荘は、王家所有のもので、湖に浮かぶ小島につくられた非常に優雅な館だ。毎年、第一王子は、この別荘でパーティーを開くのが習わしになっている。

今回のパーティーの話題は、1つに集中していた。

それは、婚約破棄だ。

宮廷では、スピカの父の支持者へ、粛清の嵐が吹き荒れている。生き残った側近たちも次々と逮捕されるか、寝返った。

すでに処罰されていない大物は、スピカだけだ。

第一王子の婚約者であり、不逮捕特権があるため、手が出せない。

が、それも今日で終わり。

パーティーに集まった貴族たちの前で、ウォルターが形式に沿った婚約破棄を宣言すれば、その瞬間からスピカは一般人だ。


周囲の予想に反し、スピカは国外亡命しなかった。

そして、堂々とパトリシア家の家紋を刻印した馬車に乗り、別荘へとやってきた。


別荘は湖の中央部に位置する小島にあり、陸地側から長い橋が島へと架けられている。

馬車がぞくぞくとやって来ては、橋を渡っていく。

スピカの馬車が橋を渡っていると、突如、他の馬車が乱暴に横付けしてきて、スピカの乗っている馬車が横転しそうになる。


「無礼者!何をするか!」


御者をしていたドランが怒鳴りつける。負け犬の遠吠えにしか聞こえず、没落した令嬢は実に惨めだ。


「あら?これはスピカ様ではありませんか」

 

ぶつかってきた馬車の窓を開いて、顔を出したのは、ショートヘアの女性だ。


「まだ、スピカ様が第一王子であり私の愛しいグランツ様の婚約者であることをすっかり失念しておりました。

忘れていなければ、こんなご無礼を働きませんでしたのに。ふふふ………」

「……ユリカ・クリスティーヌよ、忠告するわ。こんな真似を続けていれば、いつかしっぺ返しを受けますわよ」スピカは言った。


ユリカは、王子の寵愛を受けている女性だ。物怖じしない態度を王子に気に入られ、あれよというまにウォルター王子といい関係になった。王国の経済を握る大富豪家の出身である。はっきり言えば、スピカの上位互換である。

婚約破棄モノでありがちな、王族なのに自分の恋愛を優先して、傾国の美女に手を出して、国政を無茶苦茶にする展開ではない。

ウォルター王子は、恋愛を楽しみつつ、自分の政治的地位を強化していくという抜け目のないことをしている。


「あら、あなたと違って、アタシはうまくやるわよ。

それじゃ、残り数時間の婚約者生活を楽しんでくださいね、スピカ様」


ユリカの馬車は、ワザと水たまりに馬車の車輪を突っ込み、しぶきでスピカの馬車を泥だらけにした。


「スピカ様、お怪我はありませんか?」


慌てて、ドランが客車にかかった泥水をウェスで拭き取る。


「ふふふ……いい伏線ができたじゃない。フラグ設置としてはなかなか上出来よ」一人で、スピカはニヤニヤと笑っていた。

「ひえっ……」ドランは後ずさった。






あと5分で18時になる。そろそろパーティーが始まる時刻だ。

別荘は小さな館であるが、王族のために建てられたこともあって、豪奢なつくりだ。

壁が白く塗られたホールには、高価なカーペットが敷かれている。窓には装飾の施されたガラスがはめ込まれ、天井にはこの小さな館には不釣り合いなほどに、きらきらと輝く大型シャンデリアが吊るされている。


すでにホールには、パーティーの出席者たちが集まっていた。

王子主催のパーティーということもあって、野望に目を輝かせた青年貴族、良縁のきっかけをつかもうとする若い令嬢たちが、談笑していた。

そのなかに、パーティーに不釣り合いな一団がいる。スーツを着ているが、動作がどこか堅苦しく、黙っている一団だ。

王子の護衛という名目でパーティーに出席しているけれど、皆、分かっている。スピカを逮捕するためにやってきた宮廷警察だ。


「スピカ様だ……」

「本当にやって来られたぞ。亡命していなかったのか」

 

スピカの登場に会場はざわつく。

スピカは白いドレスを着て、悪びれる様子もなく堂々と入場した。


ゴーンゴーンと壁時計の鐘が鳴り、18時になった。出席者は、これから起こることを想像して、ソワソワしている。

むろん、この後に繰り広げられる惨劇を想像している者は、スピカを除いていない。


パーティーは、定刻どおりに始まった。


「乾杯の前に、皆に、伝えなければならないことがある」


ホールの奥に設置された壇上から、王子ウォルターは話し始め、スピカの父親の罪状について、並べ立てた。


「この瞬間を持って、ウォルター・グランツは、スピカ・パトリシアに対し、婚約破棄を申し入れる」グランツは、はっきりとよく通る声で宣言した。


「失礼いたします……」ドヤドヤと宮廷警察の一団が、スピカを逮捕すべく壇上に上がってくる。


「私は、宮廷警察のコールです。スピカ様、ご同行願いたい」コール刑事は、身分証を見せると、手錠をスピカへと伸ばす。


意外と、警察の動きが早い。とスピカは動揺する。

王子への捨て台詞をせっかく練習してきたのに、言う余裕がない。

このまま手錠をかけられては、せっかくのシナリオが破綻してしまう。それでは映画がつくれない。借金が返せないとぶちギレたキースに、殺されてしまうと、スピカは焦る。


「……最後に紅茶くらい飲ませてくれないかしら?独房では、嗜好品は禁止と聞いていますから」スピカはポーカーフェイスで、コール刑事に告げる。演技派女優だ。


「王子、いかがいたしますか?」コール刑事がウォルターに尋ねる。

「構わん。今は、他人になったとはいえ、元婚約者だ。最後のティータイムぐらい認めてやれ」


よっしゃあああああ!!!とスピカは内心ガッツポーズだ。甘ちゃんがぁぁぁぁぁ!!!最後に油断しやがった!


「ありがとうございます。王子、私からの手紙です。パーティーが終わった後に、お読みください」スピカは言った。


スピカはウォルターに手紙を渡した。ウォルターは一瞥すると、興味を持つことなくジャケットのポケットに乱暴に手紙をねじ込んだ。

スピカは一礼すると、ホールに面したスピカ用の休憩室に、ドランを連れて入った。


「さっきの手紙は遺書か?自害してくれると、こちらとしても都合がよいが……」ウォルターは、スピカの後ろ姿を見ながら呟いた。

「ふふ……悪いお人」ウォルターの腕を掴んだユリカは、指先でウォルターの肩をなぞりながら言った。


コンコンコンコン……壁時計の秒針の音だけが、ホールに響く。

おしゃべり好きの貴族たちも、今回ばかりは、シリアスな雰囲気に押され、誰も口を開かない。

ホールは沈黙に包まれたままだ。


「……遅いですな。15分たちましたぞ」コール刑事は、懐中時計を取り出して言った。


ウンドロメンド……ソジャ……ファオ……ダオ……


「何か、聞こえませんこと?」ユリカは耳に手を当てて言った。


リータソ・ピン・ツハツ・シャン・リ……


ゴーン、ゴーン、ゴーン。突如、壁時計の鐘が鳴り始める。

しかも、通常の振り子運動ではありえないスピードで、連続で鳴り響き始める。

ありがとうゴースト君。壁時計の内部に潜んでもらっていたゴースト君が、がんばって鳴らしているのだ。


窓の外には、綺麗な夕日が見えていたが、突如、暗雲が立ち込める。すぐさま外は暗くなり、雷雨が降り注ぐ。

アンデット・ロードのキースによる、天候操作だ。

最強魔族の一角であるアンデッド・ロード謹製の大魔法を、パーティー出席者をびびらせるために使っている。人魔戦争初期なら、魔王が泣き出すくらいの人材の無駄遣いだ。

お金がないので、アンデット・ロードといえども使えるものは使うのが、スピカ総監督の方針である。


「トイト・ホー・ラザクシ・ダン・メンシャ!!!」うなるようなスピカの低い声が部屋中に響き渡る。


「ひえっ、怖いわ」ユリカがわざとらしく、ウォルターに抱きつく。

「大丈夫だよ、ユリカ。コール刑事、スピカのいる部屋から、呪文が聞こえる。ドアを開けろ」ウォルター王子は言った。

「かしこまりました。王子」


コール刑事は、ドアを蹴ってあけた。


「スピカ!王子の好意を無駄にしおって、逮捕する……いない?」


コールは部屋を見回すが、スピカがいないのだ。

部屋は、窓もない密室である。


「どこだ……どこに行った。この部屋に必ずいるはずだ……」


コールはもう一度、部屋を端から端までゆっくりと観察する。


ギイイイ……

先ほど開いたドアが閉まる音が、コールの背後から聞こえた。


「ドア側にいるのか。おとなしく……ひっ!!!」コールは手錠を落とす。


そこには、土色の肌をして、口をあんぐりと開けたスピカがいた。

テーブルには、ドランの死体が魔法陣に沿って、バラバラに分解されて配置され、壁には血で謎の言語が記されていた。



 


コール刑事が踏み込んだ休憩室から、彼の叫ぶ声が聞こえる。

同時に、彼は小刻みに後ろ歩きをしながら、休憩室から出てこようとしている。

ホールにいた人々は、スピカとドランが逮捕に抵抗して暴れているのだろうという認識だった。

後ろ向きに歩いていたホールは、ドアのところでドア枠にぶつかり、慌てた声を出す。


「おい、コール刑事どうした。たかが素人二人。腕利きのお前の敵では……」ウォルターが声をかける。

「ぐぐぎゃああああ!!!」コールの首筋に人間が噛み付いた。


血が飛び散る。


「ス、スピカ……いや、ゾンビだ」ウォルターは立ちすくんだまま言った。


コールがバタリと床に倒れると、ゾンビは、腕を振りまわした。

何かが飛んできて、ユリカの頰に生暖かいものが付着する。


「これ……コール刑事の眼球よ……きゃああああああ!!!!!!」


ユリカの叫びとともに惨劇は始まる。


タイトルは『〜湖畔のレイス・ナイト〜』

総監督はスピカ・パトリシア。演出はアンデッド軍団。

出演は、あわれにもパーティーに参加した皆様

 

クランクイン!


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