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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3356年 皇帝崩御

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皇帝崩御 第16話『ぼくらの奪還戦争 前編』

【星間連合帝国 準惑星セルヤマ マスドライバー】



<AM03:45>


 まるで亜空間――そう思わせるような無機質な道をダンジョウは駆け抜けていた。真っ白な壁と床の境界線が見えない。なのに窓や電飾が無いのに明るい。こんな不気味な空間を1人で走っていたなら、恐らく不安感に襲われていただろう。しかしダンジョウはそんな不安感に襲われることはなかった。何故なら彼の背後には、グチグチと嫌味を言う存在が走っていたからだ。


「ったくさぁー。普通に大人のアタシ1人に任せとけばいいでしょ? 何でアンタを連れていく算段立てなきゃなんないわけ? 小っちゃい頃は純粋な子だと思ったけど違ったわ。アンタはただの我儘野郎、スーパーエゴイスト野郎なのよ。あぁーあ。昔は可愛かったのになぁ。いや、昔っから可愛気はないか?」


小姑でももう少し遠慮するであろう嫌味をシャインはダンジョウの耳に届くように告げる。そんな小言を背にしながらダンジョウは少し感心した。


「(走ってんのによく舌噛まねぇなぁ)」


ダンジョウはチラリと背後に視線を送る。あからさまに不機嫌なシャインは全速力で走るダンジョウと違い、まるで軽いジョギングのように肩を揺らしていた。

 そんな彼女とその小言を尻目にダンジョウはインカム越しにタクミへ連絡を取った。


「タクミ。道はこっちであってんのか? つーか内装が不気味でよ」


ダンジョウの問に対してインカムの先……教会の蔵から情報を送るタクミは冷静に的確に返答してきた。


『中の造りまでは関与できないよ。僕が見てる情報は単純な地図だからね。とにかくその一本道を真っすぐ進んでくれ。あと200m程で十字路に差し掛かるから、そこを右に曲がるんだ。その突き当りが離着陸場の関係者用扉になっているよ。あ、それとシャインさん。少し早いけど侵入に気付かれているようだ』


シャインに告げたはずの報告だったが、ダンジョウは思わず声を荒げた。


「はぁ!? 侵入気付かれてんなら何で言わねぇんだよ! おいビス! オメェ無事か!」


ダンジョウはもう1人の通信先へと声を上げると、ビスマルクはいつもと変わらない口調で答えた。


『兄貴。あんまりオラをナメんでほしいのぉ。4、5人ほど返り討ちにしてやったわい』


頼もしい返答にダンジョウはホッとするも、次は背後の人物をしっかりと目視しながら再び声を荒げた。


「おいババァ! どういうこった!?」


「誰がババァだコラ!」


シャインは走りながらダンジョウの背中に飛び蹴りを入れる。ダンジョウは「ぐっ」と少したじろぐが、怒りの矛先を忘れずに更に声を張り上げた。


「囮役っつっても俺はビス1人に戦わせるなんざ聞いてねぇぞ! あと、背中でも背骨部分を蹴るのはやめろ!」


「安心しなよ。あの子はアンタより数十倍は戦力になるんだから。もう少し前の時代なら護衛騎士団(ウチ)にスカウトしてたくらいよ」


思った以上にビスマルクを高く評価しているシャインにダンジョウは少し驚くが、その説明では彼の怒りを収めることは出来なかった。


「いやそういうことじゃねぇ! 俺は囮を使うやり方が気に入らねぇんだよ!」


「じゃかましい! これも想定済みだっちゅーに!!」


シャインはそう一喝すると全員に次の指示を出した。


「いい? 少数でもこんな場所に侵入すりゃ気付かれんのも時間の問題なのよ。ま、予想よりちょっと早かったのはあるけどね。とりあえず、気付かれたんなら次のフェーズに移行すんの。タクミ、B地点もやっちゃって」


『了解した』


タクミの返事を合図に、数秒の間隔をおいて無機質な廊下の中に小さな爆発音が響き渡った。その爆発音は一度で収まることなく、テンポを置いて何度か鳴り響く。一部の爆発の中には同時に連続したババババッという音も混じり、音だけでゲリラ戦の光景が目に浮かぶようだった。しかし、その連続する爆発音の中には、帝国軍と思しき人間の怒号と一緒に感嘆の声が僅かに入り混じっていように聞こえた。


「派手だなぁ」


壁の向こうに広がる光景を想像して笑みを浮かべるダンジョウと比較して、隣のシャインは僅かばかりに心配気な表情で尋ねた。


「というかね。あの子、ビスマルクは大丈夫なの?」


「あ? オメェが大丈夫ってさっき言ってただろうが?」


「その話じゃないわよ。あの花火……家(・)か(・)ら(・)勝(・)手(・)に(・)持(・)ち(・)出(・)し(・)た(・)ん(・)で(・)し(・)ょ(・)|?」


シャインは呆れたようにそう告げる。そんな彼女の懸念を聞いてダンジョウは少しおかしくなった。今、自分たちが行っている不法侵入に比べてビスマルクがやった家から花火をくすねるという行為は小事にしか思えなかったからだ。


「それ気にするところか?」


ダンジョウは思わず小さく笑いながら尋ねると、シャインは再び呆れたようにダンジョウの後頭部を小突いた。


「あのね。ビスマルクはアンタのためにこんな不法侵入っていう犯罪行為に手を貸してくれてんのよ? しかも自分の家を巻き込んでね。アンタはそれだけのことをビスマルクに背負わせてんのよ? その自覚ちゃんとあんの?」


シャインの心配を他所にダンジョウはケロッとしながら首を傾げる。


「本人が大丈夫ってんだから大丈夫だろ?」


「アンタは何でそう人の事情を察せないかね?」


「何言ってんだ? 俺はアイツが大丈夫っていうことを信用してるだけだ。もしもん時は俺も一緒に頭下げてやるだけだろ?」


「だから頭下げて済む話じゃないっての」


『お2人さん。お話し中に申し訳ないが、十字路がすぐそこだ』


2人は視線を直進方向に戻すと、無機質な一本道の先に僅かな影が浮かび上がった。

 途中途中で左折のみのルートと遭遇はしたが、右折するルートは初めてである。タクミのナビゲートが正確であることも判明し、この無機質な廊下に不気味さを感じていたダンジョウは僅かながらに安堵した。


「ようやくかよ。んで、滑走路はすぐにあんだな?」


『ああ。それともう1つ言っておくことがある』


「何だよ?」


『後ろに敵影だ』


「はぁ!?」


十字路に差し掛かったダンジョウは振り返ると、光の矢ともいえる紫色に光る光線が一直線に進んできた!

 光線がダンジョウの眉間に届く寸前、隣のシャインが彼の腰を蹴り飛ばす! ダンジョウが右折側通路に倒れこみ、蹴りの反動を利用したシャインが左折側通路に身を隠すと、無数の光線が今まで走っていた通路上で飛び交った!


「タ、タクミボケ! そういうことはもっと早く言え!」


『撃っているのはショック銃で殺傷能力はないよ』


「そういう問題じゃなくてな?」


「そんくらいにしときな」


左折側通路に身を隠していたシャインがそう告げると、彼女は何食わぬ顔で自身のスカートをたくし上げていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 「簡易武器しか持ってきてないんだよねー……」


シャインはブツブツと呟きながら、全く色気のない太ももに隠していた三節棍を取り出す。そして、ダンジョウとの会話をインカムに切り替えた。


「ダンジョウ、タクミ、ビスマルク。これからいうことをよく聞いて」


彼女のいつになく真面目な声に3人は黙って聞き耳を立てていた。


「まずビスマルク。囮はもう十分よ。あとは逃走用エアカーの準備に入って。操縦方法は大丈夫よね?」


『お、おう! 何となくじゃが……』


「次はタクミ、確か事前に見たルートじゃ、離着陸場に繋がる扉の前にロックが掛かった部屋があったはず、そこのロックを解除してダンジョウをナビゲート。そのあとは逃走用ルート以外の防火扉を閉じちゃって」


『りょ、了解』


「最後にダンジョウ。タクミのナビで向かう部屋にはCSがある可能性がある」


『し、しーえす?』


「combatsuitよ。この前に教えたでしょ。マスドライバーにあるCSだから戦闘用じゃなくて作業用の可能性が高いけど、それでも飛行装置は付いてる。アンタに課した逆立ち訓練の体幹があれば姿勢制御もできるはずよ。そいつを使って護送船を止めなさい」


シャインはそこまで告げて時間を確認する。そして小さく頷きながら微笑んだ。


「この時期のセルヤマとパルテシャーナの位置関係、それとセルヤマの自転から考えて、護送船の離陸は日の出に向かって飛ぶはず。離陸のタイミングまで多分あと一時間くらい。囚人はもう護送戦に収容されているだろうからフィーネちゃんに会える可能性はかなり厳しい。それでもやんだね?」


シャインは最終確認と言わんばかりにダンジョウの方に視線を送る。光線の弾雨を挟んで見えるその姿は、かつて見ていた赤ん坊とも、暴れまわる少年期とも違った。

 すでに立ち上がり何故か堂々と微笑むダンジョウの姿には王者の風格と言えるような威厳が見え隠れしていた。


『ありがとよシャイン。全部片付いて俺が権力持ったらオメェには一番デカい勲章をくれてやるよ』


「せいぜい楽しみにしとく」


シャインはそう告げて微笑むと、ダンジョウは踵を返して走っていく。ダンジョウの背中を見送ったシャインは三節棍を握りしめた。

 壁際に立って腰元から出した機器を床に放つと、その機器からは帝国軍が銃口を向ける姿がホログラムとなって浮かび上がった。


「(ブラスターを撃ってるのが8人。そして、その背後で近接武器を持ってんのが5人か……)」


シャインはまるで準備体操と言わんばかりにその場で軽く跳ねると小さく深呼吸した。


「(ふぅー……実戦久し振りだからな……多少のケガは覚悟しなきゃ……)」


軽く跳ねながら目を閉じ、シャインは集中力を徐々に高めていく。そして数度目のジャンプから着地した瞬間に、彼女は警備兵が待ち受ける通路に飛び出した!

 シャインの姿に気付くと光線の数は一段と増し、通路内は寸分の隙間もないほどの光に包まれる。迫りくるビームは実弾の速さとは比較にならない。恐らく、まともな人間なら撃たれたことに気付かないだろう。しかし、シャインはそんな弾雨の中を壁や天井を巧みに足場として使い、まるで無重力のような……何よりも美しく舞うように躱し続けた。


「(二次元じゃなくて三次元、光線を撃つ連中も人間なんだから差異がある)」


光線が発射された際に生じる誤差によって出来た奥行きの隙間を掻い潜り、シャインは確実に距離を詰めていく!


「何だありゃ……」


「と、とにかく撃ちまくれっ!」


異様でありながらも美しく、そして迫りくる恐怖という妙な感情なのだろう。帝国軍の兵は戸惑いと同時に感動するような声を上げていた。

 着実に警備兵らとの距離が縮まっていく。すると、光線間の隙間は小柄なシャインの体でも入り込めない程に狭まってきた。


「(あらら、そろそろ弾くしかないか)」


彼女は心の中に余裕ともとれるような呟きを残すと、三節棍の先端からレーザー状の光剣を発生させ左右に振り回した! 三節混からはまるで蒸発するような音が一瞬鳴り響いては銃弾を弾き飛ばしていき、警備兵は再び驚愕の声をあげた!


「は、えぇ!?」


光線を弾き飛ばされるという経験しえない光景に警備兵は愕然として思わず手を止める。すると、シャインは三節棍を巧みに回転させながら大見得を切った!


「ホァチャーッ!」


小刻みに首を振りながらシャインは怪鳥音を叫び、自らに喝を入れると同時に敵を威嚇する! その異様な童女の姿に帝国兵は開いた口が塞がらないのか皆一様に間抜け面をしていた。


「ン~~~~ッ! アチャー! アタァーッ! ホァチャー!!」


シャインは一瞬で彼らとの距離を詰めると、彼女の怪鳥音と同時に繰り出される三節棍を撓らせた頭上への打撃、フェイントを含めた股間への蹴り、バックハンドブローが警備兵を襲う! 気付けばその場にいた帝国兵らはまさに気付かぬうちに全員気を失う羽目になっていた!

 シャインは「ふぅーーっ!」と大きく息をつく。そして周囲を見回し倒れる大の男たちの数を見て彼女は徐々に青褪めていった。


「……え? う、うそでしょ? だってまだ少ししか動いてないよ!? ほ、ほらケガだってしてないし!」


シャインは全く色気のないタイトスカートを捲りながら、色気も傷もない奇麗な子供の足を自分で確かめる。

 それは彼女にしか分からない戸惑いである。久し振りの実戦にも関わらず、帝国兵十数人を僅かな時間で……しかも無傷で倒してしまった。しかもそれが童女姿のか弱い女子がである。そんな豪傑が自分であるなどとは彼女は思いたくなかったのだ。


「ちょっと! 起きてよ! ブランクあってこれじゃアタシ化け物みたいじゃん! 本当はまだ起きてんでしょ!」


倒れる帝国兵1人1人の胸倉を掴んで起こしにかかるが彼らは完全に伸びていた。


「ア、アンタ達よくそんなので帝国兵を名乗れたわね! ダンジョウだってもうちょい耐えるわよ! わ、分かった! ア、アンタ達新米兵でしょ? もしくは士官学校出てない素人から軍に入った連中でしょ? ね? そうだよね!?」


シャインの声がむなしく響き渡る。無音で無機質な空間の中、シャインは益々青褪めていくと、再び怒号が彼女の耳に届いた。


「いたぞーっ!」


遠くから数十人の帝国兵が現れる。異変を察したのか、その中にはCSを着こんでいる者もいた。


「な、なーんだ? 熟練兵は後方にいたんじゃん?」


シャインは安心したような、少し不安そうな何とも言えない表情を浮かべて立ち上がると、三節棍を首の周りで回しながら帝国兵の数を確かめた。

 先程以上の数と、洗練された銃の構え方、統率された動き、間違いなく先程以上の戦力であることは間違いない。


「(だ、大丈夫。次は手こずるはず……いくらアタシが強いって言っても、こんなか弱い童女なんだから……)」


シャインは自らを納得させるような表情で頷くと、再び怪鳥音を響き渡らせる。普通の童女であれば、まず戦うという選択肢を選ばないという事実を彼女はまだ知らなかった。

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