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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3356年 皇帝崩御
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皇帝崩御 第11話『惨劇 中編』

【星間連合帝国 準惑星セルヤマ ティアール地区 街道】



 胸騒ぎが収まらない。ダンジョウは教会から出た瞬間にそう感じていた。タルゲリ教は神栄教の分派であり、分派となった経緯もあって信仰者は少ない。それでも今朝のお祈りに訪れる信者の数が0という点、いつもは走っている興行用エアカーや、ここセルヤマで隠居生活をしているであろう裕福そうな老夫婦の散歩する姿も見当たらないのは少し異常に見えた。


 白い息を吐きながら街道を走り続け、小さな丘を駆け上る。その丘の眼下にこそ、フィーネの暮らすスラム街がある。丘を登り切ったダンジョウは膝に手を付きながら息を切らした。そして大きく息を吸って顔を上げると絶句した。眼下に広がるスラム街の上空には、軍用エアカーが飛び回っていたのだ。


「何だこりゃ……」


スラム街の入り口には帝国軍によって封鎖されており、無数の民間人が軍用トラックに収容されている。しかも、それは何故か女性ばかりだった。

明らかに何かが起きている。ダンジョウは息を呑みながらも彼は最優先事項があることを思い出した。


「フィーネ……フィーネッ!」


ダンジョウは丘を駆け降りた。

 予感が確信に変わっていく。早くフィーネを連れ出さなければ彼女に惨劇が降りかかる。彼の信念である平穏という言葉のためではない。ダンジョウは今、フィーネという少女のためだけに走り続けていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【星間連合帝国 準惑星セルヤマ スラム街】


 拘束されたフィーネは罪人としてスラム街の広場に晒され、彼女のその姿はホログラムとなって軍用エアカーから大きく映し出されていた。

後ろ手に手錠と首輪を嵌められ、全くと言っていいほど身動きが取れなくない。

首輪からは四方へと延びる拘束用の棒が伸びており、その拘束用の棒を握る帝国兵が僅かにでも動けば、フィーネはまるで首が絞められたように咳き込んだ。後ろ手に拘束されているせいで口から滲み出る涎を拭うことも出来ず、長く伸びる赤い髪は汗と涎で頬に纏わりつき、裸足は傷だらけになっている。


「おいおい何なんだよ……」


「ここは貧乏人しかいないんだぞ!」


「そんな女の子に何してんだ!」


スラム街に住まう人々はまるで虐待を受けるようなフィーネの姿を見て軍に向かって叫ぶ。

 容赦なく飛び交う怒号に合わせるかのように、兵等は拘束用の棒を徐々に上げ、フィーネの体は首吊り状態で上昇していく。フィーネは苦悶の表情を浮かべながら背伸びをして、ギリギリのところで呼吸を保ち、呻き声を上げながら涙を堪えていた。


「――アッ――ク――」


その悲痛な姿にスラム街の住人は「やめろ!」「死んじまうだろ!」と非難の声を挙げ続ける。すると呼吸もままならないフィーネの前にジルギランが歩み寄り群衆に向かって叫んだ。


「諸君! 我が帝国軍から悲しい報告がある!」


ジルギランの演説にも近い声に群衆は怪訝な表情を浮かべ解放を叫び続けるが、拡声器を使った彼の声はスラム街中に響き渡った。


「先だってとある情報筋により、このセルヤマ星にローズマリー共和国のスパイが潜入していることが発覚した!」


その人声に群衆の表情が変わり、どよめきが響き渡った。


「ス、スパイ?」


「何でだ? 別国とはいえ友好関係にあるじゃないか?」


スパイという言葉で群衆の空気が変わる。その事は拘束されているフィーネでもよくわかった。それはジルギランも同じだったのだろう。彼は正義の鉄槌と言わんばかりの自身の公正性を示すような口ぶりでさらに言葉を続けた。


「スパイがどれほどの犯罪行為か……それは諸君らもある程度は理解しているだろう! しかしそれでもまだ浅い! 情報とは国の生命線である! 諸君らが死に物狂いで開発した技術や文化を盗み! まるで我が物顔のように扱うのだ! それだけではない! このセルヤマ星の防衛情報などが洩れれば! この星が戦場となる事さえあり得るのだ! そうなれば諸君等か! それとも親か! 子どもたちか! いずれかに隣国の銃口が向けられるやもしれん!」


群衆はいつの間にかジルギランの言葉に耳を傾けている。首が締まりながらもフィーネは彼の言葉に苦言を呈したかった。仮に情報が漏れたとしてもローズマリー共和国に帝国と戦争するほどの力は無い。彼が口にするのは肥大化させた被害妄想に近いものがあると感じていた。しかし、予期せぬ軍の到来と経験のないいつもと違う日常の違いに戸惑う群集に恐怖心を植え付けるには充分だった。


 群がっていたスラム街の住人らはフィーネを嬲るような視線で睨みつけ、怒号を浴びせながらゴミを投げつけていた。


「スパイは出てけ!」


「魔女がッ!」


「近所のよしみで面倒を見てやったってのに!」


 群集が持つ恐怖心はやがて怒りに代わり、その怒りの矛先は悪意となってスパイに向けられる。彼らは悪意と殺意を投げかける暴徒のようになっていた。そんな彼等の前に出たジルギランは再び演説するかのように叫んだ。


「諸君! ここで1つ教えよう! ローズマリー人とはどんな種族なのか? まず女は傲慢と潔癖に塗れた高飛車だらけ。そして男はその女に尻尾を振るしかない腑抜けだらけ。つまり男女平等が皆無の穢れた種族なのだ!」


群集はまるでジルギランに相槌を打つ機械のように頷きながら「そうだ!」「悪逆国家だ!」と叫んでいた。その反応に満足しながらジルギランはさらに続けた。


「そして身体的特徴があるのも忘れてはいけない! 我らが帝国の星々で生まれた数々の種族がその特徴を持つように、ローズマリー人であるパルテシャーナ星人にも特徴がある。その1つこそが翠の瞳だ!」


ジルギランはそう叫ぶとフィーネの赤い髪を掴んで顔を起こし上げる。

 フィーネは苦悶の表情を浮かべながらもジルギランを睨みつけた。母を殺され、このような仕打ちに合わせられながらも彼女は決して屈しなかった。その屈服しない赤い目を見ていたジルギランはニヤリと笑う。ジルギランのインカムに内蔵されたカメラを通してホログラムに映し出された彼女の瞳は濁った赤色をしていたのだ。その翠色とは程遠い濁った赤い瞳を見て、群集は少しどよめいた。


「お、おい……赤じゃないか?」


「どうなってんだ? あの子はローズマリー人じゃない?」


戸惑う群衆に対して、ジルギランは連行中から手にしていた妙な機器を掲げた。


「今、この娘がローズマリー人……いや、スパイであるということを証明しよう」


ジルギランは銃のような大筒をゆっくりとフィーネの方へ向けると、彼女の顔に近づけていく……


「……な、なに……!?」


フィーネは恐怖から思わず声を絞り出した。考えうる苦痛には耐えられるが、この見たこともない不気味な機械が何をもたらすのかが全く理解できなかったのだ。

 ジルギランに髪を掴まれ身動きが取れない中、その大筒の先端はフィーネの顔の左半分を包むように密着する。そしてジルギランがトリガーを引いた瞬間、フィーネは今まで感じたことのない痛みに襲われた!


「ぎゃあぁぁぁぁーーーーーーーーっっっ!!!!」


大筒の中は真空となっていき、まるで顔を吸い取られるかのように……いや、そんな生易しいものではない。顔を引き千切ろうとするかのように引っ張る痛みに襲われたのだ!


――ブチッ! ブチッ! ブチッ!


肉が裂け、血が飛び散るような生々しい音がフィーネの中に響き渡る。その激痛によってフィーネはまるで糸の切れた人形のように失神した。



◇◆◇◆



 フィーネのその異常なまでの悲鳴によって、群集はその異変を察したのだろう。泣き叫びそして気を失ったフィーネの姿を見て、群衆はただ呆然と立ち尽くしていた。

 やがて、ジルギランはトリガーを緩めると、大筒はゆっくりとフィーネの顔から離れていく。大筒が離れると同時にフィーネの顔はグラリと垂れ、俯く彼女の顔からは滝のように血が噴き出した。その惨劇を見た群集の中には悲鳴を上げ、腰を抜かす者もいる。しかし、ジルギランはそんな群集どころか、瀕死のフィーネに見向きもしなかった。

 彼は得意気に大筒を回転させる。すると大筒の先から眼球が浮き上がってきた!


「見たまえ! 着用型レンズで隠されていた真実! これがローズマリー人の証だ!」


ジルギランの掲げる眼球の瞳は、鮮血に塗れながらも美しい翠色の輝きを放っていた。そのグロテスクな光景についには失神する者も現れる。その光景を想定内としながら、ジルギランはさらに叫び続けた。


「この目を隠す理由はなんだ!? 自らがローズマリー人であることを知られぬよう小細工を行う理由はなんだ!? 我が帝国は亡命してきた元ローズマリー人には戸籍を与え、厚く迎え入れる様々な制度を設けている! にもかかわらずこのような小細工を施す理由は1つ! 彼奴らがローズマリー人とは知られては困る行為……スパイ行為などという卑劣な行為を行っているからだ!」


ジルギランは群集へ植え付けた恐怖心を更なる怒りへと変換する。すると再び群衆は怒号を上げ始めた。


「そ、そうだ! スパイは卑劣だ!」


「ローズマリー人は叩き出せ!」


「ローズマリー人を殺せ!」


地鳴りのように響く群集の怒号を聞いて満足したジルギランは、手にしていた眼球除去の機器を副官に渡すと再び声を上げた。


「諸君! しかし安心してほしい! 我々帝国軍は決して卑劣なスパイ行為には屈しない! ハーレイ=ケンノルガ・ルネモルン宰相閣下の名の下、諸君等の安全は我らが保証する!」


群集は一転して歓喜の声を上げた。


「いいぞー!」


「宰相閣下、バンザーイ!」


 歓喜と狂気が入り混じる異様な光景を背にジルギランは満足そうに微笑みながらインカムを外す。そして待機していた副官から真っ白な布を受け取ると、血まみれの手を荒々しく拭った。


「さて、これで共和国の卑劣さは植えついた。他の様子はどうか?」


ジルギランの言葉に副官の1人はタブレット式の通信機を手に敬礼をしてから報告をした。


「はっ! 他分隊長からも順調にスパイの鹵獲が報告されています!」


「そうか。さて我らは艦隊に戻るとしよう。あとはスパイ共を強制送還だ」


ジルギランの言葉に副官は不満気な声を上げる。


「司令。なぜ強制送還なのです? ラヴァナロスへ連行し裁判にかけ、我が国で極刑を与えてやることは出来ないのですか?」


副官の言葉にジルギランはニヤリと笑う。そして血まみれになった布を副官に差し出した。


「そうはいかん。ここで人道的に送還することで、国家間にあるイニシアチブをとるのだ。無論、君の気持ちは理解できる。だからこそあの少女に犠牲になってもらったのだよ」


ジルギランは未だ拘束されて血を垂れ流すフィーネの方に視線を送る。スパイ行為を行った以上、年齢は関係ない。全ては帝国のためなのだ。

 ジルギランはフィーネに悪びれることもなく、軍用エアカーに乗り込もうとステップに足を上げた時だった。思いもしない危機迫る声がジルギランの耳に届いた。


「司令!」


副官の余裕のない声にジルギランは振り返ると、思いがけない光景が飛び込んできた。見知らぬ少年が群集の中から飛び出し、兵の蹴散らしながら突っ込んできたのだ!


「なっ!」


ジルギランは驚愕する。少年は深紅の瞳を血走らせ、屈強な帝国兵をなぎ倒しながら確実に距離を詰めてくる!


「な、なんだ! と、止まれ!」


ジルギランの声にCSを装着した兵等は一斉に少年へと掴みかかる。しかし、彼らの行動もむなしく、少年が振りかざす拳や蹴りによって、彼らはまるで紙屑のように宙を舞うだけだった。

 少年が放つ攻撃によって兵等が着用するCSは、凹み、ひび割れ、中には完全に破壊されて飛び散っていく。少年の拳からも血が噴き出し、皮は捲れあがって骨が剥き出しになっていたが、少年は自身の身体など気にすることなく、一心不乱にフィーネの方に突貫してくるだけだった。その異常な出来事にジルギランは初めて恐怖し更なる檄を飛ばした。


「か、構わん! 撃て!」


ジルギランを囲む兵はブラスター銃を構える。しかし、その銃から光線が放たれることはなかった。


――――――ガンッ!


凄まじい音が響き渡る。その光景にジルギランは絶句した。見覚えのある……いや、軍内では名の知れた人物が急に現れ、少年の頭上に拳を振り下ろしたのだ。


「……シャ、シャイン=エレナ・ホーゲン」


思わずその人物の名前を呟くと、周囲の兵達も顔を見合わせてから中央の童女に視線投げかけた。


「あれがシャイン=エレナ・ホーゲン?」


「こ、皇后様の護衛騎士団団長を務めたお方か……」


「し、しかし何故こんな所に?」


兵達は小声でシャインを見つめるが、当の本人は全く気にする事なく周囲を見回していた。


「……何でセルヤマが……チッ……」


地面にめり込む程の衝撃で気絶する少年を見下ろすシャインは舌打ちをしていた。

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