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【加筆修正中】EgoiStars:RⅠ‐Prologue‐  作者: EgoiStars
帝国暦 3356年 皇帝崩御
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皇帝崩御 第4話『博士の異常な発想』

【星間連合帝国 惑星ヴィーエス デセンブル研究所】



 帝国の領星にはいくつか特殊な星がある。その最たる例が神栄教の総本山として、ほぼ独立した状態にあるジュラヴァナ星、そしてその神栄教の聖地として知られる神の星チャンモイ星である。この2惑星には星の統治を行う知事が存在せず、基本的に神栄教が管轄しているのだ。

 そしてもう1つ知事の存在しない惑星が存在する。海陽の周期から最も離れた氷の惑星……ヴェーエス星である。その星に見合った白い肌と銀髪を持つヴェーエス星人は、星間移動が盛んになってから以降、同じく銀髪を持っているクリオス星人が移住し、長い年月をかけて進化した姿である。元は褐色の肌を持つクリオス人だったが、その環境から肌が徐々に白くなっていったのだという。つまり、このヴェーエス星から生まれた種族ではない。この氷に覆われた星は生き物が住める星ではなく、何かを生み出すことないのだ。しかし、その生物が暮らすことのできない特性が、様々な実験に向いているという発想によって研究惑星として利用されるようになった。

 様々な化学実験などが行われるこの星には、今では帝国の科学技術の粋が結集していると言っても過言ではない。

 シャインは()()()()()()()()()()部下に文句を言うため、2カ月ぶりにヴェーエス星にやって来ていた。


「どうぞ」


テーブルに4歳くらいの少女が飲み物を置くと、シャインはしかめっ面を解いてから優しい笑顔を向けた。


「ありがとう。お名前は?」


「ミヤビ」


白い肌と銀髪という透明感に包まれた少女は、口数が少なく名前をたった一言いい残す。そしてその大きな瞳でシャインの顔をジッと見つめてきた。


「ミヤビか、いい名前だね。こんな所嫌でしょ? お姉様がもっといいところに連れて行ってあげようか?」


「無理」


表情一つ変えずにそう告げる少女にシャインは首を傾げる。


「どうして? こんな環境じゃ楽しくないでしょ?」


「お父さんがここにいるから」


「でも友達はいないでしょ?」


「1人だけいる」


「……え?」


研究惑星であるヴェーエス星に暮らす人間は少ない。仮にいたとしても、そのほとんどが()()()()()()()()()にあるこの星の衛星で暮らしているのだ。

 このような場所に彼女のような女児がいるはずがない。シャインの中では不信感にも似た疑問が芽生える。しかし、そんな思いをかき消すかのように奇妙な笑い声が室内に響き渡った。


「フェフェフェ! さすが我が娘! 挨拶も行き届いているもんね!」


スライドした扉から入室してきた奇妙な笑い声の主……ノヴァ・ホワイトは、笑い声だけでなく装いも奇妙だった。前頭部から禿げ上がった頭、顔にはフォーカスを合わせるカメラのレンズのように動く妙なゴーグルを装着し、前を止めた白衣を着てはいるものの、その下から生える足は裸足である。

それはまるで白衣の下は全裸であるかのように思わせた。

 シャインはそれまで見せていた柔和な笑みを一変させると、その童女の姿からは想像できない険しい表情を浮かべた。


「久しぶりだねノヴァ。それともデセンブル研究所所長って呼んだ方がいい?」


「フェフェフェ!」


童女のジト目とウンザリした口調が好物のようにノヴァは奇妙な笑い声をあげる。しかし、彼にそのケが無いことはシャインは重々知っていた。

 ノヴァはよく言えば純な科学者であり、悪く言えばマッドサイエンティストである。この男を興奮させるのは発見や解析であって、金や権力、ましてや異性の裸体に関心を持たない種の欠陥人間だった。


「呼び方なんてどうでもいいもんね。ミヤビ。君はもう下がっていいもんね」


ノヴァがそう告げると、ミヤビは何も言わずに2人に背を向けて歩きだし、ノヴァが入ってきた扉とは別の扉から出ていった。


「……あの子。本当にアンタの娘?」


シャインがノヴァの方に視線を送ると、彼はゴーグルを回転させながら笑った。


「フェフェフェ! 遺伝子上はそうだもんね。母親は余ってる卵子から選んだから誰かは分からないもんね」


「研究にしか興味がないアンタが家族を作るなんてどういうつもり?」


「団長は勘違いしているもんね。ミヤビは1つの実験の過程だもんね」


人間味のない言葉にシャインは益々顔を顰めると、ノヴァはその長身痩躯の体をくねらせながら不気味に笑う。

 シャインは溜息をつきながらかぶりを振った。これ以上彼のペースで話していても埒が明かない。何より、そんな趣味も暇もシャインは持ち合わせていないのだ。


「ま、いいわ。で、今日アタシがここに来た意味は分かってんでしょ?」


シャインはそう言って懐から取り出したデータ映写機を放り投げると、テーブルに転がった小さな機械から人型の模型のような設計図のホログラムが浮かび上がった。


「聞かせてもらおうじゃない。いいアイディアが浮かんだんでしょ?」


その問いにノヴァはまたしても不気味に笑う。そしてその歓喜に合わせるかのように、彼の装着するゴーグルのレンズが音を立てて回転しだした。


「フェフェフェ! 団長。この設計図……実に面白いもんね。私は解析や改造は出来ても創造は出来ないからその想像力は羨ましいもんね」


「世辞はいいからさっさと話しな」


シャインは再びイライラしながらそう告げると、ノヴァはゴーグルを額に乗せて細い目を見開く。そして、テーブルの上に浮かび上がる設計図のホログラムを指で弾くと、鎧のようなスーツは小さく回転した。


「このBody Extension……略称してBEと呼ぶもんね。問題点は2つ。まずは装着者の関節部分の可動域だもんね。これだと両足が胴体部分に来るから収納が難しいし、結局普通の機動兵器になるもんね」


薄気味悪き癖に的確なことを告げるノヴァに、シャインは思わず眉間に皺を寄せる。


 Body Extension……BEとはシャインが構想する全高約2~3mほどの着用兵器である。


使用者はこのBEに乗り込むのではなく、背部にある穴に四肢を通して、文字通り着用することで起動させることができる。従来の機動兵器と違い、着用者の動きをフィードバックする事や、その大き過ぎないサイズ感があれば、CSと比較しても、未着用時の3倍近い戦闘力を発揮するとシャインは計算していた。


 「フェフェフェ! でもエネルギー問題は致命的だもんね! 戦艦やエアカーに比べれば小さいけれど、このBEの精密機器を動かすのにもそれなりのエネルギーがいるもんね。団長が望む物を作るには生半可なエネルギーじゃ意味がないもんね」


まるで聴取をとるかのようなノヴァの口ぶりにシャインは腕を組んだまま頷く。


「当たり前でしょ。だからそのアイディアをアンタに考えろって言ったんじゃない」


「フェフェフェ! エネルギーなんて腐るほどあるもんね! でも団長が真に望むなら、使うべきエネルギーは1つだもんね」


「妙な言い回しはいいのよ。何使えっての?」


「ヤシマタイトだもんね!」


「はぁ!?」


シャインは耳を疑う。もしかしたらノヴァの甲高い声で耳がおかしくなったのではと思い、彼女は思わず聞き直した。


「ヤシマタイトって……そんなもん無理に決まってるじゃない」


ヤシマタイト。それはアイゴティヤ星で発掘される無色透明の鉱石である。

 ヤシマタイトは特定の周波を当てると熱エネルギー……ヤシマ線を発生する特性を持ち、そのヤシマ線を利用したエネルギーは、帝国だけでなく海陽惑星系全てで活用されている。

その抽出量は凄まじく、小さい衛星の街であれば数gの鉱石で半月近くエネルギーを供給できると言われていた。しかし、この鉱石はBEのエネルギー資源にはなりえない。シャインは頭の中にすぐさま浮かび上がった問題点を纏めると、ノヴァに鋭い視線を向けた。


「何か言いたいことがあるみたいだもんね?」


「わざわざ説明しなきゃなんない?」


「フェフェフェ! ぜひご教示いただきたいもんね!」


まるであっけらかんとしたノヴァの態度を不審に思いながらも、シャインは全く色気のない童女の姿で足を組みなおしながら説明を始めた。


「大きな問題点は3つ。まずはエネルギーになるヤシマタイトの特性。ヤシマタイトは特定の周波を当てることで強力な熱エネルギー……つまりヤシマ線を発生させるけど、その特定の周波を生み出す発生装置が既存の物じゃ大き過ぎて、私が構想してるサイズのBEには載らない。仮に無理矢理搭載しても、サイズは大幅に巨大化して大型のノロマな兵器になる。

 2つ目の問題がヤシマ線の粒子分解性質。周波を当てられたヤシマタイトはヤシマ線を発生させる条件に、近くにある物質を粒子分解するという性質がある。本来のエネルギー資源としてヤシマタイトを利用する時は、生活から排出されたゴミや、回収したスペースデブリを粒子分解させてるけど、BEにそんな不要物をぶら下げるわけにはいかない。

 最後の3つ目がその粒子分解から如何にして装着者の身体を守るかってこと。ヤシマタイトは無機物よりも有機物を優先的に粒子分解する特性がある。未だに発電所では人体粒子分解事故が起きてるくらいにね。そうなったらBEよりも先に装着者が粒子分解されて起動もせずに終わるわよ」


シャインの説明をしっかりと聞いていたのか、ノヴァは所々で頷きながらも、どこか笑っているかのように肩を揺らしていた。


「完璧な説明だもんね。でも団長? 無理なことを成し遂げるのが科学者にとって最高の悦だということを忘れないでほしいもんね」


「アンタの性癖なんて興味ないわよ。それとも、そんなこと言うからにはこの問題点を解決することもできるっていうの?」


シャインは挑発するかのようにそう告げると、ノヴァは笑い……はしなかった。いや、笑ってはいても声を上げず、ただ狂気に満ちた不気味な笑顔を浮かべていた。


「団長。この3つの問題、そして最初に言った関節可動域の問題も一気に解決する方法が1つだけあるんだもんね」


ノヴァはそう告げると、有無も言わさずに浮かび上がる設計図のホログラムの横にディスプレイを浮かび上がらせる。そして、どこかの鉱山と思しき採掘場の映像を流し始めた。


「何これ? アイゴティヤ星のヤシマタイト採掘場?」


「ご明察。まぁ見ているもんね」


ノヴァがそう告げるや否や、映像の中に居た1人の採掘労働者の悲鳴が響き渡った。映像に映るその労働者の腕は光の灰と表現するかのように崩れ去り、あっという間に彼の姿は消え去ってしまった!


「……採掘場の粒子分解事故か。偶にある特殊なヤシマタイトね」


「フェフェフェ。それは正解であり不正解だもんね」


ノヴァはそう告げるとディスプレイの映像を切り替え、犠牲となった労働者のデータを浮かび上がらせた。


「団長。彼はこの日が初めての採掘現場だったらしいんだもんね。初出勤でこんな事故に遭うなんてツイてないと思うもんね? でもそれは間違いであって、彼は確実になるべくしてヤシマ線を発生させてしまったんだもんね」


「……発生させた?」


ノヴァの言葉に引っかかりを感じる。ヤシマ線を発生させる周波は特殊な機器でなければ不可能である。しかし、ノヴァは気にすることなく再び映像を映した。


「よく見てほしいもんね。彼が運ぼうとしている物を」


シャインは目を凝らすと思わず閉口した。被害に遭った労働者が荷車に積み込んでいたのは、美しい色合いを持つヤシマタイトだったのである。

 ヤシマタイトは上記のように無色透明であるが、稀にこういった色付きのヤシマタイトが採掘されることがよくある。

色付きのヤシマタイトは周波を当ててもヤシマ線を発することはなく、言わばただの石として廃棄されていたのだ。


「彼が働いていたのは色付きのヤシマタイト。つまりヤシマ線が出るはずがない……ようやくアンタの話を聞く気になって来たわ」


シャインはそう言ってノヴァの方に向き直る。するとノヴァは満足気に、そして少し悦に入るかのように鼻息を荒げながら高説を始めた。


「この映像を見た私はすぐに解析を始めたもんね。まずは廃棄された色付きのヤシマタイトを入手して、解析を始めたもんね。でも、結局ヤシマ線の発生はなかったもんね。やはり色付きのヤシマタイトがヤシマ線を発生するには特定の条件がいるってことだもんね。次にこの労働者を含めた粒子分解事故の被害者を調べたんだもんね。そしたら1つの共通点があったんだもんね」


ノヴァは勿体ぶるかのように舌なめずりをする。シャインは少し不快に思ったが、これから話すであろう彼の言葉に興味があったため、見逃してやることにした。


「彼らの共通点。それは必ず近くに異端者がいたってことだもんね」


「異端者……神通力を持つ人間……」


神通力。かつて共に皇后に仕えた侍従長ジュリアンも持っていた特殊能力である。彼女の場合は人間の持つ本質を見極めるというあやふやなものだったが、それでもその力は本物だった。現に彼女の言葉通り、ダンジョウは純真そのものだったのだから。しかし、神通力は女神メーアを滅ぼした力とされ、神栄教が蔓延る現代では使用する者は異端者として迫害されること多々見受けられる。それらの人々を保護するため、異端者は反抗精神が無いという意思表示を見せるために帝国から異端手帳というものを受け取ることが出来るほどにだ。


「つまり、神通力には色付きのヤシマタイトを動かす力がある……」


シャインの呟きにノヴァはニンマリと頷く。


「間違いないもんね。臨床試験も行ったけど全員が可能だったもんね。これが分かれば廃棄されてきたヤシマタイトの活用や異端者の新しい可能性として世界は変わるかもしれないもんね」


「そうかもね……って待って? それがBEの問題にどう繋がるわけ?」


シャインはそう尋ねてから、ハッと気付いたように眉をひそめる。その表情を見たノヴァは喜びを隠しきれないのか、目を見開きながら口角を左右に大きく上げる。


「団長。団長も神通力があるもんね?」


「……」


シャインは彼を睨みつけながら押し黙る。しかし、当然と言えば当然である。異端者というのは、それほどこの世界では生きづらい存在なのだ。


「団長がいつまでもそんな童女の姿なのはおかしいもんね。いい加減年相応になってないと、こう思われても仕方がないもんね」


「……つまり、アタシのこの身体は神通力で子供のままにしてるって言いたいわけ?」


「違うもんね?」


「……」


シャインは押し黙った。目の前のノヴァという男が最も嫌うもの……それは憶測である。だからこそ彼は憶測でものを語る事はない。いかに狂人といえど、自らのポリシーに反するものや好まない事はそうやりたがらないものだ。そしてノヴァはそういった自身の欲望に関しては純粋なものがあった。


「……まーね。いつから知ってたの?」


シャインは諦めたように背もたれに身体を預けると、ノヴァは再び不気味に笑い出した。


「フェフェフェ! 3年程前から推察して、団長の血液サンプルを調べさせて貰ったもんね」


「血液サンプル? まさか健康診断の?」


「フェフェフェ!」


ノヴァは薄気味悪い笑い声で肯定する。完全なプライバシーの侵害である。シャインの脳裏には今ここで彼を殺すことさえ過ぎったが、彼女は怒りを噛み殺すかのように組んでいた腕を握りしめた。


「そう。で? このアタシに無断でアタシの血を調べたんだから、それ相応の対価が無いとどーなるか分かってんでしょうね?」


「フェフェフェ! 怖いもんね! まるで昔の合理主義だった団長みたいだもんね!」


「昔話する余裕があんなら、指を2、3本折ってやろうか?」


シャインは目を見開きながら無表情でそう告げる。今にも喉元に飛びかかりそうな猛獣の気配と同等の恐怖心を感じたのか、さすがのノヴァも少したじろいだ。


「フェフェ……じ、冗談だもんね。あの子を待つまでの時間繋ぎだもんね」


ノヴァがそう告げると室内の扉が開き、再びミヤビが入ってきた。


「父様。持ってきた」


「フェフェフェ! 完璧過ぎるタイミングだもんね。やっぱり君は優秀な娘だもんね」


ミヤビは2人の間に割って入ると、テーブルの上につなぎ服を置いた。いや、それはつなぎ服とは言い難い。何せ、両手足を含む顔以外全ての部分を覆い隠すような作りをしていたからだ。


「フェフェフェ! 団長。これこそが僕のアイディアを実現するパーティクルスーツだもんね」


「は? パーティクルって……まさかこれ」


シャインは驚愕の表情を浮かべながら、テーブル上にあるつなぎ服に視線を向ける。その驚愕が何よりも嬉しいのだろう。クジャは三度狂人の笑みを浮かべていた。


「文字通り微粒子同士を綿密に縫い合わせた粒子分解に耐える超高密度のスーツだもんね。これを着ていれば身体は粒子分解されても、不純な粒子が混ざることがないから、ヤシマ線の放出が収まった時には元の身体が再構築されるもんね」


クジャは全ての説明を終えたと思っているのか、満足気にようやく腰を下ろす。大きく開いた彼の足の間からは、白衣の中が露になっている。彼は文字通り白衣の下に何も着てはいないようだった。

 シャインは汚物を見たことへの嫌悪感で表情を歪めそうになったが、それ以上に彼の功績に感嘆の意をしますかのように小さく笑った。


「なるほどね。つまり、この服を着て神通力を発生させればBEは動いて装着者も無事と……」


「それだけじゃないもんね。自分の身体を粒子分解させることで分解素材の積み込みは不要。さらに身体は粒子分解されているから、関節部の可動域も無限大……フェフェフェ! まさにすべての条件をクリアしたも同然だもんね!」


そう笑顔で捕捉するクジャは、計り知れなさと同時にやはり狂人であるとシャインは確信する。まともな人間であれば、着用者の身体を燃料代わりにしようなどとは思わないはずだ。

 このような人を選び、さらに非人道的な兵器を認めることは普通ならば許されることではない。しかし、宰相派……いや、それだけでなく自らが属する皇族派の動きも不透明な中、シャインは新たな力を手に入れるために手段を選ぶ余地はなかった。


「……で? BEの試着は出来んの?」


彼女の問いにクジャは笑う。その狂気の笑みが肯定であることがシャインにはなぜか理解できていた。

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