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自灯籠  作者: 葦原爽楽
自灯籠 領域内の数学者
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第二十五話 全てが終わったその後で

新キャラ登場。


ジリリリリリリリリリ!!!


耳元で爆ぜる爆音。

俺の目に映ったのは白い天井。

身体を預けているのはソファーだと知る。

そのまま二度寝しようと目を閉じて・・・・いやちょっと待て俺は確か咎人と戦ってたじゃねぇか!!

身体を起こし、自分の身体を見る。

痛みも怪我もない。完全に消し飛んだはずの右腕は傷跡も残さず元に戻っている。

無事。一瞬全てが夢だったのでは、とさえ思った。

俺は目覚まし時計を止め時間を確認する。


時刻は午後8時52分。・・・・・・夜じゃねぇか。

立ち上がり暗い室内を見渡す。

うん、間違いない。桃花の二階だ。

俺は無事、ここに戻ってきたようだ。

ふと、一階から声が聞こえる。


「ええ・・・・いえいえとんでもない。むしろ俺たちのほうが・・・・・・ええ。そのとおりで」


話し声。女性と男性の声。

一方の声がアラディアさんのものだと知ると、俺は思わず安堵の溜息をつく。

俺は階段を降りて一階を見る。

お客さん用の椅子に座るアラディアさんと、二人の女性が話し合っていた。

一人はエクシリアちゃん。緊張故かそわそわと落ち着かない様子だ。

もう一人は眼鏡をかけた女性。エクシリアちゃんの隣に座り、アラディアさんと話をしながら時折頭を下げている。


ギシギシと音を立てる階段に気づき、全員の視線が俺に集まる。


「噂をすれば本人が目覚めたか。集、来い」


アラディアさんが俺を手招きする。それに従って俺は椅子に座る二人の前に立つ。

慌てて立ち上がるエクシリアちゃんと隣の女性。


「貴方が、海曜集様ですか?」

「え、あ、はい。その通りです」


初対面の女性に、しかも様付けで呼ばれるなんて初めてのことだ。

女性は深々とお辞儀し口上を述べる。


「今回妹のエクシリアを救っていただきありがとうございます。

私はエクシリアの姉、粛正機関・アストレイア所属のロウと申します。

この感謝の気持ちはとても言葉では言い表せません。

貴方は妹の命の恩人です。

重ね重ね、此度(こたび)は本当にありがとうございました」


エクシリアちゃんの姉、ロウと名乗る女性。

立ち振る舞い、言動の諸々から品の良さが伝わってくる。

エクシリアちゃんの育ちがいいのはお姉さんの影響のようだ。

彼女は隣に立つエクシリアちゃんに向けて声を尖らせた。


「エクシリア、貴方も頭を下げなさい!」

「は、はい!あ、ありがとうございました!!」


姉の言葉に、勢いよく頭を下げるエクシリアちゃん。


「ちょ、ちょっと。頭を上げてください!

俺のしたことなんて大したことじゃ――」

「そんなことはありません。貴方のご活躍が無ければ、今頃妹は咎人に殺されていたでしょう。

今回大怪我を負ってまで咎人を粛正したと聞きました。お怪我は大丈夫でしょうか?」


怪我、あんなにやばい怪我をしたのに俺は無傷。

無意識に顕現でも使ったのか?いや、例えそうだとしても消し飛んだ腕だけは治りそうにないと思う。

明らかに俺の顕現を超えたものだった。それなのにどうして俺の腕はくっついているんだ?


「ご安心ください。こいつの怪我は俺が治しました。今のこいつは傷一つありません」


ここで登場するのが我らがド○えもん、アラディアさん。

説明によると腕を治すのは無理だから俺の体細胞を使って腕を一から作ったのだと。

それをさぞ当たり前のようにやってみせる。ほんと何なんだこの人。


「そうですか、それはよかった。

集様。どうか、これをお受け取りください」


ロウさんが俺に何か紙片を渡す。

天秤の紋様が描かれた、札にも見えるカード。


「私たちアストレイアの専用通行ゲート、その通行証です。

これがあればいつでも私たちの粛正機関本拠に飛ぶことができます。

お困り事があれば、どうぞここへお越しください。

私がいつもいるわけではありませんが、エクシリアの連絡ですぐにでも駆けつけることはできます。

その時は貴方の力になると、(すめらぎ)の名の(もと)に約束いたします」


その後も俺はめちゃくちゃ高そうな見舞い品を貰ったり、何度も何度も感謝されたりした。ひとしきり礼を言った後、二人は元の世界へ帰って行った。

二人を見送った俺は一息ついて椅子に座る。

アラディアさんは調理室でコーヒーを入れ始める。こちらに目を向けないまま、アラディアさんが俺に声をかけた。


「お前、あのロウと名乗った女。誰か知ってるか?」

「え、エクシリアちゃんのお姉さんでしょ?」

「はっ」


なぜか鼻で(わら)われた。


「お得意様のお偉い様だ。それくらい頭に入れておけ」

「お得意様?」


何のことやらさっぱり。考えても思い至らない。

俺とアラディアさんは互いに無言になる。

コポポポと、コーヒーをカップに入れる音が聞こえる。

俺は余裕が生まれたせいか、あの咎人の事を思い出す。


「皮肉の一つや二つ飛んでくるかと思ったら、そうでもないんですね」

「あ?皮肉だと?なにがだ」


俺は今回の件を思い出す。咎人・ヘスリヒとの戦いを。


「あんな事で心を乱されるなんてだらしない、とか。

せっかく美味そうな魂だったのに、魂喰いできなくて残念だったな、とか」


レイナ。彼女の魂は解放され、誰に魂喰いされることはなかった。

それがあの矢の力なのかどうかはわからない。

浄化され、一切の呪縛から解き放たれて、輪廻に帰って行ったんだ。

それで、良かったんだ。

俺の言葉を聞いて、アラディアさんは呆れたように言う。


「はっ、それこそ笑えるな。過去をグチグチ引っ張るなんざまさに愚者のそれだ。

もう終わったんだよ。咎人は死んで、お前は生き残った。これで美羽や蛍に支障は無くなった。万々歳(ばんばんざい)じゃねぇか」


そう言ってコーヒーに砂糖を入れるアラディアさん。

そう、だよな。咎人は討滅され、その魂は解放された。彼女もそれを望んでいた。

だけど、何もないのなら、俺の心の内は晴天のように晴れ渡っているはずだ。

なんで今俺の心は曇っているんだ。


「それは結果がお前の望みとかけ離れているからだよ」


心を読んだかのような発言。この人はいつもこうだ。読心の魔術を使っているのか、そんなものを使うまでもなく俺の心情がわかるのか。

コーヒーを一口飲みながら、アラディアさんは俺を指差す。


「お前の思い描いたのはこうだろ?レイナという咎人が元の姿に戻り、二人と再会してハッピーエンド。

それを見て自分も『ああ、良かった』と笑う。

そうならなかったからお前は”違う”と感じてるんじゃないか?」

「それは・・・・・・・・・・・」


たぶん、いや、きっとそうだ。その通りだ。

俺はその未来を望んでいた。言葉にせずとも、そう願った。

けど結果はこうなった。

望んでいない結果になった。

俺が無力だからだ。俺が無知だからだ。

どうしようもない怒りと後悔の矛先は俺に向かう。

今回の件は、これからずっと俺の心を(むしば)むのだろう。

悲劇に関わると必ずこうなる。


「集。お前の感じているそれを、可能な限り抱えておけ。

今後悔しているのなら存分に後悔しろ。今怒っているなら存分にキレろ。

感情はお前の指標になる。自分の成すべき道が分かる。

だが(わずら)わしいからといって排除はするなよ。お前が不快に思う感情も、自分の中の一つなんだから」


俺に視線を向けずに教訓を垂れるアラディアさん。

なんでいつもはめちゃくちゃなこの人が、今日に限ってこんなに優しいんだろう。


「美羽が破壊という想いで咎人と向き合うように、蛍が創造という想いで咎人と向き合うように。

お前は変換という想いで咎人と向き合った。

お前はそれでいいんだ。何も間違ったことはしていない」


アラディアさんは手にしたもう一つのコーヒーを俺に渡す。

俺のためにコーヒーを入れてくれたのか。

一口、それを飲む。

思っていたより苦かった。

アラディアさんは残ったコーヒーを一口で飲み干し、今後の話をし始めた。


「さあ、これで美羽と蛍が安全に堅洲国に行けるようになった。

咎人・ブルーワズ。今度こそ奴にはさよならしてもらおうか」

「勝てますかね。今度こそ」

「勝てるさ。勝てない道理なんてない。奴には良い経験値になってもらおう」


ニタァっと、意地の悪い笑顔を浮かべるアラディアさん。

ああ、こりゃ二人はまた大変な目に遭うな。

もしアラディアさんが暴走したら、今度こそ無理矢理にでも止めないと。

俺は決意し、コーヒーを一気に飲み干した。



■ ■ ■



とある平行世界の、とある二階建ての家。

室内に突然光があふれだし、その光の中から二人の女性が現われる。

破れた空間の隙間からエクシリアとロウが出てきた。

エクシリアは緊張から解放され疲れ切った表情で、対するロウは何事もないかのような表情だ。

エクシリアがソファーに倒れ込みながら姉に言う。


「うへぇ~、緊張したよお姉ちゃん。

まさかお姉ちゃん以外に粛正機関で熾天使クラスの人がいるなんて思わなかったし。

二人の会話を聞いてるだけで冷や汗かいてたんだからね」

「なぜ緊張するのエクシリア。彼も我々と同じ粛正者。

粛正機関同士の対立なんてそうそう起きない。仮にそうなったとしても私がいるでしょう」

「ま、まあそうだね。お姉ちゃんと戦える存在なんて、数えるくらいしかいないしね」


化け物を見るような目でロウを見るエクシリア。

心外だと、ロウは同じく視線で返す。

それは間違いではないが正解でもない。

彼女はキッチンに移動し、遅い夕飯を作ることにした。

その気配を察知し、エクシリアは姉に、


「私はもう大丈夫だから、お姉ちゃんそろそろ高天原に帰ったら?仕事部下の人に任せて来たんでしょ?」

「心配には及びません。これから貴方に小一時間説教をするくらいには時間の余裕があるので」

「おぉう、マジですか・・・・・・」

「当然です。私がもしもの時のためにと貸した天羽々矢(あめのははや)を、まさか彼にキャッチしてもらう前提で放つなんて。

彼が消滅してもおかしくなかったんですよ」

「それは・・・・・反省してます」


我ながら馬鹿な事を思いついたと、エクシリアはしょんぼり肩を落とす。

だけどあの場ではあれがベストだった。即興で考えた割には上手くいっていたと思う。

あのまま戦っていても二人に勝機はないし、逃げられもしない。一か八かに賭けるしかなかった。

もしも集がいなかったら、自分が自爆覚悟で咎人に突っ込んでいた覚悟もある。

たぶんそれを言うと姉の鉄拳が飛んできそうだから言わない。

溜息をついて、ロウは話題を変えた。


「最近、堅洲国ではある異変が生じています。今度から貴方が咎人の粛正を行う時は私もついていきましょう」

「異変?」

「ええ、咎人の強大化。今はほんの一握りしか確認されていませんが、この現象が続けば全ての粛正機関や高天原にとっても脅威となる。

いずれにしろ、早く大元を見つけなくては」


粛正機関アストレイア所属、並びに高天原十二天の一柱、ロウ。

彼女は眼鏡をかけ直し、ソファーで苦い顔をしている妹を見つめる。


粛正機関の共通原則。死をもって咎人を裁く。

死で罪を償う。死で咎人が背負った重荷を降ろす。

結局殺す事には変わらない。体の良い言葉でしかない。

けれどそれは排除とは違う意味。それよりもっと温もりがある言葉。そして粛正者の真髄(しんずい)を現す教訓。

その真の意味を悟るには、エクシリアもあの少年もまだ早い。


今回、危うい場面は幾度もあった。それについては彼女の魂に刻まれるまでこれからじっくり教える。

だが恨みや怒りの感情無しで咎人と相対(あいたい)したこと。それだけはこの後褒めてあげよう。



次回、QandAコーナー。

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