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自灯籠  作者: 葦原爽楽
自灯籠 領域内の数学者
68/211

第二十二話 力を合わせて

前回、ウリエル



そして視界は俺に戻った。

胸がざわつく。怒りと悲嘆と、なにより恐怖で満ちていた。

総身(そうしん)が怖じ気づく。大型の肉食動物と相対(あいたい)したかのように、少しの間身動きを取ることが許されなかった。


なんだ、あれは。あの化け物は。

他人の記憶を見ただけ。他人を通して見ただけ。

それなのに、俺の魂を恐怖でがんじがらめにするほどの超常存在。

あれには勝てない。どんな理論や説明を並べるよりも、直観で十分に分かった。あんな存在を初めて見た。

あの存在感。もしかして、店長よりも――。


絶望的な事を考え始めて、俺はその考えを無理矢理振り払う。

今考えることはそうじゃない。今は目の前の咎人を粛正することだけを考えろ。

俺に向かって伸ばされる手足。弓矢で迎撃され、半分以上の手足を失う。

一々(さば)いていられない。避けることに集中し、俺は咎人を見据える。


そして、またも視界が逆転した。

俺の視線が高くなり、遠くの地平線までハッキリと見える。

しかし視界以外の感覚は俺自身の身体に残っている。今も俺は手足を避け、その衝撃が身体を打っている。

つまりだ。ただ視界だけを入れ替えるのなら、大して脅威でもない。

むしろ視線が高くなったおかげで避けやすくなった。どこから手足が降り注ぐか色んな視界から丸見えだ。

それゆえに、それは見えた。


咎人の一本の手。それが疾走する俺の前方の地面に触れる。

すると、地面が朽ち果てたかのように消滅した。


「なに!?」


地面がなくなり彼我の間に崖ができる。

跳躍する。大気を蹴って空中を駆ける。

そんな俺に追いすがる手足の群れ。それを躱しながら、俺は今の現象が何なのかを考える。


手に触れた地面。それを構成する粒子やら原子やらが炭のように消えたんだ。

まるで俺が、さっき咎人をそう変換したように。

そんなことを考えている間にも手足は押し寄せる。

エクシリアちゃんの援護にも限界はある。俺や咎人・ヘスリヒよりも霊格は低い彼女が、むしろここまでついてこれたことが驚きだ。

針の穴を糸で通すように俺は隙間を見つけ、もしくは作って回避する。

しかし一つの手に胴体が触れてしまった。


襲い来る衝撃。それは全身を駆け巡るよりも早く、力の塊は俺の身体を貫通した。


「なぁっ!!」


まるで全身が爆発したような痛みが走る。

間違いない、今のは、()()だ。

先ほどの地面の崩壊も、俺が最初に見舞った死滅だ。

今も、俺が咎人に対して放った貫通。変換された衝撃が銃弾のように俺の身体を貫通し、後から全身に痛みが駆け巡った。

顕現を模倣した。その可能性が高い。


再び襲い来る無数の手足。地面をたたき割りながら俺に押し寄せる。

手足に触れた地面が死滅し、衝撃が地面を貫通している。つまり、


(あの手足の全部に使えるのかよ!?)


冷や汗とともに、俺は大きく飛び退いてその場を離れる。

その地点から1㎞ほど離れて、俺は全身の損害を回復した。

再び全快となった俺の身体。俺はエクシリアちゃんに連絡する。


『まずい、俺の顕現を真似られた!』

『確認しました。確かに先ほどと毛色が違いますね』

『なんだろうな。さっきから記憶が流れ込んできたり顕現を真似られたり、接触を重ねるごとにそんな現象が起きてる気がする』

『その線、充分あり得ます。長期戦に持ち込まれたら不利ですね』


果たして奴の顕現はどういう力なのか。

それが分からないと、この先迂闊(うかつ)に近寄ることも出来なくなってしまう。

どうするか考えようとした矢先、エクシリアちゃんが俺を呼んだ。


『先輩、提案があります。こちらへ来てくれませんか?』

『?分かった』


俺は彼女がいる崖まで跳び、彼女の提案を聞く。


「私の顕現を使います。そして奴を幽閉(ゆうへい)します」

「え?」


その申し出に戸惑った

格下の攻撃は、例え顕現によるものだろうと格上には通用しづらい。両者の間には圧倒的な霊格の差があるからだ。

唯一格上殺し(ジャイアントキリング)に特化した顕現ならそうも言えないが、もしかしてエクシリアちゃんの顕現はそれか?

しかし彼女は首を横に振る。


「私の顕現はそういう代物ではありません。『追放』。それが私の顕現です」

「追放・・・・」

「そう。確かに今の私では奴に届きません。ですが、それを可能にする方法はあります」


するとエクシリアちゃんは俺に向かって手を差し出す。


協力意思(きょうりょくいし)、という術技を聞いたことはありますか?」

「協力意思?ええと、確かどこかで聞いたことがあるようなないような」


それを聞いたエクシリアちゃんは、こいつマジかと言わんばかりに眉をひそめる。

え、そんな常識なの?少なくとも俺は詳しい内容は分からないんだけど。

仕方ないと、エクシリアちゃんは説明を始める。


「協力意思とは読んで字の如く、自分と他者の意思を協力させ一つにすることです。

スポーツ競技とかだとわかりやすいですかね。プレイヤーと観客は一体となって自分たちの勝利を目指すみたいな」

「ええと、つまり集団の意思のようなもの?」

「大雑把に言えばそうですね。そしてこの協力意思は魔術や顕現にも適用できて、その力や効果を強めることができます。

単純な足し算やかけ算にはなりませんが、私と先輩の意思が合わされば、私の顕現でも奴に届きます」

「まじで!?そんな便利な方法があったのか」

「ええ、その協力意思を有効に使うためにも、咎人は魂喰いをしているんですよ」


魂喰い。殺した相手の魂や想いを我が物とする術技。

当然相手の意思も自分のものにできる。ゆえに魂喰いを繰り広げている咎人は個人でありながら集団でもある。

協力意思というものが自分に賛同する人が増えるごとに効果を増すのなら、魂喰いをし続けている顕現者たちは見事に協力意思を使っていることになる。


「じゃあ、今それを使えば―」

「可能性はあります。来ました!」


地鳴りを上げて咎人が崖に向かってくる。

エクシリアちゃんは俺の手を掴む。柔らかい、女性の肌と体温だ。


「いいですか。奴がここからいなくなれって一心に想ってください。それ以外の思考の余地が無くなるまで。

一つの想いに同調するほど、協力意思は効果を増します!」

「分かった!!」


重なった掌を握って、俺は自分の想念に集中する。

想う。奴がこの場からいなくなることを。

もう粛正機関を襲わずに、どこか遠くへ消えることを。

怒号を上げて突進する咎人。奴が俺たちの前方百メートル。五十メートル、残り10メートルに近づく。


「罪を犯した人間に、楽園は黄金の恩恵を拒絶する」


目前に迫った咎人・ヘスリヒ。それを目にし、臆せずにエクシリアちゃんは唱える。


「顕現 追放」


唐突に、咎人の突進が止まった。

今も前に歩を進めようとする肉塊。俺たちに伸ばされる手足の群れ。

その動きが止まる。

前に伸ばしているのに、(こう)しきれない力で後ろに引っ張られているような。


咎人の後方。

次元が裂かれたような断裂。そこから先に光が見えた。

光だけではない。草花、樹、草原、川、自然物だけでなく建物などの人工物がある。

俺のいる世界ではない異世界。それが口を開けて咎人を飲み込もうとしていた。


やがて咎人が浮遊する。その巨体が浮いた。

叫び声を上げながら異世界の口に飲まれる咎人・ヘスリヒ。

その手は最後まで俺たちに伸ばされていた。


飲み込まれ、異次元に放逐(ほうちく)されたことを確認し、異世界の口が閉じていく。

縄のような何かがその口を縫っていく。

先ほどエクシリアちゃんは幽閉と言っていた。つまり咎人を殺さずに無力化すると。

確かにこれならもう二度と出られない。厳重な封印を施して、異次元の境は閉じていく。

俺たち二人分の霊格を込めた、詠唱付きの顕現。無事、ヘスリヒに通用したようだ。


完全に異次元の口が閉じたことを確認した俺たちは、その場に座り込む。

終わった。疲れがどっと湧き出てくる。

隣で深く溜息をついたエクシリアちゃん。相当疲れたようだ。

無理もない。格上の戦闘に援護とはいえついてきたんだ。俺なら速攻尻尾振って逃げるのに、随分覚悟と勇気があるもんだ。


「粛正することはできませんでした。あくまで永続的に無害化しただけです。

それが悔しいと言えば悔しいですが、これ以上長期戦に持ち込まれては追い込まれるのは私たちと判断しました」


文句があればどうぞと、彼女は真摯(しんし)な態度でぶっきらぼうにそう言う。

それがおかしくて、俺は微笑みながら感謝する。


「ありがと。俺だったらあのまま突っ走って死にかけてた。

エクシリアちゃんってけっこう場慣れしてんだね。俺よりよっぽど勇気と知識があって羨ましい」

「・・・・・・・・・何を言ってるんですか、変な人ですね先輩は」


奇妙な変人を見るような目をするエクシリアちゃん。

本音を言っただけなんだけどな。失敗したか。

まあいい。俺は立ち上がりこれからの段取りをする。


その時だ。


「!!」


真っ先に気づいたのは俺。

俺とエクシリアちゃんの真横。そんなに離れていない位置に、先ほど見た異次元の断裂が現われる。

奥に見えるのは先ほどの異世界。そしてそこから姿を現す肉塊。

まさか、そんな!

果たして俺の予想は当たり、咎人・ヘスリヒは異世界からこちらに戻ってきた。

断裂をこじ開けて、数本ある手足を振るう。

狙いは、もちろん俺とエクシリアちゃん。


「くそっ!!!」


咄嗟(とっさ)にエクシリアちゃんの前に出る。

間一髪。盾となった俺は肉と骨を四割くらい抉られながら、エクシリアちゃんを巻き添えに吹き飛んだ。

やがて着弾。堅洲国の山。地形が盛り上がっただけのそこに、俺たちは突っ込む。


「ぐ、がはっ!」


口から大量の血反吐を吐く。身体が麻痺してるのが分かる。

体勢を立て直したエクシリアちゃんが俺に駆け寄る。良かった、怪我はあまりないようだ。

脳内に再び走るノイズ。また、記憶が。



ザザッザザッザザザザザザザザザッッッザザザザザザザー(砂嵐。俺はまたあれを見るのか)



目覚めたのは、暗い部屋だった。

ガシャガチャと音が鳴った。見ると手足が鎖で繋がれている。

どれだけ引っ張っても壊れそうに無い。というか力が出ない。


周りを見渡す。独房?目の前には鉄格子が外と私を遮っている。まるで中世の牢屋のようだ。

自分を見る。死に繋がる損傷を負っていたのに、胸の穴は塞がっていた。

二人・・・・・・そうだ!二人はどこだ。

しかし近くに二人はいない。自分以外誰も確認できない。見つけたくても見つからなくて、泣きそうになるほどの不安が襲う。

だけど、ふと、美味しそうな匂いがした。


「♪~♪~~♪♪♪~~~」


陽気な声が後ろから聞こえた。

何かをかき混ぜる音も一緒に聞こえる。金属と金属がぶつかる音も。

足音を響かせて、やがて私の前に彼が現われた。


「ッッッ!!!!!」


目にしただけで魂が恐怖で束縛される。

その顔、その姿。間違いない、先ほど私たちを一蹴した咎人・ウリエルだ。

手にはカレー。高級そうな食器に美味しそうなカレーが注がれている。

恐怖に呑まれながらも、舌を噛まないよう注意しながら言葉を紡ぐ。


「ふ、二人、二人は!?二人はどこっ!!!」


私の言葉が聞こえてないのか、彼は片手でカレーを持ったまま、もう一方の手で私の顔に触れる。

私の唇と(あご)を掴む。優しく、痛くないように。

その指が私の口の中に入りこみ、下の歯に触れた。

相変わらず抑揚の無い声と焦点の合ってない目で、彼は私に笑いかける。


「それは、食べてからのお楽しみだよ」


グゴギィ!!!と、何かが剥がれる音がした。

見れば、私の下顎が彼の手で引き千切れる寸前まで外されていた。


「!!?!?!!?!?!!!!!?!?」


激痛で悲鳴を上げようにも、喉から空気が漏れ出しているようだ。言葉が(つむ)げない。

彼は手を離し、スプーンを手に取ってカレーをひと(すく)いする。

押さえるものがなくなって、ブラブラとブランコのように揺れる下顎。

筋繊維(きんせんい)が断続的に千切れる音が聞こえる。

喉の奥で悲鳴が発生する。が、彼は一切合切を無視した。


ウリエルはカレーを私の口に流す。あるいは垂らす。

激痛で味が一切分からない。粘っこい水が舌の上に垂れてきた。そうとしか言い表せない。


「はい、飲んで」


ウリエルは私の千切れかかった顎を掴み、元の位置にまで持ち上げ、無理矢理飲み込ませようとする。

火で焼かれたような激痛。カレーが詰まってむせそうになるが、彼に口元と鼻を押さえられ吐くことも呼吸をすることも許されない。

やがて喉元を何かが伝った気がした。それが血なのかカレーなのかは分からない。

彼は私の下顎を離し、スプーンで自分も一口食べる。

目を閉じて味を堪能している。気絶しそうになりながら、涙で歪む視界の中私は彼を見ていた。


「うん。美味しい。美味しいよ。

久しぶりに作ってみるもんだ。やっぱりカレーは具が大事なんだ。

厳選してはいないけど、肉がしっとりして美味しいや」


一人で自らが作ったカレーの感想を呟くウリエル。

そして、思い出したようにカレーを近くの机に置く。


「ええと。二人、だったかな」


鎖で繋がれた私を回転させる。

目の前には鍋があった。匂いの大元はここから。ぐつぐつと煮えるカレーが見える。

ウリエルは私を固定して、カレーをお玉でかき混ぜる。

お玉でカレーの中身をすくい上げ、それを指差した。


「はい。これ」

「・・・・・・・・・?」


これ?何を言ってるんだ?

二人の姿はない。もしかして鍋の中に入っているとでも?

それとも彼は質問の意図が分かっていないのか?


ウリエルはお玉ですくったカレー。その中を指で探る。

するとブロック状の肉が出てきた。

ウリエルがそれを指差して言う。


「これ。どっちかはわからないけど」

「・・・・・・・・・」


分かりたくない。分かりたくは無いけど、だんだんと分かってきた。

彼が何を言っているのか。分かってきた。


「君が、リガとログって言ってた二人のどっちかだよ」


ウリエルの口から、質問の答えが出てきた。

心の奥で、何か糸が切れる音がした。

それは自分を支える大事なもので、同時に失ってはいけないものだと気づいた。


「ぁ、あ・・・・・・・・・・」

「調理方法聞いてくれる?まずね、二人の死体を並べたんだ。頭と四肢と胴体を包丁で切って、頭から調理に入ろうって思ったんだ。

頭髪はさすがに邪魔だから皮膚ごと切って、それ以外は洗って鍋に突っ込んだよ。耳を切って、目を取って、鼻を取って、肉がある部分はひとしきり入れたかな。

その後は四肢だ。ちゃんとたわしとかスポンジで洗ったよ。それから肉をそぎ取って、適当に切って入れた。

胴体は大変だったな。内臓の部位を一々摘出(てきしゅつ)して入れたんだから。けどその分色んな部位が楽しめるから結果オーライだね。

後でいっぱい食べさせてあげるよ。肺とか腎臓とか大腸とか。一口大に切っただけだけどね。

骨はどうしようか迷ったんだ。けどね、すり鉢とかでごりごり砕いて、粉状になったそれをカレーに入れたんだ。本当は鍋に入れて出汁をとりたかったな。

後はぐつぐつ煮てたら、ちょうど良いタイミングで君が起きたんだ。

人間を使ったカレーなんて食べたこと無いよね?それが顕現者ならなおさらだ。きっと貴重な体験になると思って腕によりをかけたよ。味はどうだったかな?是非とも感想を聞きたいな。君の世界の食文化は分からないから、もし口に合わなかったらごめんね」


抑揚のない声で、私に感想を求めるウリエル。

その口ぶりに、声色に、悪意は一切見受けられない。敵意もなくて、まして嗜虐や嘲弄の感情も欠片も見当たらない。

それがどうしようもなく異常で、せめて人間の悪意に当たる感情が垣間見えて欲しいとも思えた。

人をゴミだと、本気で思っていてもこうはならない。自分以外の全てを利用するという判断しか持たない人間でも、こうまでおかしくはならない。

異星人と出会ったかのように、本当に理解が一片たりともできない存在。

異常。異常。異常。異常。異常。異常。

魂が恐怖で雁字搦めにされる。蛇に睨まれた蛙のように、瞬き一つすることも許されない。


言葉を返す余裕なんてもちろんない。

その料理風景を想像して、胃から吐瀉物(としゃぶつ)が湧き上がってきた。


「うっ――」

「おっと、危ない」


それを察知したウリエルが私の口を塞ぐ。

口内が先ほど食べたカレーの味と、胃液の味で満たされる。

吐き出したいのに吐き出せず、喉が胃液で詰まって呼吸ができない。


なんで、なんで、なんでこんなことを。二人を、どうして。

口を塞がれてえずきながら、私は涙でぼやける視線で精一杯訴える。

ウリエルは大らかに、落ち着いた様子で答える。


「人にとって最高の愛情表現はね、一心同体になることだと思うんだ。

だってそうだろう?結婚は二人が一緒に生涯を暮らすことを誓うことだ。

抱きしめたりキスをするのも、本来離れている二人が身体的に一つになっているだろう?

だからね、相手を食べて一つになることもそうじゃないかな。

愛するから食べる。愛しい人と肉体的にも精神的にも一つになる。これこそ愛。純愛だ。

だから君も嬉しくて泣いてるんじゃないの?」


ウリエルがその手に伝う涙を指で掬う。言うまでも無く私の目から溢れたものだ。


「君たちからカレーの話を聞いた時に決めたよ。食べさせてあげようって。

だって君たち想いあってたから。言葉にせずとも愛し合っていたのが分かったよ。

青春って感じで、なんとも甘酸っぱい日々を送っているんだろうなって想像できたよ

いじらしいじゃないか。応援したくなる。だからこれは、僕なりのエールだと思ってくれれば助かるよ。余計な手助けだって思われるかもしれないけど、君たちを想うこの気持ちは本当なんだ」


彼は胃液を飲み干した私を見て、再び食器にカレーをよそる。


「さあ、食べよう。もっと二人を。舌で味わって、喉で飲み干して、胃で彼らを溶かして、細胞中に二人を行き渡らせるんだ。

全身で彼らを堪能(たんのう)しようよ。カレーはまだまだあるんだから」


彼は私の下顎を掴んで、カレーを口の中に流し入れた。

舌にあたる固形物が全てあの二人なのかと、私は放心しながら二人を飲み込んだ。



ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ(今までで一番激しい砂嵐。彼女の意識と同調しているかのようだ)



次話、悪夢と現実

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