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自灯籠  作者: 葦原爽楽
自灯籠 領域内の数学者
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第十八話 座天使

今回の話。時間軸的には、美羽と蛍が四層に行ってブルーワズと戦い、逃げられた後の話です。だから二人がブルーワズを倒す前。


「来ましたよ~アラディアさん。毎度突然呼ぶの止めてもらっていいっすか?」


桃花の裏口から店内に入る。

現在店長と天都さんはいない。故にアラディアさんの一党独裁(いっとうどくさい)政治が行われている最中だ。

一階にはいない。二階だな。階段を上って、俺はソファーに座っているアラディアさんを見つける。

手には分厚い本を持ち、ブツブツ呟いている。


「アラディアさん?来ましたよ」


聞こえていないのか?アラディアさんは時々この状態になる。一つの事に集中して、周りが見えていない。

仕方ない。俺もソファーに座って待つか。

アラディアさんと反対のソファーに座、ろうとしたところで首根っこを掴まれた。

誰が?もちろんアラディアさんだ。本を片手にブツブツ呟きながら俺を掴む。

そのまま俺を引きずりながら奥の壁に向かう。


「え?ちょ、アラディアさん?何をするんですか?」


俺の疑問を当然のように無視。何を考えたのか、アラディアさんは俺をポイッと堅洲国の扉に放り込んだ。

数瞬の後に視界が赤に染まる。

赤い大地。赤い空。赤い海。高度1000メートルの空中に俺は放り出される。

間違いない、ここは堅洲国だ。


「アラディアさーーーーーーーーーーーん!!!!!」


怨嗟(えんさ)を込めた絶叫は、しかしアラディアさんには届かなかった。

無事に不時着。大地に身体を叩きつけられ、決して少なくない衝撃が俺を襲う。

無事に済んだのは顕現者の特性ゆえにか。俺は立ち上がって周囲を警戒する。

周囲には遠くからこちらを見ている住人がひい、ふう、みい。何事かと視線をこちらに向けている。


それは俺もだ。遠くからでも分かる相手の霊格の総量を見る。

俺と同レベルか、俺よりも霊格が高いものが多い。

アラディアさん。こんな所に放り込んで何する気だ?説明不足にも程がある。

戸惑う俺の前に、突如アラディアさんが出現した。


「あ、アラディアさん!いきなり何するんですか!?」


抗議の声は無視された。アラディアさんはじろじろと俺を見ている。

俺の腕を掴んだり、俺の顔をじーっと見たり、観察しているようでもあった。

もう何を言っても無駄だ。こうなったら満足するまで待つしか無い。


「大丈夫そうだな」


ひとしきり観察し終えたアラディアさんは一言呟いた。


「アラディアさん。そろそろ説明してくれないと()ねますよ俺」

「るっせぇ、帰るぞ」


帰還するための術を唱えて、アラディアさんとともに光のなかへ消える。

最後まで(ろく)な説明をしなかったな。


「お騒がせして申し訳ありませんでした」


光に消える前に、遠巻きで見ている堅洲国の住人にアラディアさんの奇行を詫びる。

さっきからなにやってんだあいつら?という目で見ていたからだ。視線が痛かった。


やがて二階に戻り、アラディアさんは俺に言う。


「というわけで、お前はどうやら座天使(スローンズ)の階級にいるようだ。わかったか?」

「え?いや、いやいやいや!!!何一つわかんねぇ!!説明!頼むから説明してくれ!!」


話を切ろうとしたアラディアさんに縋り付く。

座天使?え、俺いつの間に座天使になってたの?そして堅洲国に放り込まれた理由(わけ)は?

今さっきのあれで何を読み取れと言うんだ?

唐突に堅洲国に放り出されたと思ったらまた連れ戻されただけだぜ?

俺はエスパーじゃないんだ。せっかく言語という人類に与えられたコミュニケーション方法があるんだからそれ使おうぜアラディアさん。

必死の説得に、仕方ねぇなと、面倒な顔でアラディアさんは説明する。


「今お前を落としたのは堅洲国・第七層 座天使がいる層だ。

基本、堅洲国の層は、その層より格下は存在できない。

具体例でいうなら、力天使(ヴァーチュース)が存在する五層には、四層の存在である能天使(パワーズ)は存在できない。

それは空間全体の強度が段違いだからだ。そこに存在している咎人共の影響で空間全体が様々な色を取り込み、空間そのものの強度が強まる。

つまりだな、一定の霊格に達しない状態で下の層に行けば、たちまち身体と魂が消滅するってわけだ。

下りてきた者がその層に存在して良いか、空間全体がふるいをかける選別システム。

一見無秩序な堅洲国で住み分けが出来ているのはこういうことだよ」


アラディアさんの言葉を脳内で反芻(はんすう)する。

堅洲国の各層はそこに住む咎人の影響で空間の強度が強まる。

それゆえに空間は一種の排他性を持ち、それが選別システムとなり、上層の咎人の侵入を防ぐ。

同格か、それ以上の存在しか認めない。ということか。


堅洲国・第七層に放り出された俺は空間の選別を受けていたが、それ相応の霊格だったために無事だったと。

ん?あれ、ってことは・・・・・・。

ここまで考えて不穏な影が脳内をよぎる。


「え、じゃあ、俺は七層に行って何もないとわかったから座天使(スローンズ)ってわかったんですよね?」

「ああ、そうだ」

「もしその基準に達してなかったら俺はどうなってたんですか?」

「・・・・・・・・・・・・」

「おい!黙らないでくださいよ、怖いじゃないですか!!」


手元の本に意識を戻したアラディアさん。再びブツブツ呟きはじめ、周りが見えなくなる。

俺の声?当然無視だ。

危うく消滅するかもしれなかったというのに、なんだこの対応は。

肩を落として、俺はソファーに座る。


「用件それだけですか?終わったなら俺帰りますけど」

「いんや、まだ終わってない。仕事がある」


仕事、それを聞いて俺の目が鋭くなる。

表の仕事は休業中だ。店長がいないのだから。

なら仕事は裏の仕事しかない。

アラディアさんが俺のおでこらへんに手を当てる。


一瞬の間に、脳内に流れてくる情報。映像。

異形の姿。巨大な肉塊だ。

白い、ぶよぶよした肉の塊。全長は十数メートルほど。

それに無数の手と足がついている。触手のような口は計八本。

肉塊の表面には無数の、人の顔が張り付いている。

泣いているのか、悲しんでいるのか。その全てが苦悶の表情を浮かべている。

堅洲国を動き回る肉塊は、無数の手と足を使い高速で移動する。

地鳴りをあげ、巨体を震わせながら移動するその姿、まさにクリーチャー。

映像は途切れ、アラディアさんが俺の頭から手を離す。


「位階は座天使(スローンズ)。咎人・ヘスリヒ。今回こいつを粛正しろとの依頼だ。

ちょうどお前が座天使になった記念だ。もう一回堅洲国に行ってこいつを殺せ」


咎人の粛正依頼。もちろん今日咎人と戦うなんて、前情報は一切無し。

ほんとに唐突だなこの人は。仕方ないと諦める。


「その咎人がなにをしたんですか?」

「粛正機関を中心的に襲ってる。いや、()()()()()()()()()()()()

つい先日も堅洲国・第四層に入界したどっかの粛正機関がこいつに襲われたらしい。

そいつらは全滅。奴の(えさ)になったとさ」

「それは、まずいですね」


粛正機関だけを狙う咎人。

理由はそれなりに考えられる。

粛正機関に恨みがある。友人、家族、仲間を殺された。あるいは自分も襲われて殺されかけたとか。

あるいは咎人に対する同族意識か。同じ境遇の咎人を守るために、自ら粛正機関の前に立つ咎人もいる。

今回もきっとそれだろう。俺は大体の目安をつける。


「既に三つの粛正機関が襲われている。

上層、中層見境(みさかい)なしだ。特にこの二つは他の粛正機関の入界が最も多い層。

そこに下層の咎人が出てきたら、粛正機関は入界を拒むだろうな。必然的に咎人の粛正数も減少する。

早急に殺す必要がある」


アラディアさんは目線を俺に戻す。鋭い目だ。


「分かるな。つまりこいつはお前への当て馬ってだけで選んだわけじゃあない。

これからも中層を担当する美羽や蛍にも影響を及ぼしかねん。ハッキリ言って邪魔だ。

もしも二人がこいつにエンカウントしたら、まあ死ぬわな」

「ッ!!」


その言葉に心臓が早鐘を打つ。

いけない、それはいけない。あの後輩たちが死ぬなんて、それは何がどうあっても駄目だ。

そんな俺の様子を見て、アラディアさんは淡く微笑む。

奥の壁を指差す。


「譲れない理由はできたな。準備が出来たら行け。

咎人の位置は既に分かってる。七層で咎人が確認された位置に設定しておいた。

後はお前次第だ」

「・・・・・・分かりました」


堅洲国に入界する前に、俺は日課となっているルーティンをすることに。

ポケットからスマホを取り出して、お気に入りの歌い手、粉ニマさんの曲を聴く。

検索して出てくる歌の数々。俺は最近気に入った曲を再生する。


曲名は『Friendly Smile』


次回、咎人・ヘスリヒ。

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