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自灯籠  作者: 葦原爽楽
自灯籠 領域内の数学者
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第五話 あの人はいつも突然に

前回、三人でお粥とフルーツを



そして今日、僕は喫茶店・桃花の前にいる。

表の扉にはcloseと書かれた小さい看板。やはり表の仕事はしていない。

花壇には紫陽花(あじさい)朝顔(あさがお)、そして新しく紫色の花が咲いている。

あれは、なんの花だっけ。

スマホでこの時期に咲く花を調べる。すると類似する花を見つけた。

ストケシア、という名の花だ。集先輩が植えたのかな?


さて、唐突に呼び出されたわけだが、

アラディアさんの言葉では、当分は来なくていいんじゃなかったのか?

それとも何か緊急事態が起きたのか。

そんなことが起きてもアラディアさんたちなら易々と切り抜けられると思うんだが。

まあいい。裏口を通って、店内に入る。


「こんにちは」


店内を見る。

調理場には誰もいない。当然か。

客席。そこに一人の男性が新聞を読んでいた。

その姿。いつも目にするあの人だ。


「天都さん。帰ってきてたんですか」

「ああ。昨日な」


オールバックにした黒髪、鋭い目つき。

喫茶店・桃花の店員。天都さん。

来週までいないはずだったが、もう帰ってきたのか。

手にした新聞から目を離し、天都さんは上を指差す。


「店長とアラディアが上にいる。

二人から話を聞け」

「はい」


そのまま二階へ上る。

簡素な部屋には、ソファーに座ったアラディアさんと店長がいた。


「こんにちは、蛍君」

「こんにちは、店長。来週まで帰ってこないんじゃなかったんですか?」

「予定がずれました。友人に迷惑をかけるわけにもいきませんし、それに知りたいことも知れましたから」


店長が立ち上がり、僕に向かい合う。


「さて、四層の咎人を粛正したと聞きましたが、どうでした?」


答えたのは僕ではなくアラディアさんだった。



「はい。特に()()はありませんでした」

(支障はありませんでした!?)


思わずアラディアさんの顔を見る。

その顔はまったく嘘をついているようには思えない、何を考えているか読めない顔だった。


美羽が毒で倒れているのですがそれは・・・・・。

それともアラディアさんにとってはそれすら支障が無い範囲なのか。

真実は彼のみぞ知る。


「美羽が伏せましたが、騒ぐ程の怪我でもありません。念のためあいつには家で休ませておきましたが、あと数日で完治するはずです」

「ふむ、心配ですね。蛍君、それは本当ですか?」

「え、あ、はい。色々ありましたけど、なんとか僕も美羽も生きてます」

「そうですか。それで、咎人は蛍君が殺したのですか?」

「いいえ、止めは美羽が刺しました」

「?」


僕の言葉に、店長は首をかしげる。何か変な事を言っただろうか。


「店長。ついでに報告したいことが二点あります」


アラディアさんが立ち上がり、いつの間にか持っていた紙の資料を店長に渡す。

店長はそれをめくり、内容を確かめる。

字面を追う目は鋭く、真剣なものへと変わっていく。


「まず一つ。美羽についてですが、どうやら()()()だったようです。

咎人との戦いで具現型の顕現が一つ増えました」


それは僕も見た。美羽の新しい顕現を。

派生型。顕現は大別して具現、無形、展開の三つの型がある。

派生型というのは、この三大カテゴリーに加わる新しい型ではなく、顕現の特徴とか性質とかを指して使われる。少しややこしいな。

つまり、美羽の場合は『具現型』の『派生型』ということだ。


原則として顕現は一人につき一つだ。

しかし例外はある。たまに、一つの顕現から派生・分岐して生まれる顕現がある。

それが派生型。

根は同一の想念から生まれる派生顕現は、その効果も似通ったものである場合が多いとか。

美羽の場合もそうだった。あの脚の武装。腕と同じく破壊の力で満ちていた。


「そしてもう一つ。こいつらの成長スピードについてです。

店長も感じたとおり、蛍は霊格が拡大しています。

しかし咎人を殺して魂喰いしたわけではありません。咎人は美羽が殺しました。

ですが、こいつはどういうわけか力天使(ヴァーチュース)に匹敵する霊格に達しています。

数日前にはそこらの能天使(パワーズ)と同等のレベルでしかなかったはずなのに。

死闘の果てに成長したと言えばそれまでですが、それにしても目に付くものがある。

俺はそれが気になりました」


アラディアさんは早口に話す。

自分の事を話されているが、理解が追いつかない箇所が数点ある。

僕が力天使(ヴァーチュース)の領域に至ってるだって?

僕自身にそんな実感は全然ない。


僕が戸惑っていると、店長がアラディアさんに言う。


「なるほど。それで、貴方は蛍君を呼び出して何をするつもりですか?」


アラディアさんはニタァと笑う。

背筋が震える。嫌な予感がする。

やばい、どう考えてもまともな事が起きそうにない。


「これから五層の咎人をぶつけて、その様子を観察します」


・・・・・・・・・え?

アラディアさんが戸惑う僕に顔を向ける。

悪魔のような、満面の笑みだ。


「了承してくれるだろ?」

「・・・・・・・・・・・はい」


無言の超圧力に負けた僕は、ただ頷くしかなかった。



次回、脳髄

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