終幕
神坂八千穂は、その後も〈霊鬼割〉をやっている。自分の命云々(うんぬん)ではなく鬼を見過ごせないためだったが、過剰に反応することはなくなった。分をわきまえてきた、と本人は思っている。
向井毅瑠は、〈夢飼い〉の力を手にいれたものの、だからどうということもない。九月の事件以降、毅瑠はその力を使っていない。今は神坂弦悟の元で、力を制御する修行を行っている。最近では、普段〈魂糸〉を見ずにいることができるようになってきた。
そして、二人は学園公認のカップルとして、日々生徒たちの冷やかしに晒されている。
とはいえ、人前でべたべたするような二人ではない。今まで通り一緒にいるだけだった。
それでも、八千穂にとっては良い風が吹いている。あの生徒集会での木訥な告白は、女生徒たちの心を捉えた。最近では、綾音や生徒会の面々以外にも友達が増えたようだ。
体育祭と文化祭を無事に乗り切った生徒会の三年生たちは、受験の準備に忙しい。涼心学園は大学もある。最初からそこへ進学する予定の縁田太一は別として、戸時夏目、木谷希奈、水村作、水村力は、それぞれに目標を定めて受験勉強に力をいれている。
一方で、残された二年生たちもまた忙しい。山瀬道生は次の生徒会長を狙っている。それを推す向井毅瑠と乙蔵綾音は、新しいメンバーを物色している。夏目率いた生徒会に負けないようにがんばらなくてはならない。
そうして、季節はいつしか秋を過ぎ、冬が来て、年が変わる。
八千穂の事件以降、涼心学園高校では目立って大きな事件もなく、本来の進学校の様相を取り戻した。
しかし――世に〈魂糸〉が存在し、日々〈鬼〉が生まれ、〈霊鬼割〉のような存在がそれを狩っている事実は変わりはしない。
世の真実に関わってしまった毅瑠と八千穂が、この先ずっと穏やかな生活を送ることができるのか――
それはまた、別のお話。
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