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片翼の少女 ~女騎士の護衛理論~  作者: 猫柳
第二章  さまよう面影
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 面長の顔に、均整のとれたパーツを配置した涼やかな顔。白の礼服はまさに『王子様』という印象を押し出しているものの、やけに感情の薄い瞳のせいで、影の薄い印象も同時に受ける。


「初めまして。ティ、チ……チカ、だったかな。こうやって顔を合わせるのは初めてだが、サクヤから話を聞いている」


 私は小さく眉を上げた。


「こちらの国の人は、みんなティカ、と私を呼ぶんですけどね。呼びにくいようでしたら、それでいいのですが」

「いや、サクヤが怒るんだ。名前が違う、とね」


 くすり、と王太子が笑う。どうやら随分咲夜と仲が良いようで、少しほっとした。


「それで、今日は私に何の用かな」


 再び無表情に戻った王太子に、私はラグナさんが席を外していることを確認して、口を開いた。


「殿下にお願いしたいことがあるのです。ほかでもない、咲夜のことで。もし何かあって、私が咲夜の傍にいられないとき。そのとき、彼女を支え、守っていて欲しい。彼女には今、私以外の拠り所がいませんから。それが私のお願いです」


 咲夜は、とにかくトラブルに巻き込まれる体質をしている。それは、異世界でもきっと変わりがないと思う。

 異世界でもしトラブルに巻き込まれたら。日本と違って、この世界で彼女の人権を保証し守ってくれる人はいるのか。家族も友人も、私以外今この世界にいないのだ。

 だからこそ、彼女と親しいようであった王太子に、彼女を保護していてもらいたかった。彼女と親しく、権力を持つ彼に。


 王太子は、しばらく私を眺めていた。


「君は、まるで保護者だな」

「……実際そのような立ち位置だと思っています」

「その言葉を聞いたら、サクヤは怒るだろう」


 一瞬、王太子の言葉の意味がわからなかった。

 私は眉をひそめ、その意味を問う。


「何故、そう思うんですか?」

「私はここ一ヶ月ほど彼女と行動を共にしてきたが、彼女は君の話をすると共に、よく言っていたよ。『今度は私が守るんだ』とね。……彼女は、君に保護者であってほしいとは望んでいないだろう。……ただ、君の話はよくわかった。確かに君の立場は不安定だ。万一のこともあるだろう。その時は、私が彼女の安全を保証しよう」

「……ありがとうございます」


 私は軽く頭を下げた。それでも、意思を変えることは多分できないだろうと感じた。

 咲夜を守ることは、もはや私に刻み込まれた行動のようなものだから。今更それを外したら、私は立ち止まってしまう。


「本当は、サクヤから君の保護も頼まれているのだがね。君の身柄は父上が保護していることになっているから、あまり手を出せないんだ。だが、滅多なことがない限り、君が王宮から追い出されるようなことはないだろう」


 実は自分から出ていこうと思ってる、とは口が裂けても言えないので、「そうですか」と適当に返す。


「君からの話というのはこれだけか?」

「あ、はい。お忙しい中わざわざすみません」

「いや、気にしなくていい。私はそこまで忙しくはないから」


 それだけ言うと、王太子は部屋を後にする。扉の外にいたラグナさんが王太子を送るためについていくのを尻目に、私は静かに走り出した。

 ラグナさんは恐らく、王太子を離宮から王宮の方まで送るだろう。その間、ここは空になる。

 ドレスを脱ぎ捨て、麻のワンピースに着替える。荷物を背負い、装飾品を確認した私は、寝台の下に潜り込んだ。


 離宮の寝室の、寝台の下。そこには外に通じる隠し通路がある。

 魔力を右手に集め、そこから石の床へと拡散する。すると、床板の一枚が魔力に反応し、僅かな手応えを放った。


『大地より掘り起こされし硬き猛者たちよ。古の契約に基づいて、その道を開け』


 そこに埋め込まれているのであろう、精霊の宿る石へと、魔力を媒体に語りかける。

 ぶぅん、と僅かに魔力が揺れる。確かな手応えに、隠し通路が現れるのを待っていた。


「……ってえええええええええええええええッ!?」


 きっと床がスライドでもして階段が、と予想をしていた私は、突然パカッと自分の横たわっている部分の床が抜けたことに、思わず素っ頓狂な悲鳴を上げた。

 周りに手を伸ばす暇もなく、一瞬の浮遊感が体を包む。同時に、濃厚な魔力の感覚。





 ―――扉を開きましょう、人の子よ






 くすり、と耳元で誰かが囁く声と共に、私はその濃厚な魔力に飲み込まれた。













「…………」


 燦々と降り注ぐ日光が、ちょっと肌寒い私をポカポカと暖めている。

 秋が近づいてきた野原に、ポツリと一人、私は座り込んでいた。

 よく異世界トリップ冒頭文にありそうな展開だが、残念ながらまたまた世界を超えちゃったわけではない、と思う。時を駆ける少女ならぬ世界を駆ける少女になんぞなりたくはない私である。


 ちらり、と手記の文章を確認して、ため息をつく。


『離宮の自室のベッドの下には、魔力に反応する隠し通路あり。そこに魔力を注ぎ込むと、王都近くの野原に出る』


 間違ってない。この説明は間違っていない。しかし、一つ書き損ねていることがある。

 隠し通路が、魔術によって作られた転移の道ってことを書き損ねてるよ!!

 普通、隠し通路があるって書かれていたら、やけに埃っぽい薄暗い通路が現れてー、そこを歩いていくと外に通じている、みたいなのを想像するのが普通だろう。


 いきなり穴があいて気がつきゃ外って、どういうことだゴルァ!!

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