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第12話 誘拐事件

 隠れながら物音の方に注意を向けると、そこにはシャルティ専属になっている執事見習がいた。



(もしや、鍛錬場の場所がバレたのか)



 そう思うも、足を運んだのは彼一人。

 最終的に、声をかければそれはそれで目立つと思い、見逃すことにした。



(たとえ、2人が出会ったとしても、シャルティならどうにかするだろう)





「シャルティさま、今日は遅いわね」



 時間が経ち、夕飯時になった。

 いつもは席に座っているシャルティの姿がない。




「まったく、いったいどこで油をうっているのだろうか」



 執事長であるヴィルヘルムはいつも通り給仕をしていた。



「いや、その……、探さないのか?」



 いつも通りに皆に、常に周囲を動揺させないよう、悪役ムーブを心掛けているクロードが疑問を口にした。



「とはいっても、シャルティさまが姿を消すのはいつものことではないですか」



 クロードの記憶にはシャルティが夕飯時に姿を消したことはないが、屋敷の人間には珍しいことではないらしい。

 誰一人、怪しみさえしない。




(心配だが、あいつは強いしな)



 唯一、この異変を異変として感じ取っているクロードにしてもシャルティの力を知っている。

 何があろうとも、自身の力で打開できるだろうと、そこまで深刻には考えていなかった。




 夜、就寝時間前まで戻ってこなければ探しに行けばいいだろう。



 そう判断して、自室に戻ると、昼にもらった人形が何かを訴えかけるかのように飛び跳ねていた。




「何だ、何が言いたい」


 しかし、人形に会話機能はない。

 問いかけに反応することはなかった。




「ああ、もう分からん」


 もう理解するのを諦めて、ベットに腰掛ければ、



「いて!」



 もともと持っていたナイフの柄でこちらを来ずいてくる。



「ああ、もう何なんだよ」



 いらだち気味に、人形を問いかければ、そいつはの秘密基地、その次に良く分からない方向を指さした。




「まさか、シャルティの身に何かあったのか……」



 すると、人形は盾に身体を大きく弾ませた。




「確かめてみるか……」


 窓から外に飛び出すと、昼間、2人がたむろしていた秘密基地に足を向けた。




「これは……本格的にまずいかもしれない」



 そこに残されていたのは、誰かに踏みぬかれたシャルティのお気に入りのカバンだけだった。





「ああ、もう交代の時間か」


「何か異変はあったか」


「あるわけないだろ」


「それもそうか」



 つい先ほど、太陽が地平線の先に沈んだ。



 見張りを任された衛兵2人は、篝火に手をかざしながら、仕事の打ち合わせを進めていく。

 彼らの目にはいつも通りの平和な日常だけが映りこんでいた。

 今、この時までは。




「まだ仕事中だというのに、気を抜いているようだな」


「「……く、クロード様!」」



 その弛緩が、その声を聴くことで緊張に早変わりした。


 そう、最近ではわがままが減り、少しずつ評判が向上した彼であるが、それでも、いまだこの家の使用人からは恐怖の象徴なのである。




「その、ここには一体どのようなご用で!」


 掌をこすり合わせて、守衛は下手に出る。



「シャルティがまだ帰ってきていないからな。探しに行こうと思っただけだ」




「とはいえですよ、シャルティ様が我々に黙って遠出するなんてことはさして珍しいことでは……」



 実際、守衛の記憶の中にもシャルティが勉強が嫌だと言って逃げだし、2日間誰にも見つからずに逃走した記憶があった。




(あれ? これって丁寧にお願いしても動かないんじゃないか)



 そう、守衛たちが動かないのはクロードからすれば職務放棄以外の何ものでもない。

 しかし、守衛には守衛なりの理屈があるのである。




「貴様、もしかしてだけど、この俺の命令が聞けないというのか」



 仕方がないので、強硬策を選択する。




 その作戦は、もはやおなじみとなった悪役貴族のロールプレイである。



 目を細め、俺の言うことを聞けないというのであればと、脅しをかける。




「す、すいません。直ぐに捜索に移ります!」


 先輩の守衛は、すぐさま姿勢を正し敬礼をする。

 もちろん、反応が遅い後輩の脇腹を肘でつつくのを忘れない。




 過去、クロードの機嫌を損ねたせいで、職を辞した使用人は両手の指では足りない。

 その嫌な記憶が彼らを突き動かす。



「他の守衛どもも叩き起こして、シャルティを捜索に当たらせろ」


「え! さすがにぃ」


「はい、喜んで」



 と、無茶な要求に関しても、それを一切こぼすことなく笑顔で応じるだけの胆力を先輩は見せつけた。




 休んでいるところに急遽残業を言い渡され、どうしても不満をぬぐえない守衛の先頭にクロードは立ち、馬を走らせる。



 今ある目印は人形のみ。

 その人形が指をさす方向を真っすぐと見つめていた。




「おい、人形どうした……」



 その導きがふいに途切れた。

 馬を休むことなく走らせ、近場にある村にたどり着いてからだ。




(結界の中に入ったのか?)



 エレメンタル・サーガの世界にはさまざまな魔法が登場する。

 攻撃、防御、回復。

 冒険の中で中で特になじみが深いのはこの3種類なのだが、それらに属さない、日常生活の中で助けになる補助魔法も存在する。



 その中の一つが結界だ。




 内と外とを区切ることで、バリアのように相手の攻撃を防いだり、魔物から見つかりにくくしたり、外敵の侵入を妨げたりとその用途は実にさまざまである。




(人形の反応が途絶えたのは、誘拐犯どもが結界をはったからだな。

 あるいは、元から張ってあった結界の中に侵入したからか)



 そのどちらが正解かについてはいくら考えたところで答えは出ることはないだろう。


 それでも、この町、もしくは近場にシャルティがいることは人形の反応から確信していた。




(早く見つかってくれよ)


 どうして分かったのか、その理由の部分をあえてぼかしながら、部下たちに、この町に妹がいるはずだから、聞き込みをするようにと命令を出した。




 そして、聞き込みをすることおおよそ、30分。

 一人の少年が、今は使われていない教会

に大きな馬車が向かっているという情報を提供した。


(教会なら、結界が生きている可能性も十分ある)


 自分が推測した条件に合致していたからか、部下たちの静止も効かずに、真っすぐと、目当ての場所に走り去った。


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