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囚われの宰相に救いの短剣を  作者: カーネーション


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最終話

 程なくして、王太子ラディミールは王位継承権を剥奪された。孤島の地で流刑となった。ラディミールの力が及ばなくなったフィオラは、二度と修道院からは出られないだろう。


 その後も、フィオラからの手紙はローヴェルト家に届いた。しかし、エリミーナの手に直接、届くことはなかった。侍女のズラナが焚き火の燃料にしたためだ。


 婚約期間中に、ヴァルディスとエリミーナは両家の顔合わせをした。


 応接間の席に着く前から、ローヴェルト夫人は明らかに態度が悪かった。広い屋敷には関心を寄せていたが、中の調度品が年代物であることに不満があるようだ。


 調度品はヴァルディスの祖父の時代から、何度も手直しして受け継いできた。屋敷全体の調和と、落ち着いた雰囲気を与えている。


 エリミーナは、新しいものばかりに固執するローヴェルト家よりも、古き良きものを大切にするレジニエル家の考え方が好きだ。居心地も良い。


 エリミーナがレジニエル家の一員となって、使用人に命令をしているのも気に食わないようだった。


 結局、ローヴェルト夫人は、自分の趣向に合わないものは、目の前から排除したいのだろう。もちろんその中にエリミーナも入っている。席に着いても雰囲気を柔和にはしなかった。

 

「王太子妃でもなくなった“これ”をよく拾ってくれましたわ」

「拾ったのではなく、私が懇願したのです。どうか、私のそばにいてくれないかと」


 ヴァルディスのよどみない返しに、義母の歯ぎしりが聞こえてきそうだ。ヴァルディスの母は、そんな義母の態度にも眉をひそめずに、見守ってくれた。


 その分、弟は祝福してくれた。父は終始、笑顔を浮かべて、良縁を喜んでいるようだった。


 顔合わせが終わると、ローヴェルト家の面々を送り出した。ヴァルディスに対しての義母の無礼を詫びると、「気にしていません」と頭を撫でられた。


 ローヴェルト家に帰らないのは、ヴァルディスがごねたからだ。表情のあまり変わらない顔で、「片時も離れたくありません」とエリミーナにすがったからだ。


 一番、日当たりが良く、ヴァルディスの部屋の隣がエリミーナの部屋になった。寝台は共にしていないが、近い内にそうなることを予想している。


 改めて、ヴァルディスの母からサロンに招待された。二人で並んで座っていると、まだ夫婦ではないのに、胸の辺りがくすぐったく感じる。


 ヴァルディスの母は、長年の親友の娘であるエリミーナをいたく気に入ってくれた。「娘にするならって、あなたのお母さんとも話してたのよ」と言われた時は、涙が止まらなかった。ヴァルディスは「まだその頃は、エリミーナも幼子ではないですか」と呆れたように言っていた。


「だって、その頃からあなたはエリミーナさんだけには優しかったでしょう」


 さすがに母親は息子をよく知っていて、ヴァルディスを黙らせた。


「妹のように可愛がっていたのは事実です。しかし、恋慕を自覚したのは婚約してからです」


 言い訳のように並べるヴァルディスがおかしい。


「相変わらず、堅苦しいですよ。恋慕ってなんですか。はっきり好きと言いなさい。エリミーナさんもそう思うでしょう?」

「私はそういうヴァルディス様の堅物なところが好きでして……」


 途中から自分でも恥ずかしくなって、顔を俯かせた。さすがにヴァルディスの母君の前でも、自分の心をさらけ出すのは恥ずかしい。


「あらまあ、可愛らしい」


 ヴァルディスの母は口元に手を当てて、微笑ましそうにしている。


「そうです。エリミーナは可愛いのです。ですから、早く挙式を挙げたいと思っております」

「それがいいでしょう。婚約期間は十分、設けました。準備が出来次第、式を挙げましょう!」


 母と子は心を通わせたようで、エリミーナそっちのけで話を始めた。それでも、大事な確認にはエリミーナを通して、尊重してくれた。


 後日、エリミーナとヴァルディスは盛大な結婚式を挙げた。


 誰もが羨むような仲睦まじい姿だった。特にあの宰相がエリミーナを前にすると、顔をだらしなくさせているのが、皆の関心の元だった。


 そして、その日、初夜を迎えた。


 ヴァルディスはエリミーナを抱き抱えると、夫婦の寝台に寝かせた。ふたりはお互いの胸の傷に手を当てて、愛を確かめ合った。



 ヴァルディスとエリミーナは末永くそばにいた。


 同じ日の同じ時間に息を引き取った。


 それはふたりの子の代から先まで、愛の物語として長く語られることになった。


 二人の並んだ墓には、同じような短剣の絵柄が刻まれていた。


 この短剣の意味するところは、最後になっても二人の口から語られることはなかった。


 それでもレジニエル家は、その代が続く限り、家紋として受け継いだ。


おわり

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