砂の下の世界で
「誠也…… 誠也……」
声が聞こえる。
俺はどうしたんだったか……
…………
…………
「主様…… 主様……」
今度は聞きなれない声で聴きなれた呼び方をする誰かの声がする……
そういえば俺は遥を助けようとして砂に飲まれて気を失ったのか…………
だとするとここが天界か?
「主様…… 主様……」
俺を主様とか呼ぶのはニルヴァーナだけだがあれはいつも心に直接というか、頭に直接な感じで響いていたので声が聞こえるのはおかしな話だ。
だがまぁ、死んで天界にでも来たならあり得るかもしれない。
「主様…… 主様……」
今度は誰かが俺の体をゆすっている。
体が重い。瞼も重い。でも感覚はある……
重い瞼をゆっくりと開けてみる。
かすれる視界にぼんやりと人影が写る。
俺の顔を覗き込むようにして体をゆすっているのはこの人の様だ。
少しずつ視界が戻ってくると彼女が見えてくる。
真っ白な透き通る肌に綺麗な青い瞳。髪はシルバーで細く細かくキラキラと輝いて見えた。
うん、やっぱり俺は死んだのか、と思った。
「主様、目を覚まされましたか?」
「ああ、ここは天国か? やっぱり死んだのかな」
「何を言っているのですか? 死んでませんよ?」
「でも、ほら、杖のはずのニルヴァーナと話してるみたいだしやっぱり死んだんじゃ?」
「何を言っているんですか、早く起きてください」
そういって優しく抱き起こされる。目の前の美人はニルヴァーナでよかったようだ。
目の前には荘厳な神殿が見えた。周辺には光の玉が浮かんでいた。ウィルオウィスプらしい。
まぁ、ニルヴァーナなら使えてもおかしくはないが、魔力はどうしているのだろう?
そうしていると空から天使が降りてきた。
やっぱりここは天国か?
「やっと目覚めたか、お前が死んだら我らを召喚できるものがいなくなるのだから勝手に死ぬでないわ」
ルシフェルである。
「やっぱり俺は死んだのか?」
「いや、死ぬ前に助けたから死んではおらぬ。死なれては困るしの」
「ルシフェルが助けてくれたのですか?」
「いや、危ないと思って強制召喚で出てきたのだが、そこの杖が何とかしておったわ」
「そうなんですか、所で死んでいないならなぜここにルシフェルがいるのです?」
「強制召喚と言ったであろう? お前の魔力と触媒のその指輪の力を使って無理やりゲートを開けてきたのだ」
「そんな事が……」
「その為に渡したものだしの、目が覚めたなら我は帰るぞ」
「はい」
「ではまたな、勝手に死ぬなよ?」
「気を付けます」
そういってルシフェルは消えていった。
勝手に出てくるとか……安心できるような、危険なような、何とも言えない気分になった。
”むにゅ”
取り合えず立ち上がろうと手をつくと。右手にとても柔らかい感触がした。
とても嫌な予感がして右手を見ると……
そこには遥香の胸があった。そして遥香は水竜の羽衣が切れており、当然裸である。
冷汗が流れる。俺の視線の先には遥香の体があって見えているが、俺の右横に寝かされている遥香の顔は今はまだ見えていないが、恐ろしくて見る事が出来ない。
俺はそっと手を離すと左手で素早くマジックボックスを開き毛布を取り出すと遥香にかけた。
それから恐る恐る顔を見ると、幸いにもまだ目は覚ましていない様だった。
ホッとしたものの、今度は不安が頭をよぎる。
遥香は大丈夫なのか……と。
「遥香起きろ、遥香」
反応が無い、更に不安になってくる。
「おい、いい加減にしろ、起きろ遥香」
体をゆするが目を覚まさない。どうすればいいのかわからなくなってくる。
「遥香、はるかー」
自分でも驚くほどの声で絶叫する。強く抱きしめ起こす。
心が押しつぶされそうなほどに苦しい。涙が止まらない。自分の感情も行動もコントロールできず。訳がわからなくなる。
「遥香、遥香、目を覚ませ! はるかー」
遥香は起きない。どうしようもない悲しみと不安で心が押しつぶされる。
「遥香、頼むよ遥香、目を覚ましてくれよ」
涙が止まらない。体が震える。声も出なくなってくる。
泣きながら震える体で遥香を抱きしめていた。どれほど経ったのだろう。永遠とも思える長い時間だったように思うが、実際は一瞬だったのかもしれない。
「うっ」
遥香が動いた気がした。
俺は電気が走ったような感覚に襲われ、遥香を見つめる。
「遥香、遥香、起きろ、遥香」
何度も名前を呼ぶ。多分涙で濡れた俺の顔はとても見れたもんじゃないだろうが、自分の事を気にしてる余裕はなかった。
「ん!…… あれ……せいや?」
「遥香……よかった、目を覚ましたんだな」
「誠也? どうしたのすごい顔だよ?」
「遥香、大丈夫か本当に大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫みたいだけど……」
ほっとした。安心した。本当に良かったと思った。
離れていても平気だった。特に意識する事もなかった。
でもそれは、どこにいるかわかっている安心感と。いつでも会えると思っていたからだった事が分かった。遥香を失う事がどれほど恐ろしい事がようやく理解した気がした。
俺は遥を強く抱きしめるとそのまま唇を重ねていた。
まったく無意識だったが、それはとても自然な事に思えた。
暫くそうして、ゆっくりと離れた。だんだんと意識がはっきりとしてくるうちにどんどん恥ずかしくなってくる。
「悪い」
「どうしてあやまるの?」
「いや、無理やりというか……勝手にな」
「謝らないでほしいな」
そう言うと、こんどは遥の方からキスしてくる。
「ありがと」
お互い恥ずかしさで真っ赤になっているのがわかる。
「それより無事ならさっさと服を着ろ、風邪ひくぞ」
「え!」
遥香は自分の姿を確認すると
「きゃぁー」
「今更だろ」
と、慌てて服を着ていた。
そういえば、あいつマジックバッグ持ってなかったよなどうしたんだ?
「そういえば遥香、マジックバッグはどうした?」
「あるよ? ここに」
そう言うと普通に持っていた。
「さっきまでなかったよな?」
「ああ、これね。こうするとほら、ブレスレットみたいにちっちゃくなるんだよ」
そう言うと小さくなったマジックバッグを左手首に着けていた。
便利すぎるだろそれ!
「そんな機能があったんだな」
「あったみたいだね」
渡してそれほどたってもいないのによく見つけたものだ。
そこはあえて突っ込まない事にする。
「それはそうと彼女は誰?」
そういう視線はニルヴァーナを向いていた。
「ニルヴァーナだよ」
「へ? ニルヴァーナって誠也の杖じゃなかった?」
「ああ、俺にもよく解らないが彼女がその杖だ」
「ほえ?」
「ニルヴァーナと申します、今後ともよろしくお願いいたします」
そういってニルヴァーナは頭を下げた。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
遥香も頭を下げる。
「所でニルヴァーナ、ここがどこだかわかるか?」
「主様が巻き込まれた流砂の地下だという事しか解らないですね」
「そうか」
その後、いろいろ確認したが、ニルヴァーナにもここがどこだかわからないし状況としても天井から落ちてきたとしか解らないとの事だった。
「それでは私は杖に戻りますね。この姿でいるのは結構つらいんです」
「ああ、ありがとうな」
「では」
そういってニルヴァーナは光り輝くといつもの杖に戻っていた。
【やっぱりこちらの方が落ち着きますね】
ニルヴァーナ的には杖の姿が一番らしい。
ニルヴァーナが杖に戻ると同時にウィルオウィスプも消えたのであれはニルヴァーナが出していたもので間違いなさそうだ。とても不思議な杖である。
俺はウィルオウィスプを五つ召喚すると近くに浮かべる。
「さて、戻る方法を探さないとな」
そう言うと俺と遥香はこの地下の探索を始めるのだった。
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