杖と雀と二人の秘密
本格的な魔法の訓練が始まって2か月が過ぎた。
順調に訓練の成果は上がり俺もほかの3人も順調に魔法が使える様になっていた。
しかし、俺に関しては膨れ上がっていく自身の魔力に当惑気味であり、最初の失敗もあって積極的に魔法を使う事ができず授業ではできない振りをしつつ放課後、寮から少し離れた所にある森の中で一人練習するようになっていた。
「さて、今日も始めるか」
【主様、こうは主様に特殊な魔法をお教えしたいと思うのですが】
「特殊な魔法?」
【はい、主様の魔力量も増え光魔法も基礎から初級まで使える様になっていますのでそろそろ使えると思うのです】
そう言うとニルヴァーナから一つのイメージが頭の中に送られてくる。
「これは、闇魔法?」
【はい、そのように呼ばれておりましたが時間と空間を操る魔法です。そのほとんどが目に見えない物を扱う事で、難易度が非常に高く今の呼び方で初級以上の魔法しか存在しません。また、古より人は闇を毛嫌いしておりましたので使うものも非常に少い魔法でしたが、使えるととても便利なはずです。それに主様は光の加護をお持ちですので闇魔法もかなりのものが使えるようになると思います】
「光の加護と闇魔法に何で関係あるんだ?」
【光ある所に闇はある。故に光魔法使いは闇魔法使いの素質もあるのです。相反するものと思われている人も多いようですがそういうわけではないのです。そして、闇は光が強いほど濃くなります。同じように光魔法の素質が闇魔法にも影響します。なので、主様におかれましてはかなり強力な闇魔法も使えるようになるはずであると考えております】
「そうなのか? まぁとりあえず試してみるとして、これ危険じゃないのか? ディメンションホールとか暴走させたら世界が無くなるとか無いよな。無限に入る道具箱みたいな魔法で世界が無くなるとか洒落にならんぞ」
【それはないです。この魔法は魔力で次元の穴を開けるイメージですが引き込まれる事はありませんし、あちらに時間は概念そのものがありません。故にあちらに入れたものの時間は止まったままですし暴走したところで穴が少し大きく広がるくらいです。それに穴を広げるには指数関数的に使用魔力が大きくなりますから暴走してもせいぜい1メートルくらいしか広がりませんよ】
「そうか、でもこれ誰も知らないなら名前変えてもいいか? ディメンションホールとか怖いだろ?」
【魔法の名前なんてイメージの補助程度なので別になんでも問題ないですよ。しっかりイメージできれば好きな名前で使えばいいのです。イメージさえできるなら名前無しでも発動できますよ】
「そうか、なら俺はこれアイテムボックスで行くぞ。その方がいろんなラノベを読んできたからな解りやすい」
そう言って右手に魔力を集めイメージする。空間に穴を開けその向こうに別の世界をイメージする。そうすると手元に漆黒の手の平より少し大きな真球の穴が現れた。そのまま中に手を入れてみるが当然に何もなかった。温度も風も何も感じない空間は少し変な感じだ。
【さすがは主様、簡単に出来てしまいましたね】
「いや、これ結構維持するのに魔力使うぞ。出し入れの際に一瞬開けるだけの魔法だなきっと」
【そうですね、慣れれば何もない所から出し入れしているように見えるレベルになるはずですよ】
”ガサガサ”
その時不意に後ろの茂みで音がした。
驚いて振り返るとそこには秋野 雀が呆然と立っていた。
「秋野? 何でこんな所に……」
「山菜を取りに来た」
いやそれは無いだろう。大体料理する所もないし必要もないのに山菜って……
絶対ついて来てたよなこれは。
「それよりさっきの魔法は何? あんな魔法見た事も聞いたこともない」
「何の事かな?よくわからないが俺は光魔法の自主練してるだけだが、おかしな事でもあったか?」
「おかしい、光魔法にあんな真っ黒な球体出す魔法なんてない、精霊魔法でも聞いた事無い。それに手入れてた?」
「さぁ、夢でも見てたんじゃねーか?」
ばっちり見られてるし、どうするよ。
「そんな事無い、精霊達も驚いてるし見間違いであるはずが……!」
秋野は”しまった!”という顔をした後うつむいて黙ってしまう。
いま精霊って言ったよな?やっぱりこいつ精霊が見えるのか?
【主様、彼女も光の加護があります。主様の物に比べれば小さいですが、おそらくぼんやり見えているか感じているかそのくらいでしょうが、精霊の存在は認識しているでしょう】
(あいつのいい方だと今ここにも複数精霊がいる様な口ぶりだったが俺には見えないぞ?)
【精霊は何処にでもいますよ。光の精霊に至っては目が見えるところなら光があるのですから当然ここにもいます。全部の精霊がいつでも見えたりしたら大変なことになりますよ。精霊は普通必要な時に必要な相手にしか姿を見せませんし見ようとしなければ見えません。理由は解りませんが、彼女は特に仲のいい精霊がいるようですね、その為敏感なのでしょう】
俺は改めて彼女をじっくり見てみる。精霊の存在を意識しながら目を凝らすと周りに三つほど小さなボヤっとした光が浮かんでいるのが見えるようになった。あれが彼女の精霊か。
【誤魔化すのは難しそうですね。この際きちんと話してあげればどうでしょう?彼女もむやみに人に話すようなしないと思いますよ。彼女も秘密があるわけですしね】
俺は覚悟を決める。
「そうだな、見られたからには仕方ない。ニルヴァーナ」
名前を呼ぶと本来の大きさに戻り右手に収まる。久しぶりに元に戻れて心なしかうれしそうだ。
俺が一歩踏み出すと秋野は怯えた顔で尻もちをついて後ずさる。
「や、やめてください。何をする気ですか……」
(なんかすげービビってんだけどなんで?)
【今のセリフと行動だと、面倒だから殺っちゃうぞ、に見えたのでは?】
(お前さらっと傷つくこと言うよな、そんな怖かったか?)
【それなりに】
(ショックだ……)
「何にもしないよ。こいつはニルヴァーナと言って俺の魔法の師匠だ」
「杖が師匠?」
「ああ、この杖話ができるんだよ。俺とだけみたいだがな」
「そんな事が……」
「さっきの魔法はこいつに今教わった魔法でなちょっと練習してたんだよ。お前も使ってみるか? 俺や魔法や杖の事、秘密にしてくれるなら教えてやるぞ」
「ほんとに?」
「ああ、ついでにお前の周りの精霊の事も黙っといてやる」
「……それって選択肢無い気がする……」
「ばれるといろいろ面倒そうだからな。お互いモルモットにはなりたくないだろう?」
「まぁ、でも私のは言っても誰も信じてくれないから問題ないけと思うけど」
「ここまで話したんだ、本当にそれで済むと思うか?」
「うーん、無理な気がする。絶対何かされそう」
「そう思うなら黙っとけ。秘密を守るならここで魔法を教えてやる」
「わかった、そうする」
こうして翌日から秋野もここへ来るようになった。
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