[エピソード4-2]いわゆる自己の危機ってやつ
それは「就活」です。
第一次カルチャーショックにより夢もクソもなくなり、それでも一部の人間たちが助けてくれたために、私は大学4年生になる頃には引きこもりを脱していました。
しかし、生きていくためには嫌でも「就活」をして「就職」をしなければならない、という事実を受け入れられませんでした。
そう、「就活」とは、長い髪を後ろでひとまとめにして、“女性としてのマナー違反”にならないようナチュラルな化粧をして、レディーススーツに身を包んで………履歴書の「男・女」の右側に○をつけて……これで合格!面接の受け答え丸分かりブック!などという本の内容を暗記するような、あの活動のことです。
それまでは、性別の欄の「男・女」に記入するときは、間の「・」部分にマルをつける常習犯だった私ですが、さすがに就活でそれをやってはいけないことは明らかでした。
就職したら、なんかもうやべェ頭空っぽの大学生の進化系みたいな奴らに囲まれて、老いて死ぬまでやりたくもない労働をしなければならない。
しかもずっとレディーススーツ着て化粧して髪をうしろにまとめて皆と同じ顔をしなければならない。
どんなに頭のおかしい上司がいても、一度正社員になってしまったら、子ども時代のお母さんと同じで絶対に逆らうことはできない。
人生終わった /( ^O^ )\
それまでの人生で経験してきた全ての苦痛フラグを回収しきったような気持ちになった私は「あーもう死のう」となりました。
社会というアイアンメイデンに挟まったまま下僕のように生きるのなら、頑張って死んだ方がマシだ。
死ぬぞ!絶対死ぬぞ!あーそれそれ!
まあ死ねなかったんですけどね!
\グアー!/
我ながら落ち着きのない人生です。
大学卒業後、人知れず自殺に失敗した私は、生きるためにフリーターとなり、新しい生活への門を叩きました。
「化粧が嫌だ」「男になりたい」「個性を捨てたくない」なんてもう知らん。
不可能である。諦めねばならない。
社会はありのままの私を受け入れてくれないので、私は自分を偽って生きるしかない。
もうそれしかない。そう思って覚悟を決めました。
人生で初めての、「普通の人間」「普通の女」になるための努力が始まったのです。
「かわいい」「美人」と評判の女の知り合いをガン見して、髪型やメイクを私なりに真似ました。
でも、他の女子たちが中高時代に順調に積み上げてきたファッションの知識が私にはないので、とんでもないダサい出で立ちになっていることもありました。
アイシャドウの量を間違えてピンクのパンダみたいになっていますけど何があったんですか~みたいな。
両サイドのまゆげの高さ違いますけど大丈夫ですか~みたいな。
そうこうしているうちに、私は気づいてしまいました。
女が、女として振る舞うと「受け入れられる」ということに。
……この記事を読んでいる「自分は男かもしれない」と思っている女性の皆さん、私の学習ノートによれば男からの「お前、色気ないな」「お前、男みたいだな」は大抵悪口です。
「お前は男みたいだから、オレらの仲間だぜ!」という意味の言葉じゃありません。
「テメーは女のくせにマジで性愛の対象にならんわ!」という意味です。
そのため、「ほんとー!?」と私のように喜んでいると引かれます。
もし「普通の女」として振舞いたかったら、“男性の性愛の対象”として見られなかったことを悲しむフリをしましょう。
「そっか……頑張るよ~(´・ω・`)」と言っておいて、翌日にちょっと分かりやすく見た目を変えていけば、「おっ雰囲気変わったね♪」と好感触です。
これ実際にあった話です。アホか。色気ないと思うならほっとけ~!
この時期は、人生で初めて「彼氏」ができたりもしました。
普通の女を目指した努力の賜物。“成果物”だったかもしれません。
そうだ、これが正しかったのだ。
人が社会的生物として生きるためには、嘘をついて生きるのが正しかったのだ。
自分しか知らない自分(「秘密の窓」……)は、自分の内にとどめておけばよい。
本当の自分を受け入れてくれる人なんていない。
しかしそれはきっと私だけではなく、人類共通の悲しい運命なのである。
オラがんばろう。彼氏好きだし。
化粧の腕は最後までいまいち上達しませんでしたが、こうして無事に「社会的集団」に適合していった私は、いつしか「男になりたい」を数年ほど封印し、「女」として適切に生きる術を学んでいったのです。
それからも紆余曲折いろいろありましたが、数少ない友人たちの優しさに触れながら生きる術と自信を身につけた私は、何年かして「就職」することを決めました。
女モノのリクルートスーツ(しかしスカートはやっぱり履かない)に身を包み、最低限の化粧をして、履歴書の「男・女」の「女」にしっかりマルをつけて就活をしました。
こだわっていた何かを諦めたときは、また新しい道が拓けるものです。
仮面女として生きることにも慣れた。私はもう大丈夫だ!
無事に就職先が決まり、ちょっと出遅れた新人女性社員として、私は生きることになりました。
どうなることやら分からないけど、今までたくさん苦労してきたからきっと大丈夫だろう、そんな自信と不安にあふれていました。




