第5話 無い物ねだりの小さな料理人
娘が欲しくて欲しくて仕方がなかったギギョムは、ようやく産まれた可愛い娘の為ならば、何でもするのだ! と思っていた。
だが、先日にスンミの思いがけない才能に気づかされ、分の悪い賭けに負けてしまい、料理に関することのお願いを聞くことになってしまった。
スンミがキラキラと輝く瞳で私を見つめて、これが欲しいの、あれが欲しいの、とおねだりするのは、父として嬉しくもあったので叶えてきた。
だが娘のスンミから、あれも欲しい、これも欲しい、と段々と難しいものをねだられてしまうと困惑していたのだった。
ある日のこと。王宮に上がる前に自室の文机に向かい、書状を書き記したり、執事が持ってきた文に目を通したりとしているギギョムのところに、スンミがやってきた。
「おとうさま、スンミです、今いいですか?」
「あぁ、入りなさい」
幼い声で入室の許可を得るスンミに、入るようにと促すと、ニコニコと笑顔のスンミが扉をあけて入ってきた。
スンミの手には何やら絵が沢山書き込まれた半紙が握られている。
ギギョムはまさか、またおねだりされるのか、と思いつつも、目の前の娘が一生懸命に挨拶を行う姿に目尻が下がり、こんなに幼い子が立派になって、と胸がいっぱいになった。
抱き締めてやりたくて腕を広げ、ギギョムはスンミに膝の上に座るようにと言うと、スンミがちょこちょこ動いてその小さな体をギギョムに預けた。
「どうしたんだい、スンミ」
「んふふー、あのねー、こういうのがほしいの!」
顔を覗き込み、スンミに問いかける。
スンミは半紙を広げると、その1つ1つを父ギギョムに説明し、この器具があることで作れる料理を鼻息荒く語り始めた。
キラキラの瞳、興奮して真っ赤になった頬、舌足らずな口調で、一生懸命おねだりをするスンミに、ギギョムはついうっかりと、大きく頷き、そして・・・。
「いいだろう、この半紙に書いてある物を作れば良いのだな、スンミや」
「オッパ!嬉しい!スンミね、これがとーっても欲しかった!」
半紙に書かれてあるのは、現代で言うところの泡立て器や、穴あき杓子、マッシャー、すりおろし器、フライパン、などなど。
詳しく絵と文で説明してある半紙をスンミから預かったギギョム。
スンミは、ギギョムに説明できたことで満足したのか、膝の上から降り、さらに上目遣いで父親を見上げる。
「じゃあ、オッパ、楽しみに待ってるね!!!」
一か月後。お金に糸目をつけずに、工房などに依頼を行ったギギョムは、届けられた調理器具を目の前にして、苦笑いしか出てこなかった。
見たこともない形状、どのような意図で使われるのかがわからないが、スンミからもらった半紙の絵図通りのすべてが揃えられたことに感無量だった。
「スンミを、呼んでまいれ」
「かしこまりました、旦那様」
控えていた執事にスンミを呼びにいかせ、ギギョムは喜ぶ娘の顔を思い浮かべる。
とたとたと足音が聞こえ、かわいらしい鼻歌が聞こえる。
「アッパ!スンミです!!」
「はいりなさい」
ギギョムは手を広げてスンミを待ったが、スンミは目の前に並べられた調理器具に駆け寄り、頬ずりし始めた。そのため、しょげた顔で見つめるギギョムに気づかず、スンミは手に取った器具に夢中であった。
その様子を見ていた執事は笑いを耐えようとして何度も咳き込み、ギギョムから睨まれてしまうのだが、スンミは気にせずに調理器具を手に持ち、立ち上がった。
「これがあれば、あれが作れるわ!アッパ、ありがとう、だいすき!」
キラキラの笑顔でギギョムに大好き宣言を行い、固まって動かなくなったのをしり目に、スンミは厨房に向かって走り・・・いや、急ぎ足で向かった。
まずは、第一歩。調理器具を手に入れられたのだから、次は香辛料に調味料!
頭に浮かぶのは、前世で食べたあれやこれやの料理ばかり。
スンミは、にんまり笑って厨房に飛び込むと、働いている一人の女性に向かって叫んだ。
「ウグイ!新しい料理するから、手伝って!」
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調理器具の次は、調味料や香辛料のお話しにしようか、いろいろ迷っています。
投稿が遅くなり、すみませんでした。