第1話 状況が理解出来ません!
名門のユン家には、男は二人生まれたが、女の子は未だに生まれていなかった為に、次こそはと望んでいたが、なかなか次の子に恵まれなかった。
主であるユン・ギギョムは、妻のナンヒャン共々女の子を諦めていた。
だが、男が二人とも成人を迎えようとした矢先に、ナンヒャンに懐妊の兆しが表れた。
ユン家は女の子が生まれるようにと、祈祷を行ったり、お寺に祈願したり、民間療法を試したりと、大忙しだった。
そうして十月十日、お腹の中ですくすくと育った赤ん坊は、出産の予定日にきちんと陣痛を起こして、さらりと生まれてきた。
もちろん、その赤ん坊は待望の女の子で。ギギョムは嬉しさの余りに、床上げまで産室に入っては行けないのに、扉を開いて中に入ろうとした位だった。*1
「貴方、もう少し待ってちょうだい。床上げしたら、この子を抱いてあげて」
「勿論だとも、さあ、ワカメ汁を持って来させたよ、しっかり飲んでおくれ」*2
ギギョムは名残惜しそうに扉の前でうろうろしていたが、ワカメ汁を側使えの者に託すと、自室に戻っていった。
ナンヒャンはその様子を、赤ん坊に乳を飲ませながら伺っていたが、ちゃんと夫が部屋に戻ったことを確認すると、苦笑いを浮かべて身体を少し起こした。
「奥様、少し休まれてくださいませ。出産は後が大事なのですよ」
「少しだけ、少しだけ、ワカメ汁を飲んだら、そうね休ませてもらうわ」
ナンヒャンは少しだけ、匙でワカメ汁を飲むとそのまま横になった。
横にはむにゃむにゃと眠る可愛い女の赤ん坊がおくるみに包まれて、眠っている。
「おやすみ、可愛い私の赤ちゃん」
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パチリ。しっかりと目を開いたのに視界は歪んでいて、ぼやけた景色が写った。
訳のわからないままに襲われて包丁で刺された、ところで記憶は途切れている。
病院に搬送され、奇跡的に助かったのだろうか? 淳美はそう考えると、ナースコールを押そうと、腕をあげようとした。
重たい、めったらやったら重たい。上げようと力を込めるが、一向に持ち上がる気配がない。
むむむ? 淳美は仕方なくナースコールを押すことは諦め、周囲を伺うことにした。
ぼやけているため、何となくでしか掴めないが、和室のような雰囲気を感じとることは出来た。
個室に入れられたのだろうか、高い入院費は払えないんだけど......など思いつつ、キョロキョロしていると、突然何者かが私を抱き上げた。
「おっぎゃぁぉぁぁぁ! (え、何するのよ!)」
目があまり見えないことを良いことに、いたいけな年頃の女の子を抱き上げるだなんて、なんてうらやまけしからん! じゃなかった、なんと不届きな!
「おう、おう、スンミは本当に元気な赤ん坊だ、父がもうわかるか」
「んぶぇっ!? (えええっ!?)」
頬をじょりじょりされながら、でれでれとした声で何者か......男で、しかも父とか言ってる......に高い高いされても、意味がわからないよ。
しかも、私の名前は淳美であって、スンミではないし。仮にも成人した女性をいとも容易く高い高いなんて、出来るだろうか?
淳美は考えをまとめたくて、考え込もうとするが、テンションの高い男のせいで、あちこちに思考がとんで、まとまるものもまとまらず。
考え過ぎて頭が痛くなり、自分の意思とは裏腹に、泣きわめいてしまう。
「貴方っ! また、スンミにちょっかいをかけて、せっかく寝ていたのを泣かせてしまって!」
「いや、その、たまたま通りかかったからな、スンミの顔を少し見たかっただけだ!」
わんわんと泣く赤ん坊の声に、女性が現れたようで、私を未だに抱いて離さない男を諭すように説教をしている。
よしいいぞ、もっとやれ! と思っていたが、泣きわめくのに体力を使い果たし、泣くことで疲れた身体が眠りを欲してきた。
ちょっと寝ますね、また後で話し合って解決しましょうか。そう思いながら淳美は、訪れた睡魔に身を委ねた。
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*1 簡単に説明すると、出産の時の血が穢れに繋がるとして、男が避けるべき事柄であった
*2 文化としてワカメ汁は、お祝い事の時に飲まれている。出産の時の意味合いは、栄養をつけてもらうためにワカメ汁を作って飲む、みたいな感じです
韓国ドラマや書籍をみて、簡単に説明しているので、誤りもあるかもしれませんが、よろしくお願いします