第三十一話
「ふん、漸く植民地の奴等は重い腰を上げたか」
「そのようです陛下」
カナダの首都オタワに拠点を築いた自由イギリスの首相のチャーチルとジョージ六世はそのように話していた。
「植民地の参戦があれば戦況は五分に持てるだろう」
「ですが五分では……」
「判っているさチャーチル。ヒトラーの東には誰がいるかね?」
「ま、まさか……」
驚くチャーチルにジョージ六世はニヤリと笑うのであった。
アメリカの参戦にドイツは元より枢軸国側はざわめいていた。
――大本営――
「アメリカが参戦してくるとは……海軍さんは潜水艦でアメリカの商船を沈めたのは真実ですか?」
「馬鹿な事を言わないで下さいよ東條さん。何故我々が先端を開かねばならんのですか」
大本営で東條と山本軍令部総長が会談をしていた。アメリカの参戦に驚いていた日本であるが、予め開戦の準備はしていた。
台湾には陸海の航空部隊が駐屯しており、更に陸海共同で生産された局地戦闘機の鍾馗も展開しておりフィリピンから侵攻してきたB-17等の爆撃隊を撃破していた。
なお、中国方面の動きは一切無かった。
「東南アジア方面への派遣部隊は既に完了して第一陣がカムラン湾に、第二陣が沖縄に待機してある。後は命令だけで動ける」
「太平洋方面はマリアナ、トラック方面への警戒を強めてます。奴等がマリアナ、トラック方面を攻撃するのは明白です」
実はこの時、マリアナ方面へ向かうキンメル長官率いるアメリカ太平洋艦隊がいた。
太平洋艦隊の大半がマリアナ――サイパンに向かっていたのだ。陸海は輝義の情報を元に開戦前からマリアナ、トラック方面の要塞化を進めており史実の硫黄島以上の地下トンネルが建設されていた。
なお、この作業には軽犯罪で全国の刑務所に収監されていた囚人も駆り出されていた。
機械化が進んでいるとはいえ、まだまだアメリカやドイツまでの水準値に行っていないのだ。
「初戦は防衛戦に徹するしかありません」
「判りました。ですが東南アジア方面は……」
「はい、カムラン湾にいる伊藤の南遣艦隊を派遣します。それに空母も龍驤に海鷹型三隻の計四隻を派遣します」
史実だと海鷹型空母は小型空母でほぼ輸送空母であるが、この世界では輝義のテコ入れもあり搭載機三六機、最大速度三一ノットの空母に生まれ変わっていた。
南遣艦隊はほぼ史実の艦艇群を揃えており、伊藤中将は改装されたばかりの重巡鳥海に旗艦をしていた。
南遣艦隊は第一陣の上陸船団と共にカムラン湾に停泊しており、命令が来れば直ぐに動けた。
「兎も角、初戦が正念場です」
「海は頼みます。我が陸軍航空隊も派遣しましょう」
「宜しくお願いします」
陸海の共同作戦が捗られるのであった。また、山本は話していなかったが潜水艦隊の第六艦隊が通商破壊作戦を敢行するためにアメリカ西海岸及び南太平洋で四個潜水艦隊が派遣されるのであった。
潜水艦隊は最新鋭の艦艇を配備しており、史実の伊二〇一型潜水艦をモデルにした伊一型(旧式の伊一型は訓練潜水艦一号に艦名を変更していた)が六隻あった。
この伊一型は伊二〇一型を少し大きくしており、水中速度は十五ノットであるが随分速かった。
この潜水艦隊は後に太平洋やインド洋で大暴れするのであった。
「初戦を制さねば我が日本は滅びる」
山本の言葉に東條は頷くのであった。
――総統官邸――
「総統、この度のアメリカの参戦ですが奴等の戦力は謀り知れません」
「フリッチュ、それは判っている。レーダー、海軍はどうかね?」
「今のところですが、警戒にはUボートを使います。残念ですが今の水上艦艇ではアメリカに歯が立ちません。惜しむらくは日本の方へ戦力移動を期待するしかありません」
「正直で宜しいレーダー。恐らく日本も初戦は防衛戦を展開するだろうが、アメリカに一撃を与えれば後は東南アジアの自由イギリス軍等に攻めこむだろう」
俺は世界地図を見ながらエリカさんが淹れてくれたコーヒーを飲む。
言い方が悪いがアメリカが太平洋方面に戦力を注げばエジプト攻略が容易くなる。
「警戒は厳にしてくれ。恐らく、アメリカが狙っているのはアフリカの橋頭堡だ」
「ではアフリカの……」
「奴等が上陸するとしたら……此処だ」
俺はアフリカのある場所を指した。
「……モロッコですか」
「そうだ。此処を押さえればジブラルタルも奴等は奪い返すはずだ。そうなると地中海は封鎖されたも同前だ」
「そ、それでは早くに艦艇の引き上げを……」
「落ち着けレーダー、奴等はまだ攻めてこん。それに何のためのスエズ運河だ?」
「まさかスエズ運河経由で……」
「帝政ロシアのバルチック艦隊になるかもしれんがな。そのために何としてもエジプトは早期に攻略せねばならん」
「判りました。マンシュタインにも警戒させながらの早期攻略を促します」
「うむ、ただし現地の声には答えてやらねばならんぞ」
「判りました」
フリッチュはそう頷いた。そしてゲーリングが一歩前に出た。
「マインフューラー、この度ジェット戦闘機の初飛行が明日行われます。是非見に来ては如何でしょうか?」
「そうか、それは是非とも行こうではないか」
そして翌日、メッサーシュミット社の飛行場に俺とゲーリングがいた。
「今回、総統にお見せするのはジェットエンジンを二基搭載したMe262、愛称はシュヴァルベです」
「ふむ……(確かドイツ語だとツバメだったな)」
そしてMe262は俺達が見ている前で轟音を響かせながら離陸していく。
「うむ、見事だな。物になりそうかゲーリング?」
「は、やはりジェットエンジンですのでトラブルは多少あります」
「そうか、一日でも早く物にしてくれ」
「判りました」
俺はそう言いながら上昇していくMe262を見つめた。
「あーちゃん、絵本読んで」
「あぁいいとも」
夜、部屋で政務をしているとヒルダがパジャマを着て絵本を持って入って来た。
俺はヒルダのベッドに移動して渡された絵本を開いた。
「今日はさるかに合戦か」
「そうなの」
「よしよし、それでは読もうか」
俺は絵本を読み始めた。
「……すぅ……すぅ……」
「フフ、寝てしまったか」
俺は笑いながらヒルダに布団をかけて静かに部屋を出た。
「御疲れ様です総統」
「エリカさん、済まないがコーヒーの御代わりを頼む」
「ヤー」
俺はエリカさんにコーヒーの御代わりを貰い再び政務に励むのであった。
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