第三十話
「……マルタ島を攻略したのは良いが……」
「敵はもぬけの殻です。島に敵兵は一人もいなかったようです」
俺はレーダーから報告を聞いていた。報告するレーダーも困惑していた。
「マルタ島攻略を読んでいてあえて撤退したか……」
「チャーチルにしては珍しいかもしれませんね。エジプトを放棄するのではないですか?」
「それは楽観視し過ぎだ。それにこれはチャーチルの命令ではないだろ」
「え? それでは一体誰が……」
「……チャーチルに命令するのは極僅かだ。恐らくチャーチルに命令したのはそいつだ」
「まさか……ルーズベルトですか?」
「いや違う。確かにルーズベルトはチャーチルと盟友であるが撤退を具申するまでではない」
「それでは……まさかッ!?」
「……レーダー、敵は強大かもしれんな」
俺はコーヒーを飲みながらそう呟いた。
「それでレーダー、第一次艦隊計画はどうなっている?」
「は、漸くヤクモ、エムデン(青葉)、ドレスデン(衣笠)、ハーゲン(古鷹)、ミュンヘン(加古)の五隻は戦列化させる事が出来ます」
「うむ、引き続き他艦艇も頼むぞ」
「ヤー」
海軍は漸く五隻の重巡を戦線に投入する事が出来た。ヤクモは早くから投入出来たが練度不足のため出撃は見送られていた。
なお、ヤクモだが多くの海軍関係者から「是非ともヤクモで構わない」と迫られてヤクモはカタカナに表記を変えただけとなった。
……絶対にあのスキマ妖怪の影響だな。
また、海軍は大規模な艦艇建造が存在している。戦艦は四六サンチ砲搭載計画のH級戦艦二隻であり、空母はグラーフ・ツェッペリン級を拡大させたルーデンドルフ級空母四隻、巡洋艦十二隻、駆逐艦二四隻、Uボート五八隻の艦艇補充計画だ。
そのうち、起工して建造中なのはUボートに駆逐艦、巡洋艦六隻、空母一隻だけどな。
まぁ鹵獲した艦艇も使用しているから変更するかもしれないよな。
陸軍も主力の三号戦車から五号戦車のパンターに変更しようとしていたが、エンジントラブルが少々あるから大々的な更新はまだだ。
火消しの独立重戦車隊には量産態勢が整ったティーガーが配備されつつある。
史実よりティーガーは速度が早くなっており、量産型は最大速度四三キロだった。五号戦車のパンターは史実同様にエンジン付近でのトラブルが発生してしまい、パンターの配備は遅れていた。
だが、パンターでなくても三号戦車はまだまだ強力なのは確かであった。
「総統、戦線は欧州から中東方面になると思われますので軍の補給路は長くなるばかりです」
「判っている。そのために輸送船の建造をさせているのだろ?」
「それでも限りがあります。此処は日本も戦線に加えた方が宜しいのではないですか?」
「……実は日本大使館に新たな海軍関係者が来ているのだが、日本が自由イギリスと衝突すればアメリカが出てくる可能性があると言っている」
「アメリカですか?」
「うむ、アメリカの狙いは太平洋の市場を狙っている。中国に企業が進出しているのはそのためだ」
中国は日本と戦争をしていないので、現状で中国は蒋介石の国民党が握っていた。
国民党は日本とアメリカの支援を受けて毛沢東の共産党を追い詰めて壊滅寸前までの状態にしていた。蒋介石は企業の進出を認めていたが、日本は軍事支援だけに限定して企業の進出は一切していない。
大企業は文句を言っていたが、首相の東條は「全ては陛下の御英断である」と説明して沈静させていた。
そのために中国には多数のアメリカ企業が進出して甘い蜜を吸っていた。
「では……」
「日本はアメリカと戦争してからじゃないと共同戦線は取れないと言っている。そのために日本はアフリカに義勇軍を派遣しているのだ」
「……判りました。日本も大分苦労しているようですな」
「島国だからな。特に周りがなぁ……」
日本は厄介事が多すぎるよほんと。宿命なのかね……。
「まぁ日本は余程の事が無い限り、アメリカには喧嘩は売らないだろう。問題はイギリスとオランダだがな」
「二国には釘を刺しておく必要がありますね」
「少々と言うよりかなりだろうな。特にイギリスだ、イギリスはプライドが高すぎる」
イギリスは腹黒紳士だからなぁ。ま、暫く様子見だな。
――柱島泊地、GF旗艦敷島――
「海護の方は上手くいっているようだな」
「そのようです」
輝義はGF司令長官に就任した堀悌吉大将と面会していた。
「これで五千五百トン型軽巡は水雷戦隊から離れましたね」
「うむ、時代の波だろうな」
大正年間に建造された長良型や球磨型等の五千五百トン型軽巡はドイツ海軍に売却されたり武装を高角砲や爆雷を換装して護衛巡洋艦として新しく創設された海上護衛隊に配備されていた。
また、長良型の長良、五十鈴、名取、由良の四隻は十二.七サンチ連装高角砲六基を搭載した防空巡洋艦に改装されており、第一航空艦隊の防空任務をしていた。
五千五百トン型軽巡が水雷戦隊旗艦を離れた事でその穴を埋めるのが最新鋭の阿賀野型軽巡である。
阿賀野型軽巡は主砲を以前の最上型重巡が搭載していた六十口径三年式十五.五サンチ三連装砲を連装砲にし直したのが三基搭載され、四連装酸素魚雷発射管も二基搭載していた。
阿賀野型はのべ十二隻の大量建造が計画され、今は四隻が竣工して第一から第四水雷戦隊の旗艦を務めている。
「阿賀野型は現場からの報告で概ね良いとの評判です」
「それは良かったものだな。流石に旧式で戦争をするわけにはいかんからな」
「そうですね。特にアメリカの挑発がここ最近激しいですからね」
二人はそう話し合っていた。それから一ヶ月後の二月五日、事態は急変する。
――総統官邸――
「オランダとアメリカが戦火を交えただとッ!?」
「ヤ、ヤー。東南アジアのインドネシア沖で臨検しようとしたオランダ艦隊の艦艇がフィリピンのアメリカアジア艦隊の艦艇と衝突して砲火を交えたと……」
「何をしているんだオランダはッ!!」
ボルマンからの報告に俺は机を叩いた。報告によれば、シンガポール方面に輸送していた自由イギリス軍の輸送船をオランダ艦隊が臨検しようとした時、フィリピンに根拠地を構えていたアメリカのアジア艦隊が接近してオランダ艦隊を妨害。
遂には駆逐艦同士が衝突して両艦隊が砲撃戦を展開したらしい。
勝敗はアジア艦隊に勝利の女神が微笑んで、駆逐艦三隻が撃沈、巡洋艦一隻大破したとの事だ。
「……問題はアメリカの対応だ」
「それと総統、台湾沖でアメリカの商船が日本の潜水艦に攻撃されて撃沈されたと主張しております」
「……奴等め、余程に戦争がしたいのか……」
俺はそう呟いたが、直ぐに違うと思った。アメリカを動かすのはあいつしかいない。
そして事件から翌日、ルーズベルトは議会で発表した。
『我々は戦争を望んでいない。しかし、オランダは皮肉にも我々の艦艇を先に攻撃して砲火を交えた。これは明らかに戦闘行為であり、許す事は出来ない。更にかのドイツと日本も我が国の商船を攻撃して沈めた。我々は宣言する。これは我が国が生き残るための戦いであると、何も罪が無い民間人を虐殺したドイツを許す事は到底出来ないのだ。我がアメリカは二月七日にドイツ、日本、イギリス、オランダ、イタリアに対して宣戦を布告する』
ルーズベルトはそう喋りながら心の中では笑っていた。これで戦争が出来ると。
「我が国がアメリカの商船を沈めただとッ!? そんな報告は聞いてないぞッ!!」
「はぁ、それは私もであります。アメリカからの言い分ではバミューダ諸島海域で商船がUボートに魚雷攻撃を受けた報告を最後に途絶したと……」
バミューダ諸島って……行方不明なる定番の海域だよな。
「……全てはアメリカが仕組んだ事か……いや違う、アメリカをも掌で踊らせる人物はあいつしかいない」
俺はそう呟くのであった。
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