第十五話
「作戦はどうかねフリッチュ?」
「は、マンシュタイン計画の元で順調に進んでおります」
総統官邸の総統室に集まった陸海空の代表と俺は話していた。
史実通りに陸軍の大半はマンシュタイン計画を否定していたが、俺がマンシュタインと会談してマンシュタイン計画を承認した。
フリッチュ達も渋々ではあったがマンシュタイン計画を承認した。
まぁ史実通りに黄計画の作戦作戦関連文書を含む書類を運んでいた我がドイツ軍航空機がベルギーに墜落したため、作戦は再考を余儀なくされたメヘレン事件が発生したため俺はマンシュタイン計画を承認したのだ。
マンシュタインと会談した時、作戦の説明を全部終えたマンシュタインに対して俺は「よし、やれ」とにこやかに承認したせいか、マンシュタインが笑う一幕もあった。
これが切っ掛けで、マンシュタインとよく飲む機会が増えたのは余計な話だ。
「オランダはどうだ?」
「オランダ軍は武器自体が旧式の部類が大半でしたので主に治安維持や輸送の後方部隊に回っています。これはオランダ軍も了承しています」
「うむ、代わりに資源の供給してもらっているからな。有りがたい事だ」
石油が無くては戦えないからな。
「ゲーリング、航空艦隊はどうだ?」
「は、総統の指示通りに第四航空艦隊と第五航空艦隊の投入しました。しかし、ソ連対策として第一航空艦隊を移動しませんがソ連は攻めて来ないでしょうか?」
「流石に銀行強盗も攻めてこまいよゲーリング。ソ連軍の有力な将校は粛清されるかシベリア行きだからな。ソ連軍はある意味で崩壊している」
兎も角、一気にフランスを倒さないとな。ダンケルクの奇跡は起こさせないな。
「補給は空軍の輸送機も動員せよ。何のためにアメリカからDC-3旅客機をライセンス生産していると思うのだ?」
「まさか閣下はこれを……」
「そこまでは予見していない」
ゲーリングの言葉に俺は苦笑した。
「補給が出来るルートを少しでも増やしておきたいからな。そのためだ」
俺はゲーリングにそう言っておいた。それから開戦から六日後に連合軍は総崩れとなり退却を開始した。
開戦から十一日目にアラスの戦いが起きた。しかし、空軍が新たに二個航空艦隊を投入していたおかげで偵察も十分に出来ていた。
連合軍の行動を逐一、ロンメルの第七装甲師団に報告をしていた。
「アハトアハトを対戦車砲として使用する」
ロンメルの第七装甲師団は三号戦車は少数しか無く、二号戦車と38tが主力だった。
ロンメルは高射砲のアハトアハトを対戦車砲として使用する事にしたのだ。
そして史実通りに勝った。損害も戦闘直後にシュトゥーカの攻撃隊が飛来して低めに押さえたのが効いたのか史実より三分の一だった。
「総統、勝ったとはいえ敵は反撃に出てきました。此処は一旦進撃を停止して様子を見るべきではないでしょうか?」
フリッチュがそう具申してくる。でも確か連合軍を見逃すとダンケルクの奇跡が起きるからな。それだけは阻止しないと。
「いや進撃は停止しない。このまま連合軍を英仏海峡に落とすのだ」
「……ですが補給は……」
「心配いらん。空軍の輸送機が空中から落とす」
「しかし……」
なおもフリッチュは食い下がる。
「よし、リッベントロップ」
俺の言葉にリッベントロップが立ち上がる。
「オランダと交渉して更なる燃料の提供を打診しろ。対価はまだ余っている一号戦車や二号戦車だ」
「ヤー。直ぐに取り掛かります」
リッベントロップはそう言って部屋を退室した。
「……これで良いだろうフリッチュ?」
「ありがとうございます総統」
フリッチュが頭を下げた。そしてオランダとの交渉で燃料増加の提供が了承され、オランダからドイツ軍に燃料が補給される事になる。
そして見返りに一号戦車十二両、二号戦車十二両がオランダに提供された。
「連合軍を英仏海峡に落とすのだッ!!」
ドイツ装甲師団はその合い言葉と共に連合軍が集結しているダンケルクへ迫った。
「ダイナモ作戦を決行するッ!!」
ロンドンにいるチャーチルがそう決断して漁船等の船を使用してダンケルクからの撤退が始まろうとしていた。
しかし、それは無理であった。
「偵察隊から報告ッ!! ジェリーの戦車部隊が此方にやってきますッ!!」
「何だとッ!!」
兵士からの報告に連合軍司令部は愕然とした。予想を反してドイツ軍が来たのだ。
そして飛行機の爆音が聞こえてきた。
「ドイツの急降下爆撃機ですッ!!」
連合軍に襲撃してきたのはシュトゥーカ八十機とBf109四十機である。
シュトゥーカ隊はダンケルクの港に入港していた救出艦隊に急降下爆撃を敢行した。
「急降下爆撃だッ!!」
「全艦弾幕を張れッ!!」
駆逐艦は急いで対空射撃を始めるがシュトゥーカ隊はそれを恐れずに急降下を続けて五百キロ爆弾を投下した。
「駄目だ、当たるぞッ!!」
救出艦隊の駆逐艦群に次々と命中弾が出た。この攻撃で連合軍は駆逐艦九隻と多数の漁船等を撃沈された。
また、撤退をする連合軍も砂浜で攻防戦を展開していた。
「ドイツ軍の戦車だッ!! 対戦車砲は何処だッ!!」
ドイツ軍はロンメルの第七装甲師団を先頭に進撃してくる。
「マチルダを出せッ!!」
数少ないマチルダ歩兵戦車を出すが、マチルダは各個で撃破された。
マチルダの装甲が固いと知ったドイツ軍は数で群がって後方のエンジンや履帯を狙ったりしたのだ。
連合軍は何とか防戦していたが、元々士気も低くじわりじわりと追い詰められた。救出艦隊もシュトゥーカ隊の爆撃で港を離れて沖合いに撤退していた。
「司令官、このままでは……」
「……本国に打電しろ。『我、降伏ス』、白旗を掲げるのだ。戦闘を停止せよ」
イギリス海外派遣軍司令官はそう決断をして司令部に白旗を掲げた。
「連合軍が降伏したか。直ちに武装解除に努めるのだ」
「ヤーッ!!」
エヴァルト・フォン・クライスト上級大将はそう指示を出した。
「それにしても電撃戦か……グデーリアンが言っていたのが現実になるとはな……」
クライストはグデーリアンやマンシュタインが主張している電撃戦には否定的だった。
「……頭を変える必要があるな」
後にクライストはグデーリアン等から電撃戦を学び、第一装甲軍司令官に就任するのであった。
ダンケルクの戦いでドイツ軍の勝利は決定的となるのであった。