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いつも俺のベッドにいる、隣の暁月さん  作者: はみ
翔奏ともういないはずの少女
18/18

17.親友(自称)の観察眼とお上さんとの邂逅

「なあ、翔奏」

「なんだ? さぼり」

「あ? お前もだろ」


 学校併設の体育館の壁際で、翔奏と雀は寄りかかっていた。


 今は体育の授業の真っ最中。バスケットボールを行っていて、二人は二試合連続で出たこともありしばらく休むように命じられていた。

 ……まあもっとも、主導として動いていたのは雀のみで、翔奏は適当にボールについて行って、時々回ってくるボールをいい感じに他の人に回すことだけだったのだが。


 水の入ったペットボトルを片手にした雀は、一口飲むと翔奏に尋ねる。


「お前、最近食生活でも見直したか?」

「っぶふぅ」


 同じく水を飲んでいた翔奏は、あまりにも特定的すぎる雀の質問に吹きかける。危うく、ジャージを滅させるところだった。雀は何事かと目を丸くしている。

 翔奏はジャージの袖で口を拭う。


「な、なんでそう思った……?」

「なんか、血色良くなったように見えたからさ。少しだけど、人間本来の色が戻ったっていうか」

「誰が肌蒼白だ」

「つい最近までのお前だよ、自分でもそう言ってただろ?」


 見事に図星な回答に、翔奏は内心で息を呑む。


 食生活の改善が表に現れるのは、通常の人間で数週間から一か月程度であり、ましてや人目に分かるほどに改善されるのは数か月だ。いくら自称親友だからと言っても、そうそう分かるものではあるまい。

 だが対して、翔奏は少女に朝食や夕食を作り始めてもらってから一週間程度。そんな短い期間で効果が出るとは思えないし、出ていたとしても表面的に見え始めるのにはそれ相応の時間がかかるはず。


 雀の観察眼が優れているだけなのか、はたまた翔奏が分かりやすすぎただけなのか。よく分からないが、きっと雀に隠し事をしてもすぐに見抜かれるのだろうということだけはよく分かった。


「で? 実際どうなのよ」と雀は言う。


「……まあ、改善はしてるつもり。とりあえずカルボナーラのループからは脱出した」

「あのお前がか⁉ ははっ、そりゃすげぇ」


 大袈裟な言い方に顔をしかめる翔奏に、雀は更に追い打ちをかける。


「そういえば、プレゼントは上手く渡せたのか?」

「っ……一応、ちゃんと渡したつもりではある」

「おお‼ ついにお前にも彼女が……、」

「できるわけがない」


 雀が言っていたプレゼントとは、先日少女に渡した誕生日プレゼントのことだ。一緒に選んでもらった手前黙っているわけにもいかなく、朝から何回訊かれたことと言ったら片手で収まらない。


「そう諦めずに。何度もアタックして、振られても誠意を貫く。これが好きになった人に対する敬意ってものでしょうよ」

「だからな、お前は話を広げすぎであって、」

「そして結ばれる! これこそが純愛系ラノベの鉄則であって、数多のラノベが取っている恋愛手法なわけ。そこからの展開もまた楽しみで、なんなら……」

「……はぁ、こりゃ収集つかないな」


 雀は一度小説語りモードに入ってしまうと、その沼から抜け出すのに平気で数時間はかかる。だから、今の翔奏には成す術なく適当に聞き流していることしかできないと判断する。


 そもそも、雀がこうなのは小説の読みすぎの影響が大半だろう。雀はこういった恋愛系のものには目がなく、いつも今日読んだ小説のヒロインが……とか、主人公が……など、毎日のように聞かされていた。


 しかし、現実のことに雀が目を向けるのは初めてかもしれない。確かに直接関わっているというのもあるかもしれないが、翔奏が雀の立場だったら怖くて詮索できないだろう。まあ雀は詮索という深堀はしてこないし、言っていいことと悪いことにしっかりとラインはあるようで、それを考えながらこのテンションなのだから意外と頭いいんだな、と実感する。


「告って付き合って結婚しろ、翔奏」

「けっ⁉ ……お前、本当にでなに言ってんだ? 頭でも湧いたか?」

「オレがこのテンションなのはいつものことだろう? ついてこれてないお前が悪い」

「暴論すぎて涙が止まらない」


 しかし、一つ気に食わない部分があるとすれば、なんでもかんでも恋愛の方向に持って行くところだ。そこが唯一、雀の悪いところだと思う。


 別に、少女への感情がないわけではない。当然異性としては見るし、他の理由が大きかったが、しかしだからこそ一緒に寝る提案も拒んだ。


 だが恋愛感情となれば別だ。翔奏から少女に対する恋心があるわけでもないし、ましてや付き合いたいなんて不躾がましいことなど、一切と言っていいほど思っていない。


 だからこういう話は、翔奏には無関係で遠いところにあるものなのだ。


「んじゃ、そろそろ行くか。お前はどうする?」


 雀が立ちながら、バスケットコートへ行こうとする。

 しかし翔奏は座ったまま、


「いや、ごめん、俺はもう少しここで休むよ。俺がいたら動きにくいだろ?」

「そんなことないけど……まあ、いいや。翔奏が休みたいんなら、休めばいいさ」


 最後に「成績落とすなよー」というなんとも今の時期には辛い脅しを入れて、雀はコートの中へと入っていった。


「……あいつ、本当にすごいな」


 たった半試合分休んだだけですぐに復帰できるのは、やはり中学の時に陸上部に所属していたからなのだろうか。対の翔奏は文芸部だったので、体力など皆無なのだが。

 その背中だけを見て、翔奏は少し移動して体育館から外へとつながる解放扉の元へと行く。


 三年生の、四月。周りが進路を決めている中、翔奏だけは、まだこの先の像を掴めないでいた。

 この学校は進学校なだけあり、ほぼすべての生徒が大学進学を希望している。しかし翔奏は、それすらも——受験校すらも、未だに決まっていなかった。それはここ最近の出来事のせいなのか、翔奏が怠けていたのが悪いのか。


 外を見ると、おそらく今年最後だろう桜の花びらが舞っていた。

 あの花びらの一つ一つがどこに行くかなんて、到底予想できない。そんなの、気まぐれにも等しいのだから。

 けれど、そのすべては木から離れた瞬間、自由になれる。すべてが、()()()()()()


 雀も、みんなを引き連れていくかのようにボールを小器用にもパスしたり、ましてや華麗にゴールに入れていく。人に触れられるのが無理だと言っていたが、その物事に集中しているときは、どうやら気にしなくていいらしい。

 その姿は、どう見ても()()()()()()


「……羨ましい」


 小さく呟いた言葉は、舞い散る桜の花びらに言ったのか、雀に言ったのか、それとも他のなにかに言ったのか。

 そんなことを知る由もなく、翔奏は春の陽光に差されていた。


  *** ***


 今日は、どうやら少女が都合で病室へ帰るのが遅くなるらしく、食事は自分でとるようにとのことだった。

 それならば、と翔奏は久しぶりにキッチンの前に立っていたのだが。


「……なに作ろう」


 いつも通りカルボナーラを作ればいいのだが、どうしても少女の味が思い起こされて脳がカルボナーラを拒否していた。

 カルボナーラは好きだ。好きなのだが……今はどうしても、違うものが食べたかった。あまり触れないでおこう、複雑だ。


 しかし張り切ってエプロンを着たはいいものの、翔奏がまともに作れる料理はカルボナーラ以外に存在しない。

 つまり、詰み。もうカルボナーラを作る以外に選択肢は残されていないのだ。


(瑞葉さんが、いたら……)


 自分がいつの間にかそう考えていたことに気づき、はぁ、と翔奏は吐息する。


 少女の料理は美味しい。今まで食べてきたご飯の中でとびきりに美味しい上、味だけではなく見た目も凝っているものが多い。

 だからか、いつの間にかそれを求めてしまう節が時々あった。まだ幾日も経っていないのに、まるで餌付けされている犬のようだと自分でも薄々思っていたが。まさか、自分の料理を想像しただけで絶望するほどまで胃袋を掴まれているとは。


 だが、なにかしなければ始まらない。翔奏はそう思い立ち、近くに置いていたスマートフォンを持つ。

 レシピを見ながら作っていると、少女も言っていた。それならばやはり、師に倣って翔奏もレシピを見るべきだろう。いや料理が下手な人がレシピを見ないで料理を作るなど、無謀に近いのだが……思ったら、今まで失敗した料理はすべてレシピを見ないでつくっていた気もしなくもない。


 適当に、簡単そうでも難しそうでもないオムライスを選択してみる。


「えーっと、まずは米と鶏肉と……待って、卵あったっけ」


 嫌な予感がして、急いで冷蔵庫の中を確認してみると、


「……なんで鶏肉はあんのに卵がねえんだよ」


 予想は的中、この前のカルボナーラを作った時に切らしたみたいで、そこには空のパックしかなかった。

 だがなぜか、鶏肉はある。カルボナーラに使うわけでもないのに、一体なぜ買ったのだろうか。消費期限も切れていないし、最近買ったのだろうか。記憶が混濁してい思い出せない。

 そして一先ずすべての材料を確認していくと、ケチャップと米も追加出ないことが分かり、制服のままだったので早速買いに行こうとスーパーへと向かう。


 ——数分後。スーパーに着き、卵コーナーの前へと着く。

 数種類あり、どれがいいのかは分からないが……。とりあえず、一番売れているものを買ってみる。

 さて、次は米売り場。と言っても炊飯する気などもともとないので、パックのコーナーへと行く。


 と——そこで、見知った顔を発見した。


 ……ここは後回しにしよう。絡まられると、結構怠い。そう思い、顔をしかめながら踵を返そうとしたのだが、


「あら、桐宮くん? 久しぶりだわね、元気にしてた?」

「げっ……。……西園寺さん、お久しぶりです」


 その時後ろから声を掛けられ、無視するわけにもいかずにため息交じりに振り返る。

 そこには——純正なお姉さんがいた。


「げっ、ってなによ、わたしに会えてうれしくないの?」

「うれしいうれしくないの前に怠い絡み方してきますから、避けはしますよ」

「お上さんにそんなこと言って大丈夫かしら? また地団駄踏むわよ」

「それだけは勘弁してください、結構響くんです、あれ」


 茶色の先を少し巻いた髪に、シャツと簡単なコートを羽織ったいかにもお姉さん的な雰囲気を醸し出している人——西園寺(さいおんじ)夏織(かおり)は、パックの米を片手に翔奏を見ていた。


 夏織は、翔奏の一階上の同じ下一桁の号室に住んでいる、俗にいう「お上さん」だ。普段なら自分の上に住んでいる人と関わる機会なんてそうそうないのだが、二年前とあるきっかけで知り合った。


 その理由とは。


「まだドラムやってるんですか?」

「ええ、もちろん。今度テレビに出演させてもらえることなったのよ」

「……え、マジですか?」

「そうなのよ。本当に光栄なことだわねぇ」


 そう——ドラムだ。


 二年前、上の階の人がうるさいと思った翔奏はなんとかその環境で高校生活を送っていた。勉強には支障はなかったし、小説もイヤフォンをしていたら気にならなかった。


 しかしある時を境に、突然その物音が激しくなった。最初は数日で収まるだろうと思っていたのだが、一日経っても、一週間経っても止まなかったためついには限界が来て該当の号室へと突撃したのだ。

 最初のやり取りは、今でも覚えている。


『はーい? どうしました?』

『すみません、下の階の桐宮と言います。突然申し訳ないのですが、少し……というか、だいぶ物音が下に響いていまして、日常生活にも支障が出てきたので思い当たることがあればやめていただきたいのですが』

『思い当たること……? ごめんなさい、特になくて……』

『……? おかしいな、じゃあ別の人かな……。ちなみに、普段はなにをやられているんですか?』

『ドラムですね』

『絶対それが原因だと思います今すぐ防音対策をしてください』

『えー? でも、壁には吸音材貼り付けてるんですけど……』

『あの、床は?』

『……あー、してないかも』

『今すぐやってくださいお願いします』


 結局その後すぐに防音材を買ったらしく改善はしたのだが、それからも学校の帰りや外出時に度々会う機会があり、世間話のついでに、例えば夏織が社会人だということや、実は関西人なことや、レーベルに所属しているプロの音楽家だということを知った。

 翔奏もある程度自分のことは話して、初めて同じマンション内で知り合いができたのが、二年前だ。


 そして——忘れもしない、あの日。翔奏が学校の後に書店に寄り、帰りが遅くなってしまった時だった。

 マンションのエントランスに入ると、集合玄関機にもたれかかっている夏織を発見した。


『っ、西園寺さん⁉ 大丈夫ですか? 意識ありますか?』

『ん、んん……わあ、桐宮くん……いたんだあ……』


 なんだ、どうしたというんだこの人は。顔は真っ赤だし、目がとろけているし、それになんか……アルコール臭いし。

 ……まさか、これ、酔ってる?


 しかし夏織は虚ろな目を細め、翔奏を見つめる。


『桐宮くん、いい子やねえ……わたしはもう、っく、どうせのんだくれなのに……』

『西園寺さん、しっかりしてください! 歩けますか?』

『う~ん、大丈夫だと思うよぉ……』

『だめですね、号室入力しますから一緒に行きましょう』


 これでは完全にのんだくれの母親を介錯している子どもではないか。そんな客観的にみた自分と夏織が羞恥のように映ったが、気にしないようにして夏織をエレベーターに乗せる。


『西園寺さん、鍵出しておいてください。着いたら入りますん……でっ……⁉』

『んふふ~ん、わたしもう桐宮くんのこと好きになってしまうわ~、なあ、連絡先交換せえへん?』

『腕から離れてください、アルコール臭いです。あとほら水、ちょうど持ってたんで飲んでください』

『いい子やわあ……。桐宮くん、下の名前で呼んでも……』

『着きました、降りましょう』


 本当に酔いが全身に回っているらしい夏織は、ふらふらとした足取りで翔奏の肩を借りながら玄関へと向かう。


『ほら、鍵出してください。でないと管理会社呼びますよ』

『脅さんくてええや~ん、今出すからあ』

『……はい、これで開錠出来ました。ほら、さっさと中に入ってください』

『なあ、今日うちに……』

『泊っていきません、はい、それでは』


 変なことを言い出す前に翔奏は先手を切り、夏織を部屋の中に押し込んでドアを閉めた。

 ガチャ、という音が鳴ると同時に、翔奏は手を膝につく。


 そして、一言。


『……怠い人だ、西園寺さん』


 そう思わず呟いてしまった。


 ……というのが、約一年以上前の一部始終。そこからは吹っ切れたのか、夏織もフラットになり、こうして会うたびに以前よりは話し込むようになっていた。


「西園寺さんは、食材探しですか?」

「そうね。今日の夜ご飯の調達でもと思ったけど……その感じだと、桐宮くんもそうなのかしら?」

「ですね。自炊しようと思いまして」


 買い物かごに唯一入っている卵に気がついたのか、夏織はそう言ってくる。

 夏織のかごにはというと、今入れたパック米、豚肉、じゃがいも、マヨネーズ、マカロニと、全部合わせたら何味になるのか想像もつかないような食材がまとめられていた。


 すると夏織は、パック米をもう一つ取って翔奏に差し出す。


「はい、これ買いたかったんでしょ?」

「……ありがとうございます。察しがいいんですね」

「そりゃ当然よ、これだけ人生を生きていたら」


 翔奏は少々驚きながらも受け渡されたパック米をかごに入れ、歩き出した夏織の横になんとなく続く。


「ちなみに桐宮くんは、なにを作ろうと思ってるの?」

「オムライスです。あとは……ケチャップだけですね」

「オムライス! 最近食べてないなあ……太るから控えてるのよね」

「そういう西園寺さんは、なにを作ろうと?」

「生姜焼きとマカロニサラダを作ろうと思って。久しぶりに濃い系を食べたくなっちゃって」

「……それこそ太りません? もしかして」

「うるさいわね、好きな時に好きなものを食べないで人生楽しいと思う?」

「太りたくないって言ってた人は誰でしたっけ」

「あら、一枚上手だわね、桐宮くん」


 ふふっ、と蠱惑的(こわくてき)な笑みで微笑むと、夏織はケチャップのコーナーへと移動する。


「わたしもケチャップ切れてたし買おうかしら」

「ケチャップって使わないと見せかけて、意外な場面で使うから切れてるの気づきませんよね」

「そうかしら? 案外使わないと思うけど」

「……まあ、そこは個人差ってことで」


 少し苦い顔をして、翔奏はケチャップを陳列棚からかごに入れる。

 すると前の宣言通り夏織もケチャップを手に取り、賞味期限を軽く確認してからかごに入れた。そうか、賞味期限も気にしなければいけないのか。

 まあだが、あくまでも賞味期限だ。切れても、問題なく使えるだろう。そんな刹那の楽観的思考を持ちながら、翔奏はレジへ行こうとする。


「西園寺さんも会計するんですか?」

「そうね、買うものは買ったし、後はいいかしら……。菓子パン買いたかったけど、まあ次でいいわよね」


 最後の方は小声になりながら、二人は一緒にレジへと進む。どうやら夏織は、菓子パンをカロリーが低めな食べ物だと認識しているようだ。


 程なくして会計を終わらせると、翔奏は商品整理の机で商品を詰めるバックを持ってきていないことに気づいた。

 普段は軽いバッグを持ってきているのだが、今日はどうやらそこまで頭が回っていなかったらしく、財布と我が身一つだけで来てしまっていた。軽いバッグの中にそれが入っているので、このままでは全部手に持って帰ることになってしまう。


 どうしようかと頭を悩ませていると、横から手が差し伸べられた。


「はい、これ。桐宮くん、持ってきてないんでしょ?」


 その手の中には、折り畳まれた商品詰めバッグが持たれていて、翔奏は一瞬戸惑ったが、すぐにその意味に気づいた。


「……ありがとうございます、お言葉に甘えて」

「どうぞ~」


 ありがたく差し出されたバッグを丁寧に受け取り、翔奏はそれを広げて行き場を失っていた食材たちをようやく入れる。

 しかし、その様子が不思議だったようで、夏織は右手を顎に添える。


「こういう時に遠慮しないのが大人を舐めてるって感じがするのよねえ、桐宮くんは」

「なんか言いましたか? こっちには泥酔という名の切り札があるんですよ」

「だ、だから、その話は恥ずかしいからしないでって言ったじゃない……! ……まあ、あの時はわたしが悪かったって思ってるけど」

「それに、俺が断っていても、無理やり押し付けたでしょう? こっちとしてはありがたいんですが、素直に受け取った方が、いいと思うんで」

「……なんか、人間関係の裏を見ている人みたいな発言ね」


 別にそんなつもりはなかったのだが、そう聞こえてしまったなら致し方あるまい。実際翔奏はどこか物事を俯瞰しているところがあるし、それは自覚している。のだが、どうしても裏を突いたような発言が頭に過り、つい口に出してしまうのだ。


 一体こうなってしまったのは、誰のせいなのか。


「そろそろ行きましょうか。他に寄るところとかは?」

「ない、ですね。直行直帰です」

「じゃあ、帰りましょうか。わたしも特に他用はないし」

「そうですね。帰りましょう」


 こんな翔奏を、夏織や周りの人はどう思っているのか。

 そんな考えようにもないことは、暗くなった空に吸い込まれるように消えていった。




17.親友(自称)の観察眼とお上さんとの邂逅

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