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57.現在-倒すべき敵

 

 ラファータと海に行った翌日に屑勇者と不愉快な仲間たちはスティグリッツ辺境伯の城を出た。


 北西の『インフォマティ』という町に異変があったらしく、そちらに向かうことになったようだ。


 合流時の猛毒の一気飲みもあって、屑勇者たちは警戒して距離を置くだとか、暗殺といった手段を取ってくるかと多少警戒していたが、そんなことはなかった。


 常人が運べなさそうな大量の荷物を持たされたり、馬車の整備だの、調理の準備だの片付けだの洗濯だのといった雑用を全て任せられたりするだけだ。


 屑勇者たちの会話を盗聴したところ「たとえ本当は魔物だろうが、そうした厄介な存在すら使いこなす俺は凄いだろ」とのことだ。


『バカなんじゃないかな。ガバナンスがガバガバだよ』


『リスクコーピング出来るという算段なのでしょうが、リスクマネジメントについては杜撰ですわね。事前の一策、事後の百策に勝ると言いますのに』


 まあ、こちらに無用心なのは助かるから、その愚かさに感謝しておこう。


 押し付けられた雑用は、竜気と『クリアランス』で大体何とかなった。

 竜気で肉体強化して荷物を持ち、馬たちに竜気を流し込んで強壮にさせ、『クリアランス』で馬車も衣服も、片付けもした。

 やはり『クリアランス』はめちゃくちゃ便利である。


 屑勇者の不愉快な仲間たちには当時はキリル嬢がいたように貴族以外にも見た目は良いが身分が低い娘もいて、戦闘せず行軍の支援を行っている。

 兵站は重要だし、彼女たちも旅に不可欠であるがやはり扱いは戦闘メンバーに比べると低い。

 彼女たちにもヒックス君は罵られていたが、今日の仕事振りには、少し自分たちの有用性を脅かすのではないかと危機感を抱かれたらしい。

 無用の危機感にも程がある。


 ちなみにラファータは、やはりその能力の特別性から扱いとしては最上である。ヒックス君が虐げられても直接は殺されなかったのもやはりラファータの存在が大きい。

 むしろ痛めつけてもラファータが治すからとかなり手荒に暴力を振るわれていた節もあったが……やはり眼が死んだあのアルテナと俺がよく知るアルテナはもはや別人だな。


 あの壊れたガラス細工のような危ない美しさも一種蠱惑的に思えるが、今の快活なアルテナの方がずっと素敵だと思う。


『んああ、いいですわね! もっとおかわりですわ!』


 ……それからは無心で馬に給餌をしていると、勇者たちのいる天幕の中から複数の矯正が聞こえた。


 天幕は3つあり、一つは屑勇者たちが夜ごとにいかがわしいパーティを開催している。


 もう一つはそれ以外で比較的身分や実力の高いものがいる。

 ヒックス君の記憶によれば、ラファータはいつもこの天幕にいることが多い。


 そして、最後の天幕は他の二つに比べるとやや大きく、質で劣るものだ。

 屑勇者の女の中でも身分が比較的低い者はこの天幕に寝ているらしい。


 そして俺は屋外にて眠る。

 これはヒックス君の頃から変わりなく、ヒックス君はいつも寝袋に体を入れて寒さと暗闇に縮こまりながら何とか夜を凌いでいた。

 ラファータの癒しの力がなければもっと早くに絶命していたかもしれない。


 まあ、俺はテトラくんちゃんの過去で寝食が不要だ。

 寒さも竜気や魔法で幾らでも対処できる。


 そうして、僅かな時間で天幕から出てきて、心配そうに話しかけてくるラファータと軽く談笑したりして『インフォマティ』に向かう旅を続ける。



『アルテナさん推しですけれど、ラファータさんも有りな気はしますわね』


 さいですか。


『タイムリミット……おっと神斬りアレクセイとの戦いまで、あと2週間だね』


 まあ、実際に剣聖のクソ爺は死に戻りのタイムリミットになっているよな。


 今度は全力で逃げて見るか?


『背中ごと斬られそう』


 間違いない。


『命乞いも無視されそうですわよね』


 うん。




 その日も夜に焚き火を囲みながらラファータと二人で少し話をした。


 一応、傍聴しないように音は遮断するようにしている。


 その日は、不本意だがラファータが勇者について知っていることを聞くことにした。


「勇者様についてですか」


「ああ。こうして旅をしているのに、ユーシャサマの目的も何一つ分からないからさ」


「……



 今日でおそらく『インフォマティ』に到着するだろう。


 そして今夜も屑勇者を盗聴していると朝食女と興味深い会話をしていた。


「ねえ、ケイン、この旅が終わったら本当にこの国の王になるのよね」


 馬車の中で朝食女と屑勇者が二人きりの時に、朝食女がそう切り出した。


「ああ。本当だよ。歴代の勇者は使命を達成後はみんな王家を継いだし、俺も使命を果たした後は王家を継ぐことは約束されている」


 これ自体はヒックス君の知識と記憶で既知のことだ。


 しかし屑勇者が国王で大丈夫か。

 戦闘力と政治の卓越は全くの別物だと思うが。


 いや王が変に出しゃばらず周囲が優秀ならば大丈夫なのだろうか。


「アタシを王妃にしてくれるのよね」


「当然だろ」


「……あの平民出の聖女ではなくて?」


 ラファータのことか。

 ラファータが屑勇者の正妻なんて代理人は認めませんよ。


『代理人君はヒックスさんとラファータのガチ勢ですものね』


『代理人君の脳が壊れちゃう』


「ティファニー、お前が俺の一番だよ」


「ケイン……」


『ぜーったい他の女にも言ってるよ』


『実際に言っていましたわよ。いえ、ワタクシは出歯亀ではありませんわ』


『語るに落ちてるんだよねぇ……』


 ちょっと君たちうるさいよ。


「極魔アドラメレクを倒せばこの旅は終わるのよね」


「ああ。極魔は重魔よりも強いらしいからな。気を引き締めないといけないだろう」


「重魔グリムや、重魔カルボン、重魔イノーマシ程度ならあまり苦労しなさそうだけど」


 朝食女のあげた重魔はヒックス君の記憶にもある。

 確かに朝食女、そして本来ではアルテナとキリル嬢も加わって倒していた。


 ヒックス君の生命を奪いかけた重魔イノーマシについては今更説明するまでもない。


 しかし極魔アドラメレクねえ。

 知らないが、極魔ということは極魔ガルーダや極魔ナーガと同じ水準だろうし屑勇者程度では厳しいのではないだろうか。


「正直、ケインに聞くまで存在も知らなかったしたいしたことなさそうよね。そもそも極魔って伝説みたいなもので現存するかも分からないし」


「まあ、俺たちだったら余裕だろ。極魔が存在しないならそれらしい魔物を倒して首を持ち帰ればいいだけさ」


「ふふ、そうね。ケインとアタシがいれば何も問題ないわよ」


 極魔を舐め過ぎだと思うぞ。アイツら規格外のバケモノだからな。

 しかも今の屑勇者パーティにはアルテナとキリル嬢もいないわけだからな。


『極魔アドラメレクってガチでヤバいヤツじゃん。勇者たちはそんなのと戦おうとしてるの?』


『無知というのは恐ろしいものですわね……』


 あ、テトラくんちゃんもペンテお嬢様も極魔アドラメレクについて知っているのね。


『そりゃ、クオンツが滅んだ理由の一つだしね』


『神斬りのアレクセイとかなり互角に戦って止めを刺せなかったとも聞きますわね』


 剣聖のクソ爺と戦えるレベルかよ。

 バケモノが過ぎる。


 重魔リリスや重魔スペルビアのいう黒幕っていうのは極魔アドラメレクのことだろうか。


『んー、どうだろう。極魔アドラメレクだったら暗躍とかしなさそうだけどなぁ。あれは王の風格のある魔物だし』


『威厳ある武道派の魔王って感じですわね』


 そうなのか。

 精霊たちの言葉の通りならば黒幕は別にいるのだろうか。

 重魔リリスや重魔スペルビアの背後にいる黒幕って何となく陰湿な奴な気がする。


 黒幕でないにせよ極魔アドラメレクはあいつらと関係があったりするのだろうか。

 現時点では分からんな。


『道化の神がいうラファータの不幸っていうのは極魔アドラメレクに勇者たちごと殺されちゃうことかな』


 救世の旅とかいうおちゃらけた旅行の目的は極魔アドラメレクを倒すことだったのか。

 屑勇者が主人公のRPGならば極魔アドラメレクがラスボスの魔王だと。


『あまりに敵が強過ぎて、途中までガチバトルした後はイベントを挟んで倒しちゃうやつだ』


『とんでもないご都合展開が必要ですわね』


『しかも魔王がラスボスなんて時代は今は昔。今は中ボス程度の扱いに過ぎないんじゃないの。地下世界に潜って大魔王倒さないと』


『地下帝国を築いているわけですし、むしろ代理人君がラスボスみたいですわね』


 こんなに弱いラスボスで良いのか?


 いや、屑勇者は下半身の方が色々とはっちゃけているようであるため、ゲームのジャンルが違うのかもしれない。


 ちなみに勇者の子どもと認知されると身分の貴賎を問わず王国から様々な支援を受けられるらしい。


『成人ゲームみたいなご都合設定だね』


『この世界、実はすごく頭が悪いのではありませんこと?』


「とにかく、まだ他の奴らには秘密な。特に聖女辺りから教会に伝わると面倒かもしれねえからな」


「マーシャル王家は聖令教と繋がりが深いものね。邪魔をされたら困るもの」


「ああ。その辺りも恐らくあのクソジジイの試練に入ってるだろうからな」


「……その、そのお方って本当にご存命なのよね?」


「ああ。まったく、くたばる時にくたばっておけって話だぜ」


 クソジジイの試練?

 どうも剣聖のクソジジイではなさそうだが。


『神斬りのアレクセイよりも深く王家に関わるクソジジイみたいだね。ここは屑チンをボコって聞き出してみたら?』


『まだ代理人君では勝てないのではなくて?』


 どうだろうか。厳しい気はするな。

 ペンテお嬢様の加護があれば速さで遅れを取ることはないと思うが、卑劣で最低な概念攻撃の対処がまだない。

 正直負けバトルだよな。


『それなら朝食女を攫って、拷問にかければいいかな? 重魔リリスみたいにさ……うっ、思い出したら気分が悪くなってきた』


『ワタクシとしてはその手段は、どうかと思いますわ……』


 確かに朝食女はヒックス君殺人未遂の片棒を背負っているし、俺も何度も殺されたからな。


 大した情報は握ってなさそうだが試してみる価値はあるか。


 今回やるにせよ、もっと剣聖のクソジジイとの決闘まで時間が差し迫ったらか。


『やっぱ代理人君が大魔王なんじゃ?』


『地下帝国ですから魔帝の方が相応しいかもしれませんわね』


 失敬な。


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