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51.現在-間隙

 

 勝てなかった。


 剣聖のクソ爺の強さはやはり規格外だった。

 最初の一撃すら躱せずに破れた。


 アルテナは『無明』を回避できたのだろうか。

 ハーベルは斬られて辛かっただろうか。


 俺はいつか剣聖のクソ爺に勝てるだろうか。


 差は大きいと思っていたが、隔絶は俺の想像を遥かに超えていた。


『死に戻りできただけ儲けものだよ。正直、ボクたちや死に戻りの加護ごと斬られるんじゃないかと少し不安だったんだから』


『そうですわね』


 ――ああ、そうだな。俺はやり直せるんだ。

 あの強さを考えると憂鬱になるが、立ち止まってもいられない。


 俺に出来ることは歩みを止めないこと、考えることを止めないことだ。

 弱者が出来る最良の手段だろう。


『立ち止まらなければ光の導きがありますわよ!』


『休んだら悩んだりさながら、色々と考えることも同じくらい大事だと思うけどね』


 ——有り難いことに、俺には協力してくれる味方もたくさんいるんだ。


 負けられねえよ。




 さて、過去で夜に眠って、いつも通り今日も6年後の現在だ。


 ペンテお嬢様と出会った塔からの開始であるため、まずはサキュバスの村へと駆けた。


「……あら、人間?」


 俺が近付くそれに気付いたらしいサキュバスたちが集まってきた。

 どいつもこいつも一糸纏わぬ姿で寒くないのだろうか。


『男の楽園じゃないの? 交われば骨の髄まで搾り尽くされちゃうけど』


『破廉恥ですわ!』


「ふふ、減らないエサ以外の人間を食べるのなんて久しぶり」


「この辺りに人間は来ないもんね。私も重魔リリス様についていって人間をたらふく食べて遊びたかったな」


「弱いんだから仕方ないでしょ。とりあえずエサをもっと食べて強くならなきゃ。きっと減らないエサよりは上質でしょ?」


 集まったサキュバスたちが俺を見て好き勝手に喋る。


「えへへ、早い者勝ち! 私がいちばーん!」


 近寄って来たやや幼い姿のサキュバスを『一之剣・疾風』で切り裂いた。


「お前ら、これからずっと根絶やしにするからな」


 それからは『一之剣・疾風』と『ニ之剣・唐紅』でサキュバスを屠っていった。

 逃げ出そうとしたサキュバスは『五之剣・天凛』で消し飛ばした。

 やがて静かになり『四之剣・砂鯨』で確認したところ生存者は被害者例の男性の一人だけだった。


 ペンテお嬢様の塔から開始している間はかつての重魔ブルートのように毎回の開始ノルマとして倒そう。

 少なくともここのサキュバスは生かしておくべき存在ではないからな。


 それからは前回と同じように被害に遭っていた男——まあ、記録者とでも読んでおくか——に衣服ゴーレムと『クリアランス』をかけた。


「……君は代理人くんか」


「ああ。あんたは、知ってるんだよな」


「……なるほどね。あり得たはずの別の未来で僕と君は出会って、既に一度は君に救われているんだろう?」


 話が早いな。


「そうなると僕は君の助力にはなれないだろうね。僕は記録をする者であってみだりにこの世界に干渉できないからね。それがルールだ」


 そういう割に前回は色々と情報提供してもらったが。


「僕が重魔リリスとその配下に利用されてしまったから、僕ではない僕はその調整として君に情報を提供したのだろうね。きっと僕はこれ以上君の手助けになることは出来ないだろうね」


 そんなご都合主義なことがあるだろうか。


「本当に伝えることができないんだよ。例えば、道化の神の目的は——で、君が立ち向かわなければいけない——は——の——のために——している。重魔スペルビアは——があって、それで——して——しようとしている、と言った感じでね」


 記録者の言葉は欠落して聞こえた。

 その口の動きさえも俺は理解することが出来なかった。


「……あんたは何者なんだ? なんでそうしたことを知っていて、そして話すことが出来ないんだ?」


「僕は記録する者だよ。かつておおきな罪を犯して、その償いのために神さまにこうして不老不死にされて記録を取り続けるのさ」


「……何をしたんだよ」


「忘れてしまったな。何せかつての僕のことは記録に残ってないからね。きっととても悪いことをしたのさ」


「いつあんたは許されるんだ?」


「さてね。僕に罰を与えた神さまは、もう自己の永遠性に飽きて消滅してしまったよ。僕は自分の不老不死が喪われるのを死ぬまでずっと待つだけさ」


「……罰を与えた者ももういないのに、あんたはずっと記録を取り続けるのかよ」


「そうだよ。有限な弱い者たちのために、僕は記録を取るのさ」


「……いつか救われることを願うよ」


「ありがとう。これ以上、君の味方にはなれないだろうけれど、個人的に応援しているよ」


「俺は次もあんたを助けるさ。経験値も手に入るしな」


「ありがとう。君に幸いあることを祈っているよ」



 その後は、前回も同じようにオイコノ領に向かって地下帝国で重魔リリスとその配下の位置を捕捉後、オイコノ子爵ごと速やかに始末した。


 ちなみに地下帝国の住人たちからは「あっさりし過ぎて良くない」と不評だった。


 もう重魔リリスを倒すのも3回目だからな。

 許すつもりはないが、もう省略できるところは省略したいんだよ。


『ボク的には毎回劇的な戦いをしてくれても良いよ?』


『ワタクシとしても構いませんわね』


 いや、重魔リリスは訓練にもならないしこれでいいだろう。




 それから、キリル嬢に事前に重魔スペルビアこと聖人アローについての情報や、その他の『位階の信徒』に関わる調査や、他に王国に入り込んでいる調査させていたので聞き出した。


「マスターは私遣いが荒過ぎ……」


 申し訳ない。

 キリル嬢が優秀だから、色々と仕事を頼んでしまうんだよな。


 かなり戦えて、情報収集もできて、ゴーレム化含めて危険に対しても生存力が極めて高いので、困難な仕事はひとまずキリル嬢に任せたくなるのだ。

 やはり忠実で優秀な人材は幾らいても困らないものである。


 ちなみにマスターと呼ぶのはナッシュに倣っているだけで、俺に対する敬意とか従順とかは微塵もない。


 ビジネスパートナーくらいの関係は築けていれば良いが、そこにも至っていないだろう。


 それにしても前回の重魔スペルビアの特定といい、とても良い仕事をしてくれた。

 改めて天才斥候の有能振りを遺憾なく発揮してくれたと言っても良いくらいだ。


 そういう訳で重魔スペルビアの現在の所在地を把握したため、ケンカを売りに行くことにした。


 この前の『ソシオルクオイス』ではないもののやはり王都付近の『ポライーコン』という町に滞在して、病苦や貧困に苦しむ人間を見舞いと、亡くなった人間の弔いをしているらしい。

 それだけ聞くと聖人という異名に相応しい振る舞いをしているように聞こえる。


『その裏では亡くなりそうな人間の息の根を止めて経験値を集めたり、死体を集めてミクスゲルの実感に使ったりしているわけで』


 聖令教の聖人という立場はいい隠れ蓑なんだろうな。


 しかし、キリル嬢から得られた情報で、重魔スペルビアは俺が想像していた以上に手強いことが分かってしまった。

 特に過去では下手な手出しをした瞬間にこちらが滅びかねないくらいである。


 しかも重魔スペルビアはおそらく相当に戦闘能力もある。

 どのようにしてレベル上げをしているのか気になるところだ。


『年齢を鑑みて位階が妙に高いことからして、他者の魂を自身の中に取り込める『ディクテタ』という魔法を使っていると思いますわ』


 それってつまり経験値ブーストってことか?

 そんな便利な魔法があるなら俺も覚えたいんだが。


『魂の残滓じゃなくて、大部分を取り込むから自我だとか自己同一性だとかが大きく歪んじゃうんじゃないかな。魂の変質は存在の変質だよ』


 それじゃあパスだ。

 魔物と魂と同化したら俺では無くなってしまう。

 体を含む全てが俺のものでないのに、意識の同一性を喪ったら何も指針が無くなってしまうだろう。


『それもあって重魔スペルビアは自身の行動規範を事前に定めてしまったわけですわね』


 つまり、自分が自分で無くなるのが分かっているから、変わった自分が別の行動を取らないように予め望ましくないと考えた行動を取れないようにしたわけか。


 重魔スペルビアは、その思想や行動に共感は出来ないが、その覚悟は認めて、強敵であると認識しなければいけないな。


 さて、行くか。


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