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19.過去-ゴーレム計画

 

 ゴーレムである。


『うん?』


 俺はビジネスをやるならば、何なら上手くいくかを考えた。

 今後の戦闘とかにも使える応用可能性があるものだとなお嬉しい。


 色々と考える中で、大地の精霊テトラくんちゃんと会い、ヒックス君の適性が地属性と知った。


 そして、テトラくんちゃんと色々と話しをして重魔イノーマシについての話を聞いたときに名案が思い付いたのである。


「ゴーレムだ。ゴーレムを作ろう」


 そうゴーレムである。


『……うん?』


 個人だけではあらゆることに限界がある。


 人間が都市に集積したり組織を結成したりするのは分業のためである。

 分業と取引によって自給自足や個人だけの活動よりも全体的としてより多くの生産や成果が期待できる。


 戦争の単純な数理モデルでも、白兵戦のような単体対単体でも人数が多いほうが有利であるが、銃撃戦のような多対多では人数の多さで指数的に損耗率に差が出ることが示されているし、ある程度の実証もされている。


 集団が力を合わせることで個人だけでは達成できないことを成し遂げられる能性があるということである。

 もちろん集団には集団で、成果物の分配の問題や協調の問題も存在するのだが。


 俺には数の力がない。

 どれだけ強くなっても単独、または少数では不可能なこともある。


 そうした俺の弱点を補完して、しかも集団だと発生する問題が生じない銀の弾丸になりえるかもしれない存在がある。


『それがゴーレムってわけね』


 その通りである。


 ゴーレムを大量に召喚しまくって、上手くビジネスにできれば、俺自身はたいして動かずにお金を稼げるだろう。

 それに11年後の現在でゴーレムを大量に召喚して、魔物を狩りまくれば位階の上昇にも大きく貢献するかもしれない。

 屍体になった重魔ブルートの攻撃に巻き込まれて死んだ魔物ですら俺の位階の上昇に繋がったのだ。

 ゴーレムが倒した魔物もきっと俺に経験値を与えてくれる可能性は大いにある。


 もはやチートと言っても過言ではない夢の魔法である。


 そしてテトラくんちゃんはゴーレムの魔法が存在することを証言した。


 重魔イノーマシである。


 ヒックス君を殺した大悪である重魔イノーマシも元々はテトラくんちゃんの祭壇を守護するゴーレムの成れの果てだそうだ。

 そう考えると、女好きのくそったれ勇者のヒックス君を陥れるための発言も当たらずも遠からずということだったということか。


 早速ゴーレムを作成する魔法『ゴーレムクリエーション』を習得したいとテトラくんちゃんに頼み込む。


「えー……うーん……まあ、いいよ」


 ちょっと含みを持たせるのに不穏を感じさせるが、俺とヒックス君ならきっと成功できると信じている。


『ゴーレムマスター』のジョーリ・ヒックスと称される日も近い。



 自室に戻り、ハーベルと二人でテトラくんちゃんにゴーレムを生み出す魔法『ゴーレムクリエーション』を教示してもらう。


『大地の精霊様。なんかうまい具合に土とか泥に生命っぽいの与えて、なんか上手く操れて、なんか勝手に色々と都合よく行動してくれて、ずっと使える、そんな人形を作ってください――ゴーレムクリエーション』


 テトラくんちゃんが重魔イノーマシの前身となるゴーレムを作成する際に詠唱された魔法である。


『むちゃくちゃ過ぎない? ブチ切れそうだよね』


 テトラくんちゃんは、『ゴーレムクリエーション』を教えてくれる際に少し昔を懐かしむように語っていた。

 しかし、やはり怒ってはいた。

 無知な顧客にむちゃくちゃな仕様を要求されるSEとプログラマたちが連想された。


 詠唱の改良の余地は既に多く見受けられるが、ひとまず原文のままで『ゴーレムクリエーション』を実行してみた。


「ゴーレムクリエーション!」


 身体に満ちていた全身の霊気が一瞬で全て持ってかれた。


 空っぽである。


 脳貧血を起こしてふらつき、そのまま倒れそうになるが、倒れていない。


 ハーベルが支えてくれていた。


 良い匂いがする。ハーベルはやはり人形のように整っている。ずっと見ていたい。ずっとこうしてくっついていたい。彼女が『ジョーリ・ヒックス』の名前を呼んでいる。ああ、それは本当の名前じゃない。俺は、代理人だから。ヒックス君から何もかもを奪ってしまった屑なんだ。幸せになる権利なんかないんだ。


 ………………。


 ハーベルがヒックス君の体に自らの霊気を注いでくれたことで、意識がはっきりとした。


『おー、発動するとは。これ、本当は一人じゃなくて大人数で詠唱するタイプの魔法で『集合魔法』って昔は呼ばれてたんだよね。失伝したみたいだけど』


 そんな大魔法を俺一人にやらせるな。

 ヒックス君の体が壊れたらどうするんだ。


『地属性の魔法は魔法対価が足りないからって術者の生命を吸い上げたりはしないから平気だよ。ボクがそうしてるからね』


 その口ぶりだと他の魔法はそうでもないのか。

 本当にテトラくんちゃんはかなり人間好きな精霊なのだろう。


 そういえばこの世界では地震は少ない。

 不作はあれども飢饉というのもそんなに聞かないし、この世界の大地の精霊様は気前よく慈悲深いのかもしれない。


『たくさん信仰してくれてもいいんだよ』


 利益を実際にくれる神さま精霊さまなら俺だって熱心に信仰するさ。

 マネーを信仰するのと似たようなものだろう。


『こうしてハーベルとくっつけたし、キミにとっても霊験あらたかだね』


 ……反応に困ること言わないで欲しい。


 さて。

 そんな感じで霊気をほぼ全て持っていかれながら発動したゴーレムクリエーションだが、結果として小指ほどの大きさの非常に小さいゴーレムが出来上がった。

 ゴーレムというよりは砂でできた小さいクラゲっぽいが。


「なんだか可愛らしいですね」


 ハーベルが指先でゴーレムをつつくと、ちびゴーレムはじゃれるように指先にまとわりつく。


「ふふっ」


『何の命令もないと霊気を注いだ者に近い行動を取るように出来てるよ。普通は『集合魔法』で、色々な人間の霊気が混ざってるから暴走しがちだね』


 つまり、今のちびゴーレムは俺に近い行動を取っていると。

 ハーベルの指にすりすりと身をよせるのが俺に近い行動だってことか?


『ちびゴーレム、ハーベルから離れて俺のところに来い』


 ちびゴーレムは呼び出したら、不器用ながらも必死な様子で俺に向かってのろのろ前進してくる。


 なんだか健気な様子である。

 可愛いじゃないか。

 強い言葉で命令して悪かったよ。


 手の上にちびゴーレムをのせる。


 こいつの持続時間はどうなっているのだろうか。


『壊されない限りはほぼ永続だね。大地から動力源を得てるんだ』


 すごい高性能だな。

 テトラくんちゃんの加護を取り込み中で、生命力が爆発的に増加している俺の霊気が空になっただけのことはある。


 しかし、非効率な詠唱のままとはいえども、この霊気の消費量でこのちびゴーレムではビジネスも魔物狩りと不可能だろう。


 俺のゴーレムから始まるチート生活はまだ遠い話になりそうだ。


『君は既にチートなんじゃない?』


 そのチートは現在のところ、どこかの大地の精霊のせいで機能してないけどね。大爆発はいつ終わるのか。


 リスタート地点は重魔ブルートのところからだから、最近は爆発直前にエネルギーの塊を放出して、無差別破壊兵器のような所業をしている。

 おかげで昨日も経験値で位階が上がった。


 重魔ブルートを倒して一気に10レベル上がっていた頃が不思議なくらい上らなくなってきた。

 ゲーム的に表現するならば荒地はもう適切な狩場じゃないのだろう。


 しかし、大樹海の荒地以上に敵が強い場所なんてあるのだろうか。

 無ければ困るが、あってもそれはそれで恐ろしい。

 この世界で人間が絶滅していないのが不思議である。


『また話がずれたね』


 悪い癖だ。


 とにかくビジネスになって、レベル上げもできるゴーレムを作ることが当面の目標である。


 ちなみに、ちびゴーレムはハーベルが引き取ってくれるらしい。

 なんだか愛嬌があって処分するのも忍びなかったため、渡りに船である。


 ゴーレムの命令権を譲渡しようとしたが固辞されたため、ハーベルを代理人にした。

 まあ、ちびゴーレムに「俺の命令だと思ってハーベルの命令を聞くんだぞ」と指示しただけだが。


『代理人仲間じゃん』


 なんだそりゃ。


 とにかく、こうしてゴーレム計画が始動したのであった。


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