殺戮と滅亡 91~ファルの腕・床下の井戸
ファルが立っていた屋根。
その小さな博物館のような家。元々はこの湿地に移動して来た時、ムルの家として建てた物。
しかし、ファルがこの地を統治すると、ムルは法官として宮殿に招かれ、その一室をあてがわれた。
空いたこの家は、この部族の入り口。
カザマンスに元の部族が戻り、平和が訪れる事を願った彼らは、ここを客室としジョラやマンディンカ族の案内所として造り上げた物だった。
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グイグイと宮殿側に押し戻されるオランダ軍。
しかし、後ろからは、コリ達の矢。
そして木に登ったブラルとバズは、その枝の木陰から矢を放った。
片腕のファルは矢を使えず、右手で慣れない銃を撃った。
しかし、その弾はすべて地に穴を開けるだけ。経験のない腕に響く銃の圧力の振動。
それは、失ったまだ傷の癒えない反対側の左肩にまで痛みの衝撃をもたらした。
腕が上がらなかったのだ。
「ファル様!もう銃はお止め下さい!私達でなんとか致します!ご指示だけで充分でございます!」
そう言ったのはサバ。
ファルは後ろに下がるとバラフォンを背に座った。
振動の無くなった方に、連れて来たパタスがチョコンと乗った。
サバがファルのおでこに手をやると、サッと手を引いた。
(熱い。破傷風、、、?)
「ダラ!ファル王様を頼む! 高熱だ!」
「えっ!?」
「ここからは私が指示を出すが、どこかに水はないか?! 先にファル様に飲ませないと大変な事になる!」
「しかしここに居る部族の者、知っておる者は、、」
と、横にいた千里眼が
「俺がいるじゃん!俺に聞けよ!この床下に井戸がある!水は汲める! 行って来る!」
「待て待て!千里眼!お前にはその目で敵を追ってもらわねば困る!」
「じゃ、やっぱり俺しかいないな。場所がこの床下とわかれば充分。行って参ります。」
ダラは銃と矢が飛び交う戦闘の裏手。
東の小窓からヒョイと飛び降りると、その床下に潜り込んだ。
「あった、あった。これだな。」
「そう!それだ!それを引っ張れ!」
千里眼は念の為、小窓から上半身を乗り出して床下を覗き込んでいた。
ダラは井戸の蔓縄を引っ張り上げようと背を伸ばした。
その瞬間。
パ~ン!
その伸ばした腹にオランダ軍の流れ弾が突き刺さった。
「うっ、、」
ダラの両手はポンと蔓から離れ、前屈みになると、そのままそこに蹲った。
「大丈夫かぁ~!おい!ダラ~!」
それを見ていた千里眼が助けに向かおうと、小窓に手を掛けた。
「ん?」
撃たれたダラは丸い井戸の縁に手を掛けると、ゆっくりと立ち上がった。
「あれ?今、お前。お腹に、、?」
「へへへ~。助かった。」
ヤッサ売りのダラはお腹のフライパンを取り出した。
「これのおかげ。」
ダラは再び蔓縄に手を伸ばした。