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殺戮と滅亡 77~パタスの香り

 子猿パタスが向かったのは西の森。

密集した木々の枝から枝へと飛び移ると、野生の暮らしを知らぬ子猿は人のにおいと甘い香りに誘われた。


 高い木の上から見下ろすと、そのにおいの軍勢の生暖かい息を感じたのかスルリスルリとまた頭を下に器用に降りた。


  闇にうごめくオランダ軍だ。


「おい!なんだ!この猿!捕まえろ!」

「食べちまおうぜ!」

「腹が空いてかなわんわ!」


 人に慣れ過ぎたパタスは、オランダ兵に追われる事を遊びのように思ったのか、木に登っては降り草むらに入り込んではまた現れ、あざ笑うかの様にもてあそんだ。


 切り株の上にチョコと止まると、そこからヒョイと一人の兵士の懐に飛び込んだ。

眠っていた兵。ヴィンセントだ。


兵達はそこに忍び込まれてはと、追うのを止めた。


「手を出したら、ヴィンセントを起こすことになる。」

「そのまま放って置こう。ヘタすりゃ猿がヴィンセントの顔を引っ搔いて、我々が引っ叩かれる。」



 パタスはしばらくそこに身構えたが、あまりの脇の香水の匂いに嫌気が差したのか、兵の気づかぬ内、また草むらを西の林へと跳ねていった。


 

ーーーーーーーーーーーー


 チョコン


「うあ~!」

 

 『なんだ?どうした?千里眼。』


「私の頭の上、、何かいますぅ? 動いてますぅ?」


カザマンスのファル軍達であった。


 灯りの薄い密林はその頭の上のものを明確にしなかった。


ファルが近寄った。


 『ハハッ!大丈夫だ!子猿だ、子猿!」』


「あ~、蜷局とぐろを巻いた蛇が木の上から落ちて来たかと、、」


 『ん?なんだ?逃げないな、、、千里眼ちょっとかがんでみろ。』

ファルはかがんだ千里眼の頭に右肩を寄せた。


すると子猿は、ファルの肩に飛び移った。


 『人に慣れているようだな、、、』


千里眼は頭の上で見えなかった子猿をまじまじと見た。

「ファル様。慣れているはずでございます。これはギザのチビが飼っているパタスですよ。」


 『なぜわかる?』

「ほれ、この猿の眼の下の傷。ギザが持って来た時の、、木から落ちた時の深い傷跡。」

 『えっ、傷などあったか?』

「あ・り・ま・し・た。この千里眼、とくとこの目で見ております。」


 『しかし、なぜこんなところまで。ギザの家からも出た事がないであろう? それにぃ、、』


「それに?」


 『くさいのだ。』

「糞でも垂らしよりましたか?」


 『いや、嗅いだ事のない甘くてくさにおい。』


そこに数人のマンディンカ駐留フランス兵が近寄った。

ジルベールの命令でカジュを採りに向かったが、サバやバブエ達と行動を共にした兵達だ。


 クンクン

 「猿のにおいじゃない。」


クンクン

 フランス兵が言った。

「あれ、この匂い。ジルベールがつけている香水の匂いと一緒だ。なんだっけ香水の名前?」

「名前は知らぬが、ルネ・ラリックの瓶に入ったやつだ。バラの匂い。」

「高い香水だぞ。」

「オランダ兵。しかも偉い奴だ。」


 『フランスのジルベールがつけていて、オランダ兵もつけているとは?』

ファルが聞いた。

 サバが通訳に入った。


「ヨーロッパ中の貴族や、軍の上の者達で流行っているんだ。」

「それに我々もだが、安い香水なら末端の兵まで持っている。」


 

 『しかし、ここまでにおいがみ込んでいるという事は?』


「どこか近くで野営をしているか、止まっている?」

サバが言った。


 『そうだ、、、まだ何も事は起きてないな。事が起きていればパタスもオランダ兵達と一緒にはおれぬはず。』

「なるほど。」

 『それでなければここまでの強いにおい。このすばしっこいパタスにみ込むわけはない。』



「ではなぜここに、この猿が?」

サバが言った。

 

 『この香水とやらのにおい。ニジェ達は察知したのかも知れん。さっきからの強い西風。』


「強かった。」


 『きっとギザのことだ。宮殿か家からか、、逃がしたのだ、、』







 

 



※ルネ・ラリック

アールヌーボーのガラス細工職人。香水瓶なども多く手がけた。


におい=フランス兵(彼らにとっては良い匂い)

 におい=部族にとっての香水の(嫌な臭い)

という事で書き分けてあります。

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