殺戮と滅亡 49~マンサとカロ
「マンサ様。ハラ殿。お二人とも何をモタモタしているのです。ファル様は到に先。どんどん離されますよ。ましてやオランダ軍なぞはその先の先。」
「いいんだよ。カロさん。多い敵と戦う時は固まって行ってもダメさ。敢えて離れてな。」
「離れる?どういう事です?マンサ様。」
「ああ、塊りが二つあれば、相手の判断も迷う。一瞬でも時間を要するのだ。それは相手が人間で無くても同じさ。」
「?」
「獣が獲物を襲う時、獲物の群れが二つに分かれておったら?」
「どっちに行くべきか迷う、、」
「一方の獲物の群れに向かえば?」
「一方の群れが助っ人に向かって来る。」
「そうなれば挟み撃ちや左右からの攻撃も出来るのだ。前だけを見ていれば状況の判断がつく。こちらに逃げて来る者がどちらなのか、逃げる者がなければファル様達がまだ追随しているという事。」
「いっぺんにやられてしまったら逃げて来ないのでは?逃げられないのでは?」
「この密林の道なき道に350だぞ。どれだけの隊列になると思う?前列と後列には距離を要するのだ。それはオランダも同じ。必ず逃げる者はいる。」
「オランダはきっと、もっといる。道さえ間違わなければ。」
「こっちには、ハラとガーラがいる。道には迷わん。」
「なるほど。」
マンサは続けた。
「ファル様達の足音が聞こえない距離がいいのだ。
聞こえたらまた離れる。聞こえなくなったらまた進む。」
「オランダの足音かも知れませんよ。」
「カロさん。裸足と軍靴の足音は区別出来るであろ?」
「まあ、それは。」
「歩む音なのか、走っている足音なのか。風を切る音なのか、風の無い音なのか。」
「でも俺にはなかなか判断がつかぬ。」
「判断がつかないなら尚更だ。後ろの兵を見てみろ。」
「ん?」
「無駄口を叩いているようでもな。さっきまで背中に背負っていた弓矢。すぐに射れる様、右手に持ち替えておるだろ? 話はしていても暗闇の密林を五感で感じているのだ。命を下さなくても皆準備しているのだ。」
「ほう。」
「暗い林に入れば、皆そうなるのだ。相手が人間だろうと獣だろうと同じ。常に警戒する心構えは自然と身に付いておる。都会育ちのカロさんにはわからぬだろうがな。」
「凄い。」
「というわけでな。手ぶらなカロさんが一番警戒してないって事になるんだよ。」
「あっ、そっか。」
「銃を持っておるんだろ?」
「あっ、そうだ。パルマランの兵からせしめたやつ。」
「だったら、すぐに引鉄を引けるよう右手に持って参れ!」
「えっと、左利きなのですが、、」
「では左ぃ~!」
「フライパンもお腹に括りつけてございます。」
「防弾って奴かい?」
「いえ、いつでもヤッサを作れる様に。」