殺戮と滅亡 27~うつ伏せのオランダ兵・仰向けのフランス兵
『何が起きたというのだ。』
ファルは驚きの声を朴訥に変えて言った。
宮殿から見下ろした眼下。
崩れ去った石の城壁。なぎ倒された木々。紅色にまみれた泥。
至る所、軍服姿のフランス兵とオランダ兵がドミノ倒しさながら、仰向け、うつ伏せと泥や側溝に浸かっていた。
そのほとんどが、数で圧倒していたオランダ兵であった。
「なぜ、オランダ兵まで? オランダ軍はおるだけでも勝てたのではないか?この遺体の群れ、ジルベールが言っておった通り1万はいる。」
ガーラがひとり言のように、淡々としゃべった。
目に焼き付けたくない光景であった。
『変わっていないのは空の色だけだ。』
「ファル様。わたし、下に降りてみます!」
『ハラ!ちょっと待て!』
「えっ?」
『どうもおかしい。皆武器を持っておったはず。撃ち合いになったとしても、こうも見事に互いに倒れるものか?』
「というと?」
『これはもしかすると。』
「ファル様、何かお分かりに?」
『この凄まじかった豪雨。オレ達がカザマンスの川の水路に残して来た筏。』
「あっ!もしや水門を突破して?!」
『このマンディンカ一帯に流れ込んだのではないか?』
ファルがそう言うと、ガーラが腕を組み直して言った。
「大いに有りうる。触れただけでも死を招く猛毒アコカンテラ。有りうる。」
「あっぶねー!」
ハラは下りかけた物見の通路の階段を、後ろ向きのまま、また上がった。
『そうだ!!気をつけねばならぬのはここではない!マンサ達75がおる畔だ!地底湖の!流れて来るかもしれぬ!早く報せてハラ軍の方に移動させろ!さすれば流れは地底湖で止まるはず!急げ!』
ハラとアランはバタバタとアクラの部屋に戻り、開いたままの床からマンサに声を掛けた。
「マンサ様~!マンサ様~!お急ぎください~!毒が!毒が漏れ出してくるかもしれません!カザマンス川の方からです!急ぎ、わたしの軍の方へお移りくださ~い!!早く!泳いで!泳いで!」
「何を言っておる?ハラ。もうとっくにンバイ様とマリマ様と会っておるよ。」
「えっ?」
ハラとアランはその場にガクと腰を下ろした。
ふ~。
「ところで、ハラ~!そんなに大きな声を出して大丈夫なのかい? フランス軍は?オランダ軍は?誰も生きてはおらぬのであろう?」
「えっ、マンサ様!なぜお分かりに?」
「この戦闘で、物音が全くしないとはそういう事だ。」
「はあ、まあ、、」
「だから、急いでな。 ハラ!お前の方の部隊に移動したんだよ!」
「どういう事?」
「このジルベールのおっさんの言う、オランダ軍1万が本当なら、、それが静まり返ったなら」
「なら?」
「毒しかないであろう? 私達が持って来た大量のアコカンテラしか!」
「マンサ様。誰よりも頭脳明晰。」