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異世界マップ  作者: 碧衣 奈美
第十三話 海の森

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地図の完成度

「また巻き貝か……」

 ラディがうんざりした声を出した。

 これまでに何度も排除した、サソリもどきが隠れている巻き貝が多数点在するエリアがまた現れたのだ。

 これまで爆裂で排除してきたのだが、そろそろ爆発を起こす力も限界に近付いてきた。いつもに比べ、魔法を使う回数が多いような気がする。魔力が底を尽き、完全に魔法が使えなくなってしまうのも時間の問題だ。

「ジェイ、まだかけらがある場所は遠いのか?」

「いや、気配から考えてこの辺りだ」

「まさか魔物の殻の中にある、なんてことはないわよね?」

「食えない物を持ち歩く趣味がなければいいけどさ」

 ここでコレクターみたいな魔物はいてほしくない。あるとすれば、低木の枝の部分にこっそり引っ掛かっている、くらいだろうか。他にありそうな場所は見当たらない。

 獲物が近付いて来たことがわかったのか、巻き貝の殻に隠れた魔物がずずっと動く。このまま放っておけばどんどん近付いて来て、やがては一斉に飛びかかって襲って来るのだ。

 パターンがわかっているのに、じっと待つ理由はない。

 ラディ達は巻き貝がある周辺で次々に爆裂を起こした。巻き貝が吹っ飛び、その中に隠れていた魔物も飛ばされる。

「お、みっけ」

「……え?」

 次々に魔物が飛ばされる中、ジェイがそちらへふわふわと移動する。たぶん何の影響もないだろうが、ジェイが巻き込まれては大変なのでラディとレリーナは呪文を唱えるのをやめた。

「ジェイ、みっけって、もしかして……」

「おう。砂の中にあったみたいだ。今の爆裂で飛び出して来たんだな」

「ええっ? 砂の中って……まぁ、それもありか。だけど、かけらが割れたりしてないのか。ただでさえ小さなかけらが、粉々に砕けてたりとかは」

「そんなヤワじゃないから、心配するなって。ほら、これ」

 ジェイがかけらを見せながら、こちらへ戻って来る。

 少し厚みのある石版の一部のようなもの。ばらばらになってカロックのあちこちに散らばっているかけらだが、ほらと言われて見せられても困る。見た目はだいたい見慣れているものの、形はいつも違うのだ。きれいな丸や四角なら無事だと確認できるが、元々不定形な物を「ほら」と見せられて無事だと言われても、安心できない。

「それ? 捜してたの、それ?」

 初めてかけらを見た魔獣は、みんなキュラナと似たような反応を示す。確かにさんざん魔物と戦った後に、見付けた物が小さな石のかけらのような物では拍子抜けだろう。来る前にもおおよその話はしてあるはずだが、話に聞くのと実際に見るのとでは違う。至って普通の反応である。

「そう、これ。よし、これ以上進む必要はないから、戻ろうぜ」

「え、戻るってどこに……」

 ラディ達にすれば、戻ると言われれば自分の世界のことになるが、まだいつものように復元の魔法を使ってないから戻るには早い。

「いつもなら、かけらを地図に戻してラディとレリーナは帰るって段取りだけどさ。ここはカロックの中でも微妙な位置にあるから、いつもの扉は出せないんだ。それに、こんな場所でゆっくり復元なんてやってられないだろ」

 爆裂で吹っ飛ばされなかった魔物は、仲間の状態を見ても我関せずなのか、じわじわと獲物を狙って今も移動していた。こんな場所では確かに復元などやっていられない。

「海の森を出ようぜ。キュラナ、もう一仕事頼むなー」

「ここを出られるなら、一仕事くらい軽いわ。さ、早く乗りなさい」

 キュラナにせかされ、二人は急いで彼女の背に乗った。

 キュラナの脚が地面を蹴る瞬間、魔物巻き貝達が飛び跳ねて襲いかかろうとしたが、それより早く一行の姿は森の木のはるか上にあった。

「ここへ入って来た時の光がある場所、キュラナはわかるのか?」

 この海の森へ来る時は、海に現れた光の中へ飛び込んだ。そこからずいぶん歩き回ったり、風に流されたりして移動している。ラディもレリーナも、この森の入口となる場所がどこにあるのかさっぱりわからない。

「帰る時はどこからでも帰れるのよ。とにかく上を目指せば、海から出られるわ」

「海の中を自由に移動して、帰りたい時はそこから海の外へ出るだけってことか。帰りは割と楽なんだな」

「だけど、帰れなくなる奴もいるんだ。返り討ちにあってな。来る時に話しただろ」

「あの鮫やクジラに食べられたりするのね。鮫は大きくて牙もすごかったけど、あたしとしてはあの人魚の姿が何だか一番ショックだったわ」

 色んなタイプがいるとジェイに言われても、これまでのイメージがすっかり崩れてしまった。人間の勝手な思い込みだから、ショックだと言われても知るもんかと言われそうなものだが、がっかり感は否めない。

「新月であの光の道ができる時以外、この森はどうなってるんだ?」

「さぁ。オレも来たことがないからな。聞いた話では、普通の海みたいになってるらしいけど、実際はどうなんだか」

 海の水があってもなくても、あの様子は変わらないということだろうか。だとしたら、常にあの木はゆらゆらと揺らぎ、魚達は空中も水中も泳ぎ続けるということ。カロックの中でも、本当に変わった場所のようだ。

 キュラナはひたすら上を目指し、やがて頬に受ける風が変わった。森を出て、本来のカロックに戻ったのだ。

 ラディとレリーナが驚いたのは、空が明るくなっていること。行く時は夜だったが、時間が経って夜が明けたのだ。

「そんなに長くいたんだ……」

「よく歩いたし、巻き貝に行く手を阻まれたもんねぇ」

 いつもなら何となくでも時間の経過がわかるのだが、今回はずっと薄暗い中を歩いていたせいか、感覚が妙な具合だ。

「キュラナ、とりあえずあそこに見える島に降りてくれ」

「わかったわ」

 見渡す限りの大海原。青い海がどこまでも広がる中で、ぽつんと緑の島が見えた。はるか彼方に大陸らしい影が見えるが、着地できそうな場所で一番近いのがその島だ。

 キュラナはその島へ向かい、見たところ安全そうな砂浜に降りた。白い砂に、打ち寄せる波。砂浜から島の中央へ向かえば、緑の葉を青々と茂らせた木々が立ち並ぶ森。

 足を取られて少し歩きにくい砂に、ぺらぺらではない木を見て、本当にあの森を出たんだなぁ、としみじみ思う。

「ラディ、これな」

「ああ」

 ジェイが持っていたかけらをラディに渡す。受け取ったラディは制服の袖に同化させていた地図を取り出し、復元の呪文を唱えた。厚みのあったかけらはどんどん薄くなり、ラディの持つ地図と同化する。

「あ……角だったのね」

 かけらだった部分と元あった地図の境目はすぐにわからなくなった。だが、今見付けた部分のかけらがどこだったか、それははっきりとわかる。

 最後の角部分だ。まだ全てがつながった訳ではないが、これで完全に地図の大きさは確定した。たぶん、次のかけらで端部分は全て揃うだろう。その後は中央部が徐々に埋まってゆく、という寸法だ。

「よーし、今回も無事に終了。みんな、ありがとな」

「こういうきっかけでもないと、海の森なんて行かないものね。途中で少し飽きちゃったけど、それなりに面白かったわ」

 あの強い風の中ではあおられないようにとまとめられていた九本の尾は、今では最初に会った時と同じく扇のように広げられていた。夜の中では美しかったが、朝日を受けた尾も別の美しさがある。

「あの森って、新月の間は水がなかったけど海の中の一部みたいな所なんでしょ。魔物がいなければ、もう少し色んな場所を見てみたい気はするけど」

 海の中を歩けるなんて、そうそうできない体験だ。

「そうだよなぁ。本物の海とはもちろん違うけど、ああいう所って行く機会がないし」

 どこまで普通の海との違いがあるか、それは知りようもない。でも、海の中で潮ではなく、風に流されるのはなかなか経験できない。

「同じ場所にかけらが二つあるってことはないから、海の森は今回が最初で最後だ。どうしてもって言うなら、次の新月も夜に呼んでやるけど」

「いや、今回は魔物以外にも危ない奴がたくさんいたから、わざわざそんなことしなくていいって」

 魔物でなくても、もうクジラや鯨には会いたくない。もちろん、あの人魚にも。

 それに、本来の目的地へ向かう時でも魔物は現れるはずだから、今度こそ魔力が尽きてしまう。

「さっきまで身体がわずかに軽かったせいか、今はすごく重いように感じるな」

 キュラナから降りた途端、ラディとレリーナはその重さが身に染みた。今感じているのが本来の重さのはずなのに、自分の身体ではないような気がする。

「はは、すぐ元に戻るよ。たまにあの感覚が合わなくて気分が悪くなる奴がいたりするらしいんだけど、二人が何ともなくて助かった」

「そんな状態になってる暇なんてなかったからな。ジェイ、まだ輪郭部分だけなんだけど、この地図もそろそろ半分くらいになってる?」

「んー、そうだなぁ。いい感じになってると思うぞ」

 抽象的な言い方だが、確かにいい感じにはなっているように思える。

「だけど、まだ数回はかかりそうだ。お付き合い、よろしく」

「ああ。こちらこそ」

 ラディの勝手な都合だが、ブラッシュにカロックの話をしなければならないので、まだ終わってもらっては困る部分がある。

 砂浜に扉が現れた。ラディとレリーナが戻るための扉だ。

 風に飛ばされた時に助けてもらった礼を改めてキュラナに言い、ラディ達はそれぞれの扉を開けて自分達の世界へ戻った。

 現地では絶対にいつもより時間がかかっているはずだが、時計を見るといつもと変わらない時間しか経っていない。それならそれで、ありがたかった。

 やっぱり重いなー。

 わずかでも身体が軽くなった状態に慣れてしまうと、本来の重さが嘘のように重く感じる。それは本来の重みだけでなく、疲労感からくる重さも入っているのかも知れない。

 今日はいつもより魔力を使い続けていたから、今から何か起きて魔法で対処しろと言われてもきっと無理だ。

 ラディはそのままベッドへ横たわる。

 本当に……かなりそれらしくなってきたよな、この地図。

 袖に同化させていた地図を、ラディは改めて広げてみた。魔法書のページとほとんど変わらない大きさの紙。ヴィグランの部屋でこれを見付けた時、ひらひらと落ちたので確認はちゃんとできないが、これくらいのサイズで間違いなかったように思う。

 やはり五割くらいは戻っているだろうか。ジェイに呼ばれるままカロックへ行っていたラディだったが、回数としてはそろそろ折り返しているようだ。

 この地図が完成したら、カロックには行けなくなるんだよな。つまり、ジェイにも会えなくなる。その頃には……もっと強くなれてるのかな、俺。

 急に睡魔が襲ってきた。身体ではなく、まぶたが重くなる。とても抗えない。

 地図が完成する前に……ブラッシュに話を……早く……。

 考えようとしたが努力空しく、ラディは眠りの底へと沈んで行った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます! 訳あって昨夜読めなかった分、二日分をまとめて読ませていただきました。 昔一度海外で経験したシュノーケリングでクジラを間近で見たことがあったんですが、その時の事…
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