レリーナの存在
ラディは大声でレリーナの名前を呼びながら、周囲を探し回った。
ミューネにレリーナがいないことを告げられ、さっきの砂嵐で巻き上げられた砂に埋もれたのかも知れないと思ったのだ。
「ラディ、呼んでもダメだ。レリーナの気配がまるっきりない」
「気配がないって……どういうことだよ。さっきまでレリーナは近くにいたんだぞ」
ジェイに当たっても仕方ないとわかっているが、つい口調が荒くなる。自分もレリーナの前から消える格好になったことはあるが、少なくとも彼女の目の前だった。消える方向が見える状態だったから、そちらへ向かって追いかければいい。
しかし、今は気が付いた時にはいなくなっている。どの方向かもさっぱりだ。砂嵐に巻き上げられたとして、どちらへ飛ばされたのか。だいたい、いつ飛ばされたのだろう。悲鳴すらも聞こえなかった。ジェイに土の魔法を指示された時はお互い大声だったが、レリーナの声はあの中でかき消されたのか。
「連絡用に水晶を持ってるだろ。それで方向がわかるはずだ」
「あ、ああ」
言われてすぐ、ラディはポケットから水晶を取り出して呪文を唱える。だが、レリーナからの反応はなかった。
「応えろ。応えてくれよ、レリーナ」
祈るようにラディは水晶玉を握りしめる。しかし、祈りは届かない。
ケガをしてるのか。単に意識がないだけだよな。ちょっと気絶してるとか、それくらいだろ。水晶からの気配に気付いて、目を覚ましてくれよ。
「ラディ」
ジェイに呼ばれ、ラディはびくっとしたように顔を上げた。
「レリーナの水晶が落ちてる」
「なっ……」
ジェイがいる方にラディは走った。砂に足を取られ、半分転ぶようにしてたどり着くと、確かに小さな水晶玉が落ちている。ラディと同じ物だ。ラディが同じ物を二つ買い、一つをレリーナに渡したのだから当然同じ水晶。
ジェイがラディの水晶から出る波動を追うと、すぐにそこで止まったのだ。レリーナの水晶玉に間違いない。
「水晶だけ? レリーナは……」
「あの子だけ飛ばされたみたいね」
「飛ばされた? 飛ばされたって、どこにだよっ」
「私に聞かれても、わかんないわ」
ミューネは正直に答える。
「落ち着け、ラディ」
「落ち着いていられるか。あの砂嵐はこの周辺にだけ起きてたんじゃないのか。飛ばされるにしても、それなら近くにいるはずだろ」
砂トカゲが起こした砂嵐は、獲物であるラディ達の視界を遮って外から攻撃を加えるためのものだったはず。どこかへ吹き飛ばすのが目的ではなかった。だから、砂や風の力はラディ達がいた周辺に集中していたはずなのだ。
「遠くへ飛ばされることもあるんだ」
「どういう……ことだよ」
「さっきみたいな魔物が使う魔法ってのは、結構強引なものが多いんだ。そのせいで色々と周囲に余計な障害が起きることも多い。今の場合、奴の力で空間に裂け目ができた」
ラディにはジェイの話がすぐには理解できない。
「空間に裂け目って……何」
「そのままだよ。何もない所に余計な入口ができるようなもんかな。本当は遠く離れてるのに、空間がねじれて近くに来たりする。オレが出す扉と似たようなもんだ。オレの場合は正当な力でこっちの空間とラディ達の空間をつなげて行き来できるようにしてある。今の場合だと、この周辺とどこか知らない場所が一瞬ねじれてつながった。この場にいないなら、レリーナはそこへ飛ばされたんだ」
「知らない場所って……レリーナはどこへ飛ばされたんだ」
「さぁ。今から調べる。……消えかけてるな。集中するから、黙ってろ」
ラディには、ジェイの言う空間の裂け目が見えない。だが、ジェイはレリーナの水晶玉が落ちた辺りの上の空間に手をかざし、そのままの格好で止まっている。捜索中、という状態のようだ。
レリーナ……くそ、俺には何もできないのか。何か方法はないのか。レリーナを探し出す方法は。
ジェイの姿を見詰める……と言うより、睨むようにしてラディはレリーナの救出方法を考えた。だが、何も浮かばない。行方不明の人間を探す方法なんて習っていないし、そんな魔法があるなんて噂でさえ聞いたことがなかった。正規の魔法使いは、こういった事例があったらどうするのだろう。
何一つ方法が見付からず、ラディが握りしめる拳は細かく震える。
「レリーナはあなたの恋人?」
ふいにミューネが声をかけ、ラディははっとしたように隣にいる魔獣を見る。
「いや、そんなじゃ……。幼なじみで……大事な友達だ」
「自分の子どもでもないのに、人間ってそんなに取り乱すものなの?」
親が子どもを見失って半狂乱になるのはわかる。子どもが生まれてすぐの頃、親はいつもより周囲を警戒して凶暴になるし、いなくなれば必死に探すのは自然なことだ。
だが、レリーナはラディの子どもではないし、それならどうしてこんなに慌てるのかがミューネにはわからない。彼女だって魔法使いなのだし、一人で歩けないような子どもではないのに。あとは二人の見た目から考えるとすれば、恋人くらいだ。
もっとも、それだってミューネにはちょっと理解に苦しむ部分がある。この世界で生きて行くには強くなければならないし、恋した相手でもその力がないのなら見放すのが普通だ。生き抜く力のない者の子孫は必要ないから。
ミューネに尋ねられ、ラディは力を込めていた拳をそっと開いて見た。手の平に爪の跡が赤くにじんでいる。
「レリーナは俺より魔力が弱いんだ」
「うん、それは知ってるわ」
トカゲを相手にしていた時の魔法の力は、明らかにラディより劣っていた。言われるまでもなく、ミューネには感じ取れている。
「さっきの奴らより質の悪い魔物が出たら、レリーナはまだ自分を守りきれない。それが心配なんだ。恋人だろうとなかろうと関係ない。魔獣同志の関係は俺にはわからないけど、人間は家族以外にも大事な存在がいるんだ」
「ふぅん。まぁ、今のラディを見ていればわかるわね」
ミューネがラディの立場なら。レリーナの責任ではないにしても、別の場所に飛ばされたのは彼女の運の悪さだ。友達であっても、それが彼女の運命であれば仕方がない。そう考えるだろう。
しかし、人間はそうではないらしい。仕方ないでは済まさず、心配し、必死になって探し出そうとする。面倒そうな気もするが……何となくいいような気もした。
「わかったぞ」
ジェイの声に、ラディがはっとなる。
「どこなんだ? 近くか」
「いや、残念ながら遠いな。ディバンの森だ」
「えー、そんな所まで飛ばされてるの?」
ミューネはわかるらしいが、カロックの地形を知らないラディにはどれだけの距離があるのか見当もつかない。
「これが裂け目の面倒なところだ。とんでもなく遠い所につながることがあるからなぁ。この裂け目を通り抜ければ同じ場所に出られるんだけど」
「え、そうなのか? だったら、最初からそこへ入っていれば、レリーナのいる場所に行けたんじゃないか」
「そうしたいところだけどな。出た先が火の山や水の中だったら、それだけで死んじまうだろ。オレはそう簡単にくたばったりしないけどさ」
この辺りが自分でもいやになる、ラディの浅はかさだ。いきあたりばったりで行けばいいというものではない。
「でも、今は森なんだろ? 飛び込むリスクが高い場所なのか?」
「特にこれといった特徴のない森だけどさ。裂け目そのものがもう閉じかけてる。飛び込んだはいいけど、向こう側が閉じて出られなかったら最悪だぞ。異空間に永遠に閉じ込められることになっちまう」
「う……それは困るな」
「閉じかけてないにしても、やっぱり飛び込むのは危険だ。だいたいが不安定な力だからな。また空間がねじれて別の場所へつながるってこともありうる。ここは手間でも自力で向かうしかないんだ」
ラディにはその裂け目というのがちゃんと見えていない。だが、とにかく危険極まりないしろものだということだ。はずみでできたものだから、安易に使わない方がいい。
「行くぞ。ミューネ、頼む」
「ここからディバンの森まで? 遠いわねぇ」
「そう言わずに飛んでくれよ」
「ミューネ、全速力で頼む!」
ジェイとミューネの会話をぼんやり聞いていたラディだが、ふと我に返るとミューネの背中に飛び乗った。
場所がわかっただけで、レリーナの無事を確認した訳ではない。特徴のない森であっても、魔物や獣はいるはず。それらが素通りしてくれる保証はどこにもないのだ。
「今日はずいぶん遠出だわ」
そう言いながら、ミューネは背中の翼を大きくはためかせた。
☆☆☆
一人でシュマの背中に乗るのは、これで二度目だ。一度目はラディが魔物に血を吸われてダウンし、回復させる実を探しに行った時だった。ジェイはラディについていたので、本当にレリーナ一人。
シュマはあくまでもラディが呼び出した魔獣であり、そのラディがいない状態でシュマが言うことを聞いてくれるのかがレリーナはひどく不安だった。しかし、大竜の試練に協力する、ということで力を貸してくれていたので、レリーナ一人でも問題はない。それを聞き、少し口調がぶっきらぼうなところもあるがラディを心配しているらしいこともわかって嬉しかった。
今もこうしてレリーナは背中に乗り、シュマは砂漠へ向かってくれている。とてもありがたいし、嬉しい。だが、同時に調子に乗ってはいけない、と自戒もする。これはシュマの厚意だ。レリーナに何か彼を抑えつける力があって言うことを聞いているのではない。その辺りを間違えれば、手痛いしっぺ返しを食らうだろう。言葉は通じても、相手は野生の獣なのだから。
「シュマはディバンの森に棲んでいるの?」
ディバンの森を出て、今は湖の上空を飛んでいる。かなり大きな湖だ。
「定住はしていない。あちこちにある縄張の一つだ」
「そうなの。いくつもある縄張の中で、シュマがあそこにいてくれて本当に助かったわ。いつあたしだってわかったの?」
「魔物達の気配と一緒に、レリーナの気配を感じた。最初は覚えのある気配だ、という程度でしかなかったがな」
その気配がすぐには人間のものだとわからなかった。変わった気配だ、と思ったくらいだ。しかし、カロックではあまり感じることのない気配に注意すると、自分の知っているものだと思い出す。同時に、なぜここにいるのかという疑問がわいた。レリーナ達が大竜の試練の協力者であることは知っているが、そこにある気配が自分の知る三つではなく一つしかないからだ。
もしかしたら、酷似した他者の気配だろうか。姿を見ない限り、シュマも確証は持てない。全然別の存在、もしかすると新手の魔物の仕業では、などとも疑った。
だから、一度吠えてみたのだ。よからぬことを考える魔物であれば驚く、もしくは恐れて何か反応を示すだろう。それでも変化がないようなら、自分の目で確認するまで。
吠えたことで、小物が一斉に撤退するのは見なくてもわかった。そして、残ったのは覚えのある気配が一つ。一つしかない、ということがやはり引っ掛かったが、ここまで来たら見極めなければ。
そして、木の影で震えるレリーナを見付けた。
「シュマが吠える声を聞いたことがなかったから、あの時は本当に怖かったわ」
「そうか。怖がらせたのなら、すまなかった。オレも絶対に魔物ではないと断定しきれなかったからな。魔物の中には、記憶を読んでその幻を見せる奴もいる。そういった力を持つ奴なら、罠に飛び込むようなものだからな」
「そんな魔物がいるの? 怖いわね」
「だが、余程の力を持たない限り、どこかでその幻もボロが出る。よく見極めれば、おかしな部分が見えてくるものだ」
「冷静に見なきゃいけないってことね」
今後もカロックに来る。その中で、そういった力を持つ魔物が現れる可能性は十分にあるだろう。ジェイがそうだと教えてくれればいいが、いつもそういう状況にあるとは限らないのだし、シュマの話はしっかり心にとどめておかなくてはならない。ラディにも話しておくべきだろう。
「でも、シュマが来てくれて本当に嬉しかったわ。何を言ってるんだって言われるかも知れないけど……あたし、シュマのことが大好きよ」
「……人間という生き物は、よくわからんな」
「え、そう? あたし、友達からものすごく単純だって言われるけど」
「オレ達が会うのはまだこれで二度目だぞ。にもかかわらず、あっさり大好きとよく言えるものだ」
「あ、気に障ったのなら、ごめんなさい」
「いや……別にそういう訳ではないが。もし、今ここでオレがレリーナを落としたとしても、同じことが言えるのか?」
真下は湖が広がっている。岸まではかなり遠い。もしここで落ちたとして……レリーナは泳げるが、広い湖の中心から岸まで泳ぎ切れるだろうか。それ以前に、湖に棲む魔物が現れて襲って来ることも。人間以外の生き物がたくさんいる世界だ、ありえる話である。
「落とされたら怖いし、悲しいわ。シュマのことをひどいって思うだろうけど……シュマがそんなことをするとは思ってないもん」
「……言い切っていいのか」
「だって、あたしの存在がわずらわしいなら、気配を感じた時に無視すればいい話でしょ。でも、こうして砂漠まで連れて行こうとしてくれてるじゃない」
縄張うんぬんなら、気配があろうがなかろうが見回りに来るだろう。そして、問題がなければ素通りするだけ。たとえそこにレリーナの姿を認めたとしても、今日は協力を要請されていないのだから無視すればいいこと。立ち去ってもレリーナにはわからない。
でも、シュマはレリーナ一人しかいないと気付き、魔物の仕業を危惧しながらも様子を見に来てくれた。そばに来てくれた。そんな彼が、今更レリーナを湖に落とすなんて考えられない。もし本当にやれば、シュマの性格は相当なもの。そして、それを見抜けず、バカ正直に魔獣を信用したレリーナにも責任がある。
「以前、シュマの青い瞳がとてもきれいって言ったでしょ。覚えてる?」
「……ああ。抱き締めたのと同じくらい、いきなりだったな」
心なしか、シュマの口調がさらにぶっきらぼうになる。もしかして……照れているのだろうか。
「人間はね、目は心の窓、なんて言ったりするのよ。目がきれいなら、心もきれいだってこと」
「それが魔獣にも当てはまるのか?」
「あたしはそう思ってるわ」
それに、ラディが呼び出した魔獣が底意地の悪い性格をしているとも思えない。呼び出される魔獣は、きっと術者の性格にも影響されているはずだ。真っ直ぐで優しい性格のラディが呼び出すのだから、魔獣達だってきっと同じだ。違うのは気持ちの表現方法だけ。
「やれやれ……そうまで言われては、落とすつもりでもできなくなるな」
「ふふ」
初めからそんな気ないくせに。
レリーナは笑いながら、そんなことを思うのだった。
やがて、湖を通り過ぎ、山を一つ越えて草原にさしかかる。
「……何か来る」
「え? もしかして魔物? あたしにはまだ何も見えないけど」
いつもそうだが、ジェイや魔獣達が見えると言うものが人間のレリーナ達には見えない。ぎりぎりになるまで視界に入って来ないのだ。これは生物的な能力の差のようだから対抗のしようがない。
「オレも少しあいまいだ。こっちが風上だから、においも嗅ぎ取れない」
前回カロックへ来た時、巨大な鳥の魔物が現れた。またあんなのが現れたのだろうか。あの時は地上から攻撃していたのでかなり不利な状況だったが、今は空の上。ここで無理に戦わなくても、シュマなら逃げることだって可能なはず。自分の力が十分に通じないとわかっている以上、レリーナはあまり戦いたくない。
「迂回した方がいいのかしら」
「かすかに同族のにおいがするな」
「それって、翼のある猫がこっちへ向かってるってこと? 仲間なら……あ、縄張争いになったりしたら困るわね」
同族と言っても、友好的とは限らない。こちらに戦闘意欲がなくても、相手が見逃してくれなければ戦わざるを得ない時もある。
「攻撃的な空気はないようだ」
「そうなの? じゃあ、どう動くかはシュマにまかせるわ」
恐らく、シュマは最短距離で砂漠へ着けるように飛んでいる。方向を変えないで済むのなら、このまま行ってもらいたい。
しばらく飛ぶと、ようやくレリーナにもシュマの言う影が何となくわかるようになってきた。まだ豆粒サイズだが。
「知ったにおいがあるぞ」
「やっぱりシュマの仲間なの?」
「いや、どちらかと言えばレリーナの仲間だ」
シュマの口調がわずかに笑みを含んでいる。
「ええっ、それってラディのこと?」
驚いたと同時に、遅ればせながら思い出した。今回、ラディが召喚したのはミューネ。彼女はシュマと同じく翼のある猫だ。同族のにおいがする、とシュマが言うのも当然。
「あちらが風下だ。ジェイもいるようだから、もうこちらに気付いているだろう」
シュマがそう言った直後、ラディがレリーナの名を呼ぶ声が聞こえた。
「ラディー!」
レリーナも出せるだけの大きな声で返事をする。手を振ると、向こうも手を振っているのがかろうじて見えた。
「下へ降りた方がよさそうだな」
シュマはそう言って、ゆっくり高度を下げた。向こうでも同じようにして草原へと降り立つ。シュマの背中から降りようとするレリーナの方へ、ミューネから飛び降りたラディが走った。
「レリーナ、無事かっ」
「うん、何ともないわ」
言いながらそちらへ歩きかけたレリーナのそばへ、ラディが駆け寄る。
「よかった……」
ラディはレリーナの前に来たと同時に、そのまま彼女を強く抱き締めた。驚いたレリーナは目を丸くする。
「いないってわかって、頭ン中が真っ白になった。よかった、無事で……」
最後の言葉は、吐息の混じったつぶやきのようだった。その声を聞いた途端、レリーナは訳もわからないまま涙が浮かんでくる。
「ごめんね、心配かけて」
「レリーナのせいじゃないんだ、謝らなくていい」
魔物の力で空間に亀裂が入った。その亀裂に巻き込まれて飛ばされた。そんな悪い偶然が重なっただけだ。そこにレリーナの意思はどこにもない。
「ここでシュマに会えるなんてなー。いい時に来てくれて、助かったよ」
「たまたまだ」
ラディはここに至って、レリーナが乗っていたのがシュマだったことに気付いた。飛んでいる時はジェイが「あいつにレリーナが乗ってる」と言われ、意識は完全にレリーナにのみ向けられていたのだ。
「ありがとう、シュマ。レリーナを助けてくれて、感謝するよ」
「知らない仲ではないからな」
どういう状況だったかはともかく、ああして飛んでいたということは、レリーナを砂漠へ運んでくれようとしていたのだ。シュマがいてくれたおかげで魔物に襲われる可能性は一気に減るし、運んでくれたおかげで早く会えた。感謝しきれない。
「知らない仲じゃないってことは、以前会ってるの?」
ここでは、ミューネだけが彼らの関係を知らない。
「一度な。ラディ、今回はずいぶん美猫を呼び出したんだな」
「あら、お上手。それにしても、レリーナを連れて来てもらって私も助かったわ。そうでなきゃ、ディバンの森まで行かなきゃいけないところだったんだもの」
「で、レリーナが見付かったら、またリィマ砂漠へ戻ることになる、か。今回はずいぶん厳しい行程だな」
位置で言えば、シュマとミューネは森と砂漠のちょうど中間辺りの場所で出会っている。ミューネにすれば、移動距離の半分を飛ばずに済んだのだ。
「そう言うなって。レリーナが飛ばされたのは、予期せぬアクシデントって奴なんだからさ。これがなきゃ、とっくに今回のかけらは見付かってたんだ」
「シュマが話してたけど、空間に裂け目ができてどうのって」
「あ、聞いた? レリーナはそいつに巻き込まれたんだ。オレがそこからたぐってレリーナの飛ばされた場所まではわかったんだけどさ。正直、森ですぐにレリーナを見付けられるかはわからなかったんだ。だから、向こうから飛んで来たってわかった時は驚いたよ」
ラディには言わない。だが、ジェイも実はかなりあせっていたのだ。レリーナのいる場所がわかっても、レリーナを見付けたというのとは別。彼女の姿を見ない限り、安心なんてできなかった。
「これでリィマ砂漠に戻れるな」
「あーあ、また来た道を戻るのね」
ジェイの言葉に、ミューネがだるそうな反応をする。いくらシュマのおかげで行程が半分になったとは言っても、距離はそれなりにある。人間に比べれば体力はあるものの、魔獣だって疲れない訳ではないのだ。
「ねぇ、シュマはどうするの?」
「オレ? 合流できたなら、もういいだろう」
「それはそうなんだけど」
ラディやジェイが迎えに来てくれた。現在地が砂漠でなくても、仲間と合流できたのだからシュマへの依頼はここで終わり。レリーナもわかっているが、何だか淋しい。
「……来たついでに砂漠まで足をのばしても構わない」
「ほんとっ?」
「長距離を移動するなら、彼女も軽い方がいいだろう」
魔獣にとって、人間は軽い。だが、長く飛び続けていれば、ほんのわずかではあっても負担がかかる。ラディとレリーナ、それぞれが別れて乗ればミューネの負担は軽減される訳だ。
「あら、そうしてもらった方が私も楽だわ。ねぇ、臨時協力者が増えたって構わないんでしょ?」
ミューネの口調は「もちろんいいわよね?」という含みがあった。
「おう。協力してくれるなら、大歓迎。それに、また面倒な魔物が現れた時に味方が増えていれば心強いもんな」
ジェイはもちろん、ラディにも反対する理由なんてどこにも見付からない。
ラディとジェイはミューネに、レリーナはシュマに乗って一行はリィマ砂漠へと向かった。





