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異世界マップ  作者: 碧衣 奈美
第三話 別の協力者

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確認

 次の日は土曜日。この日は午前の授業のみだ。

 次の日は休み。じっとしているのはやはり落ち着かないが、本調子に早く戻るにはそれなりの休息も必要とラディは自分に言い聞かせた。魔法書を読むなどして、リラックスを意識しながら休日をすごす。

 休み明けの授業では、ラオクに「調子が戻って来たようだな」と言われ、ラディはようやく安心した。カロックへ呼び出されるのは、新月か満月の日。しかし、こちらの世界とでは時間のズレが生じるとかで、はっきり言えばいつ呼び出されるかわからない。本調子でない時に行っても、どれだけのことができるのか。そんな不安があったので、休日の間ゆっくりしていたのは正解だった。

 この日の放課後は、大きな力を使わずに済む結界の練習にしておく。いきなり無理をして、また調子を狂わせては休んだ意味がなくなってしまうから大事を取って、というところだ。

 次の日になると、自分でも魔法を使うのが楽に思えた。週末がどれだけ不調だったか、今更ながらによくわかる。具合が悪くなくても、魔法を使うのにいいコンディションとそうでない時があるのだと勉強になった。

 よし、今日は攻撃魔法をしっかり復習するか。

 そう考えて、ラディはフィールドへ続く扉を開けた。安全のため、扉を開けるともう一つの扉があり、そこを開けるとフィールドへ出られるようになっている。いわゆる二重扉で、見習いが失敗した魔法の力が外へもれないようにするためだ。

「あ……れ?」

 ラディはもう一つの扉を開けようとして、その手が止まる。扉がいつもと違うのだ。ノブが下へ降ろして押し開くタイプのはずが、目の前にあるのは握って回すタイプ。それに、ここにあるのは黒っぽい茶色の扉ではなく、象牙色のはずなのだ。

 この茶色の扉、見た覚えがあるよなー。

 そう思いながら、ラディは軽くノックしてみた。

「よっ、ラディ」

「……やあ、ジェイ」

 思った通りだ。扉から生えるようにして、大竜のジェイが姿を現す。前回カロックへ通じる扉も、今目の前にあるのと同じ茶色だった。だから、前回とは違ってある程度予測ができたのだ。

「もうそっちへ行く日になったのか? えーと、この前は満月だったから、今日は新月だよな」

「おう。月は影も形もなくなった。よろしくなー」

 竜というのは荘厳なイメージがあるのだが、ジェイを見ているとそのイメージもあっさり崩される。フレンドリーなのはいいことなのだが、そのギャップに違和感あり。

「わかった。今、ロネールだからさ、また俺の部屋に扉を出してくれる? 余計な荷物を置いてから行くよ」

「そっか。わかった」

 軽い調子でそう言うと、ジェイと共に扉が消えた。目の前には見慣れた象牙色の扉が映る。本来の状態に戻った、ということだろう。ラディは踵を返すと今開けて入って来た扉をもう一度開け、急いで家に帰る。自分の部屋へ戻ると、必要のない荷物を机の上に置いた。

「えっと……今回もこれは持って行く方がいいよな」

 ラディの手の平にすっぽり入るサイズの水晶玉。レリーナにも同じ物を渡してある。

 もしカロックで離ればなれになった時、この水晶で連絡を取り合えば合流しやすくなるから、という理由でラディが用意した。もちろん、異世界で使わずに済めばそれに越したことはないのだが、前回は見事にその役目を果たしてくれたのだ。

 ラディだけが離れてしまい、連絡を取ることさえできなかったのだが、レリーナが連絡を取ろうと魔法を使い、その魔力の流れる先をジェイがたどってくれたおかげでラディは助かった。助けてくれたのはジェイ達だが、この水晶も一役買っている。また似たようなことが起きてほしくはないが、どんな魔物がいるかわからない異世界へ向かうのだから、用心しすぎることはない。

 水晶玉をポケットに入れ、大竜の試練で必要な地図も確認する。まだかけら四つ分の大きさでしかないカロックの地図。知らない人が見れば、いや、知っていても破れた紙の一部にしか見えない。

 毎日少しずつ、か。そうだよな。一気に元に戻るくらいなら、砕けたりしないよな。

 一枚の紙だったはずの地図は、ラディの手元からすり抜けて床に落ち、砕けた。どれだけの数のかけらになったのか、見る余裕もなかったので見当もつかない。でも、かけらの数だけカロックで何かしらの冒険ができるのだ。大竜の試練と名前はついているものの、ラディやレリーナも試練を受けているようなもの。その分、わずかずつでも実力はついているはずだ。

 気が付くと、さっきロネールで現れていた扉が、ラディの部屋に現れている。こちらの行動を全て見越したようなタイミングだ。

「よし、行くか」

 ラディは扉のノブを掴んだ。前回、押して開くタイプにしてくれとジェイに頼んだおかげか、ちゃんとその通りになっている。念押ししておいてよかった。

「あ、ラディも来たわね」

 扉を開くと、見覚えのある丘に出た。かけら探しの出発点となるムーツの丘だ。そこには、子猫くらいの大きさしかない大竜のジェイがいる。そして、共にかけら探しをする幼なじみのレリーナがすでに来ていた。

「レリーナ、もう来てたのか」

「うん。でも、まだ一分も経ってないわ」

「その辺りの細工は都合よくできてるんだ」

 ジェイが自慢げに胸をそらす。竜という存在は、魔力や存在感など、どれを取っても他の生物を抜きんでている。それはラディ達の世界に限らず、カロックでもそうだ。しかし、ジェイを見ていると、サイズのためかそのすごさが感じられず、子どもが自慢げにしているようにしか思えない。それでつい、くすっと笑いがもれてしまう。

 だが、案外それも大竜の計画のうちかも知れない。尊大だと、いくら地図が人選して協力者をカロックへ呼び寄せても、ちょっと魔力があるからって偉そうに、と非協力的になりかねないだろうから。

「なぁ、ジェイ。聞きたいことがあるんだけど」

「何だ? オレ、まだ何か言い忘れてることがあったかな」

「いや、それは知らないけどさ」

 今までのことを思い返せば、まだ何かしらあるような気はする。命に関わるようなことでなければもういい、とラディは思うようにしていた。

「カロックのことなんだけど、俺の世界で他の人に話しても大丈夫かな」

「いいんじゃない?」

 ジェイの答えは、ラディが拍子抜けする程にあっさりだ。もう少し「ん……それは……」とか何とか、言い渋られるかと思ったのに。

「即答だな」

「ラディとレリーナだって、じいちゃんに聞いたんだろ」

「うん、それはそうなんだけどさ。俺達はまだ子どもだったから、じいちゃんも話せたのかなって思って」

「あたし達は、おとぎ話だと思って聞いてたもんねぇ。ラディ、誰かに話したの?」

「してないけど……今後どんなきっかけで話すことになるかわからないだろ。で、話した相手が、竜がいるなら来てみたい、なんて言い出したらマズいのかなって」

「オレ達、隠れて生きてるんじゃないぞ。会いたいって言うなら会ってやるけどさ。そもそも、こっちへ来られるかな」

 またまたあっさりジェイに言われ、ラディもそう言えば、と思い出す。異世界へ来るために必要な魔力は計り知れない。どんなに腕のいい魔法使いでも、移動する魔法を使えば当分まともな魔法は使えなくなるだろう。ラディとレリーナが簡単に行き来できるのは、ジェイが異世界同志をつなぐ扉を出してくれているからにすぎない。

「俺達が通る扉って、俺達専用なのか?」

「ああ、協力者が通る、協力者のための扉だ」

 何でもないように通っているが、とても特殊な扉なのだ。……そんな特殊な扉を、内開き、外開き、横開きとタイプをころころ変えるジェイはどれだけの力があるのだろう。それとも、開き方を変える分には大した魔力は必要ないのだろうか。

「つまり、協力者じゃない人間が通るってのは無理ってことか」

「通れないことはないけど」

 ジェイの言葉に、また肩すかしを食らう。

「何だよ、それ。じゃ、自分の魔法を使って世界を移動する必要もなくて、俺が誰かと一緒にあの扉から来ても問題なし?」

「過去にそういうことがあったって、聞いたことないからなぁ。でも、一緒に来た奴にいい影響はあまり出ないと思うぞ。さすがに死ぬことはないだろうけど、割り込んで来たような形になるからな。疲れやすくなったりとか、そういうのがあるかも。あと、そいつが見習いじゃないなら、オレと一緒にいる時は魔法が制限されるだろうな」

「ジェイと同じようなことね。本当は魔法が使えるけど、試練の間はあまり使えないようになるって感じかしら」

「ん、そんなとこ。ラディ、連れて来たい奴でもいるのか?」

「そうじゃないよ。ただ、カロックに来たことで疑問に思ったことを質問したりするうちに、何かおかしなことでもやってるのかって言われたんだ。隠したままの方がいいのか、話してもいいのかって悩んじゃって」

 ブラッシュがいくら腕がいい魔法使いでも、異世界への移動は簡単ではない。扉から入れば、ラディと同レベルになってしまう。そんな状態で彼が困難な状況に直面した時、どういう対応をするか見てみたい気はするが……。

「言っちゃえば?」

「ええっ? ジェイ、そんな簡単に……」

 どうしてこの竜は大変そうなことをこうもさらっと言うのだろう。

「どんなリスクがあるかわからないけど、来たいなら来ればいいよ。そういうのって前例がないんだよな。少なくともオレは聞いたことがない。なかったものを作るのって面白そうじゃん」

「ジェイ、急に楽しそうな顔になってるわよ」

「だって、未知の世界みたいなもんだろ。どうなるのか、わくわくする。来るなって言うなら、最初からカロックのことは言うなって協力者に口止めしろって話になってるだろうしな。オレはそういうのを聞いたことはないから、こういうのもありだ」

 ジェイにしか聞けないことだから聞いたが、何となく相談相手を間違えたような気持ちになるのはなぜだろう。

「なぁなぁ、ラディ。今度、そいつを連れて来いよ」

「ちょっと待てって。まだカロックの話なんてしてないし、来たいなんて一言も言ってないよ。俺は仮定の話をしただけで」

「じゃ、近いうちにな。今までなかったこと、片っ端からやっていこうぜ」

「おいおい。これはジェイの試練で、目的はかけらを捜すことだろ」

 まるで新しい遊びを見付けたかのように、ジェイの目が輝いている。

「ああ、そうだ。新しい要素が加わることで、事態がどう変化するのかを見極めるのも、十分試練になるぞ」

 物は言いよう、とはこのことか。

「……じいちゃんの話に登場した大竜は、もっとまともだったと思うけど」

 ヴィグランの話は確かに楽しかったけれど、一緒にいた大竜はこんなに何でも面白がるような性格ではなかった気がする。ヴィグランが省略していただけで実は大竜とはみんなこういうものなのか、単にジェイ自身がこんな性格というだけなのか。

「何が? オレだってまともだぞ。別に試練を放棄してる訳じゃないんだしさ」

 確か、大竜の試練というのは一人前になるための儀式、と聞いたはず。ジェイはゲーム感覚でやろうとしているみたいに思えた。

「ジェイが言うと、遊び要素を探してるみたいよ」

「そっか? けどさ、先はまだまだ長いんだし、ずっと真面目くさってやったってつまらないだろ。楽しんでやらなきゃ、続かないって」

 先は長い、か。

 ラディは図書館でのことを思い出す。魔物も毒も種類が多くていやになった。真面目にやることは必要だろうが、それをずっと続けるのは自分の性格ではちょっと無理に思える。だったら、ジェイが言うようにどこかで楽しみを見出した方が頭に入りやすくなるかも知れない。

「不真面目も必要ってことか」

「んー、オレは不真面目なつもりはないんだけど、他の大竜から見ればそう思われるかな。ま、いいよ。最終的に地図が完成すれば試練は終了するんだから」

 歩いても走っても寄り道しても、ゴールに着けばいい。

「そうだな。……機会があったらカロックのこと、話してみるよ」

 たとえ力が半減したとしても、あらゆる事態に遭遇した時のブラッシュをそばで見られたら、きっとラディにとって大きな収穫になるはずだ。もちろん、レリーナにとっても。

☆☆☆

 ラディは魔獣召喚の呪文を唱えた。今のレベルでは魔法使いの付き添いなしにすることは、協会の規則で禁じられている。だが、カロックにはその規則も通じない。ラディがこの魔法を使うのは、今回で三度目だ。

 近くにいる魔獣を呼び寄せる呪文。図書館で魔法書を確認したが、唱え方に問題はない。あとは術者の魔力次第だ。もう一つ加えるなら、唱え間違えて魔力が大きすぎる魔獣を呼び出したりしないように注意しなければならない。協力を求めるために呼び出しているのに、レベルの低い術者に呼び出されたということを怒って攻撃されるからだ。

 今のところ、ラディはそのテの失敗をしていない。呪文を間違えないように、レリーナと自分が乗れるのに十分な大きさの魔獣が現れるように、という点を強くイメージする。

 ラディ達の周囲に、小さな竜巻が起きた。その風がおさまると、そこには黒い魔獣が現れている。艶やかな黒いたてがみを持ち、がっしりした体格の獅子だ。

「私を呼んだの、あんた?」

 見た目から勝手にオスだと思っていたが、声も口調も女性のものだ。

「え、女の子なの?」

 ラディが思ったことを、レリーナが率直に口にした。

「ええ、そうよ。呼び出しておいて、不満?」

「いや、そうじゃないよ。たてがみがあるから、てっきりオスだと」

「私達の種族は、性別に関係なくたてがみがあるの。しいて言えば、殿方の方が少し長いかしら。……オスって言い方、失礼ね。単なる獣と同列に扱わないでちょうだい」

「あ、ごめん」

 翼のある猫のシュマも、自分達の種族名を省略することを嫌っていた。魔獣というものはやはりプライドが高いらしい。

「で、何? 呼び出しておいて、私のたてがみに文句をつけようって言うの?」

「違うよ。俺はラディ。大竜の試練に協力していて、魔獣の力を借りたい」

「大竜? あーあ、そこのちっちゃいの、大竜だったのね」

「ちっちゃいって言うなよ」

 ジェイが拗ねる。

「じゃあ、大きくないって言えばいいかしら」

「それも却下」

「あ、あのさ。俺とレリーナを乗せて移動してほしいんだ。あれ? 今回の行き先、まだ聞いてなかったっけ。ジェイ、どこへ向かうんだ?」

「ロネ平原」

 小さいと言われたことを、まだ気にしているらしい。口調が不機嫌だ。

「あの、何もない所? もうちょっと面白い場所へ行きなさいよ」

「今回はそこが目的地なんだよ。行けるものならオレだってもっと別の場所に向かうっての。変更は無理」

「あ、あのっ、ねぇ。あなたの名前、まだ聞いてないんだけど……教えてもらえる?」

 珍しくジェイが魔獣と険悪な雰囲気になりそうなので、レリーナが話をそらす。

「デリスよ。まぁ、急ぐ用があるでもないし、連れてってあげるわ」

 魔獣の協力を取り付ければ、とりあえず魔獣召喚は成功だ。

 ラディとレリーナはデリスの背中に、ジェイは頭に乗る。

「大竜が頭に乗るなんて、そうそうないわよね」

「そうだなー。普通は逆だもんなー」

 ジェイはほおづえをついて寝転んでいるような姿勢になっている。デリスに返した言葉は皮肉だろうか。

「そんなにデリスの言葉が気に入らなかったのかしら」

 レリーナがこっそりラディに話しかける。

「男としては、ジェイの気持ちもわからなくはないけど」

「へぇ、ラディにもわかるの?」

「試練中だからジェイの姿はどうしようもないけどさ、小さいって言われると多少なりとも傷付くんだ」

「そんなもの? 見たままを言ってるだけなのに。デリスに悪気はないと思うわよ」

「言わないでもらいたいってこともあるだろ」

 そんな話をしている間に、デリスは地面を蹴った。翼を持たない黒獅子は、優雅に空を駆ける。

「ロネ平原も広いわよ。どの辺りに行くの?」

「てきとー。着いたらラディとレリーナの出番になるから」

 ジェイの答え方もずいぶん適当だ。

「なぁ、ジェイ。今回は何の魔法を使うんだ?」

「んー、どうかな。その場に行かないと、オレにもわからない。ラディ、もう身体は何ともないよな? さっきの召喚でも、特に問題はなかったし」

 ふと前回のことを思い出し、ジェイが確認する。

「ああ、大丈夫。ただ、今回は前みたいにしっかり練習できてないんだ」

「何の?」

「何のって、魔法に決まってるだろ」

「あーあ、そうか。無理して練習しなくても、二人ともちゃん基礎はできてるぞ」

 魔力のかたまりでもある竜にそう言ってもらえると、見習い魔法使いとしては嬉しい。

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、どこで何が起きるかわからないだろ。ある程度の攻撃魔法や結界ができないと、自分が危険になるからな」

「それもそうか。最初の時みたいに、クードや面倒な魔物が現れたら排除する必要があるもんな」

「あ、それなんだけど。カロックと俺達の世界では、魔物の呼び方って違うのかな。本にはクードって名前は載ってなかったんだ。似たような形の魔物はいたけど」

「ラディ、そんなことまで調べてたの?」

「ちょっとね。別にカロックの魔物と照らし合わせるつもりじゃないけど、同じなのか違うのかって思って」

「オレはラディ達の世界にいる魔物の名前を知らないから、答えにくいなぁ。世界が違えば、魔物の名前だって変わるんじゃない? オレは大竜だけど、そっちじゃ何て呼んでるんだよ」

「え? えーと……たぶん、単に竜って呼んでるんじゃないかな」

 ジェイのことを調べようとは考えなかった。ラディが調べていたのは「魔物」だから。多少なりとも魔力があって人間でない存在は「魔物」とひとくくりにされたりもするが、竜は別格だ。

 魔物の中でも、人間に姿を変えるだけの力があれば「魔性」と呼ばれたりする。きっとデリスも、前回協力してくれたリーオンやシュマもなろうと思えば人間に変われるだろうから、魔獣であり魔性。細かい話をすればどんどん面倒になりそうだ。

「そもそも、あたし達の世界では竜に会った人が圧倒的に少ないもの。だから、資料だってほとんどないわ。絵があっても想像図みたいなものだったりするのよ」

 ジェイがけらけら笑う。

「憶測で資料を作られちゃ、読む方は困るよなぁ。ふぅん、そっちじゃ竜は姿を見せないのか」

「カロックではどうなんだ? 俺達はこうしてジェイと話してるけど、それは協力者として呼ばれたからだろ。もしカロックに人間がいたら、ジェイ達とはどれくらいの頻度で会えるんだ?」

「お互いが生活する場所にもよると思うぞ。オレはそっちの世界に行ったことがないからよく知らないけど、街ってのにラディ達は住んでいるんだろ? オレ達は森の奥だとか山の頂上だったりするしな。何かのきっかけで知り合ったら頻繁に会うことも考えられるし、素通りなら一生知らないってことにもなるんじゃないか?」

「そうか。じゃ、俺達の世界の竜もそういう理由があって、人間の目に触れないのかも」

「もしくは、人間が知らないだけで、すぐそばにいたりしてな」

「そばにいたら、すぐにわかるわよ」

「人間のフリをしていても? いざとなれば、人間の気配を出してすごすこともできると思うぞ。オレはそっちの竜を知らないけど、魔力は持ってるんだろ?」

「近くに……いたりするのかな」

 そう考えると、急にどきどきしてきた。何気なくすれ違ったり、会話している相手が実は竜だったりしたら。

「少なくともあたし達、その人が実は竜だったってわかっても慌てないで済むわよね。竜とこうしてずっと会話しているんだもん」

「うん、確かに免疫はできてるな」

 それでも、別の竜と会えば興奮してしまうに違いない。

「ねぇ、ちょっと」

 空を駆け続けていたデリスが声をかけた。

「ロネ平原が見えて来たんだけど、煙も見えてるわ。直進する? それとも迂回?」

「煙?」

 ラディ達と会話していたジェイが、進行方向に向き直って目をこらした。ただっ広い平原が地平線のかなたまで広がっている。少しくすんだ黄緑色に見えるのは、大地を覆う草の色だ。ラディやレリーナにはそれだけしかわからないが、デリスが言うようにジェイにも煙がわずかに立ち上っているのが見えた。

「おかしいな。この辺りに煙が出る要素なんてないはずなのに」

「火を使う魔物がいるとかじゃないのか?」

「考えられなくはないけどな。魔法の気配もかすかにしてるし」

「で、どうするの? ちゃんと指示しないつもりなら、このまま真っ直ぐ行くわよ」

 ひとまずの目的はロネ平原としか聞いていないので、デリスとしてもちゃんと具体的な目的地を告げてもらわなければ困るのだ。

「んー、そうだな。いい、このまま真っ直ぐ」

「ジェイ、本当にいいのか?」

「気になるのを放っておくの、いやだしな。何かわかればすっきりする。それに、魔物とは違う気配もするし」

「あたし達、まだ煙もよく見えてないんだけど……そんなこともわかるの?」

「まぁな」

 やはりどんなに小さな身体であっても、色々な能力が人間とは桁違いだ。デリスが煙のことを知らせてから数分飛び続け、ようやくラディ達にもその煙が見えて来た。かなり細い煙が数本立ち上っている。よくあんなものが見えたものだ。双眼鏡があっても人間の二人に見えたかどうか怪しい。

「あら、あそこにも人間がいるじゃない」

「ええっ?」

 デリスの言葉に、ラディとレリーナは同時に声を上げた。

「俺達以外に人間がいるのか? カロックに?」

「大量の小物に囲まれてるみたいね。あの煙は人間の魔法で出たってところかしら」

「囲まれてるの? 大変じゃない」

 まだラディとレリーナには、その人間の姿が見えない。だが、デリスの報告が正しいのなら、見過ごせない事態だ。

「ジェイ」

「わかってるよ」

 ラディが言おうとする前に、ジェイが頷く。

「ここまで来て素通りもないだろ。それに、かけらの気配がほとんど消えてる。今回の探索場所はこの周辺だ」

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