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ある村の出来事

後半少しグロ表現が出てきます。

ご注意ください。


追記:女の子の名前を間違っている箇所があったので修正しました。

私が住むこの村は、このダーレン大陸のどこにでもある普通の村……だと思う。実際他の村に行ったことがあるのは、小さいときに一度、隣の村に行っただけだから本当にそうかと聞かれると自信は無い。周りを魔物避けのために木の壁で覆った、本当にどこにでもある村。


でも、男の人たちは森で狩りをして、女の人たちは家で服を作ったりご飯を作ったり、子供たちも農繁期は親を手伝って畑の手入れをするけど、農閑期はチャンバラをしたりおままごとをしたりと、本当にどこにでもある風景だと思う。


そんな小さな村で、私エスカは生まれた。私の1日は朝ご飯を食べて、その後お母さんの手伝いをする。昼になったら村の同じ年くらいの子で集まって遊ぶ。夕方お父さんたちが狩りから戻ってきたら、解体を手伝って夕食の準備だ。ご飯を食べたら後は寝るだけ。ね、どこにでもある普通の村でしょ?


「エスカ何やってんだ?」


「あ、ゴメン。ちょっとボウッとしてた」


今私に声をかけてきたのは、近くに住むトウヤ。ちょっと乱暴だけど、同じ年の幼馴染……なのかな?最近は背も伸びてきて、男っぽくなってきたけど、ちょっと前までは私に喧嘩で敵わないくらい臆病だった。


「みんなで川に泳ぎに行こうって」


「川か……わかった、行く!」


この辺りで子供が遊ぶって言うと、だいたい川で魚を獲ったりする。上手く獲れれば、それがそのまま夕食になるのだ。みんな、遊びとは言え真剣になる。


こうして私は、トウヤと一緒に村の外れにある川に魚を獲りに行った。





「お母さん、ただいま!」


「おかえりエスカ。どうしたんだい?随分嬉しそうじゃないか」


「えへへぇ。ほら、こんなに魚が獲れたの!」


この日の私はついていた。なんと、魚を3匹も獲れたのだ。私の家は7人家族、お父さんとお母さん、お爺にお婆、そして15歳になるお兄ちゃんと10歳になる私、そして1歳の弟だ。弟はまだお母さんのオッパイがご飯だから、2人で1匹の魚を食べることができる。


「あらすごい、今日の夕食は豪勢になるね」


「うん!」


「なら手を洗って手伝っておくれ、そろそろ父さんたちも帰ってくるだろうから」


「わかった!」


お母さんに言われた通り、裏に回って井戸から水をくみ上げる。桶の水で手を洗うと、そのまま家に入って厨房に行く。


「エスカは魚を捌いてちょうだい。それが終わったら火の番をお願い」


「はーい」


「おや、エスカ帰ってたのかい。なんだか、やけに元気だねぇ」


「あ、お婆!見てみて、今日川で獲れたの。3匹だよ3匹!」


「おやおや、これは随分と大漁だったね。エスカが1人で獲ったのかい?」


「うん、みんなで音を立てて浅瀬に追い込んでから獲った。私だけじゃなく、他の子たちもいっぱい獲ってたよ」


「それは凄いねぇ……。ああ、ほら私も手伝うよ」


「お義母さん、あまり無理をしないでください。私とエスカだけでも大丈夫ですから」


「手伝わせておくれ、何もすることが無くて暇なんだよ」


なんだろう、急に話を変えられた気がする。お母さんとお婆は一緒に夕食の準備を始めた。お婆が食事の準備を手伝うなんて、私が覚えている限りは初めてだった気がする。


「まあ、いいか……」


私も自分に与えられた仕事に取り掛かることにした。





「おお、今日は随分と豪勢だな!これじゃ、俺たちの狩ってきた獲物が見劣りするな」


「ホント!?私の獲ってきた魚、お父さんたちのより凄い?」


「ああ、凄いぞエスカ。なあトート」


「そうだな、俺もあの川で魚を獲ったことは何回もあったけど、1回で3匹も魚を獲ったことは無かったな」


「やった!お兄ちゃんに勝った!」


私は飛び跳ねて喜んだ。だって、お兄ちゃんのトートは何をやっても他の人より上手い。私もお兄ちゃんが私と同じ年のころにやった色々な事と比較された。そのどれもがお兄ちゃんに到底敵わなかったから、1つでも勝てるものができたのは嬉しい。


「エスカのお蔭で今日の食卓が豪勢になった。食事の準備も手伝ったみたいだし、エスカは兄ちゃんの自慢だな」


「えへへぇ……」


お兄ちゃんに頭を撫でられる。私は自他ともに認めるお兄ちゃんっ子だ。確かに色々比較されることは嫌だけど、でも私にとってお兄ちゃんは自慢なのだ。それに、お兄ちゃんは、私が努力をすればちゃんと褒めてくれる。


「相変わらずトートとエスカは仲が良いのう」


「当たり前だ親父。トートとエスカはワシの自慢の子供たちだ。その二人が仲が良いのは当たり前ではないか」


お父さんとお爺もお兄ちゃんの事はいつも褒めている。だけど、今日は私が魚を獲ってきたから一緒に褒めてくれる。お兄ちゃんと一緒に褒められるのは凄く嬉しい。


「ほら、いつまでも話していないで。ちゃんとエスカの獲ってきた魚を味わってください」


お母さんがみんなに魚を薦める。自分の獲った魚を家族のみんなが食べる姿は、私をとても幸せな気持ちにしてくれた。


「はぁ、今日はなんかすごく幸せ」


「ははは!確かにな。狩りも上手く行って、娘が魚を獲ってきて、そして家族全員で満足のいく食事にありつける。これを幸せと言わずに何を幸せと言うのか!」


「お父さん酔ってるんですか?もう、その1杯で終わりにしてくださいね」


「ぬぉ~、酔ってない。酔ってないから、あと1杯」


「ダメです!」


「「「ははは!!!」」」


今日の夕食は、とても賑やかに過ぎて行った。





翌日、午前中は昨日と同じで家の手伝いをした。お母さんは畑を見に行ったので、私は弟の面倒を見ている。


「だぅあ~」


「あばぁ~」


「きゃいあぃ!」


1歳になる弟は可愛い。私が抱き上げていると、小さい両手を一生懸命に伸ばして私を掴もうとしてくる。弟が生まれるまでは、私が家族の中で一番小さかったから、今度は私が弟を守る番だ。


「おーいエスカ!今日も川に行こうぜ!」


トウヤが私を川に誘いに来た。だけど残念、今日は弟のお守りをしないといけない。


「ごめん、今日は無理なんだ」


「ああ、赤ん坊の面倒を見ないといけないのか」


「そうなんだ。みんなにはゴメンって言っておいて」


「わかった!」


私が弟を抱えているのを見て、トウヤも無理に誘おうとはしない。みんな多かれ少なかれ兄弟がいるから、同じような境遇になったことがあるからだ。


「いってらっしゃい!」


私はそう言ってトウヤを見送った。





「ただいまエスカ、何か変わったことはあったかい?」


しばらくすると、お母さんが家に戻ってきた。


「ううん、特に何も。トールも寝ちゃったし……」


そう言って籠の中で寝ている弟、トールをお母さんに見せる。お母さんも一緒にトールの寝顔を見て頬が緩む。


「ぐっすり寝てるね。助かったよエスカ、私が見ていたかったんだけど、今日はどうしようも無くてね……」


「いいよ、私もトールのお守り楽しいから」


「……さて、エスカはもう遊んできていいよ。私がトールを見てるから」


「ああ、今日はいいや」


ちょうどさっきトウヤが誘いに来たけど、断ってしまった。今から仲間に入れてとお願いするのは、ちょっと間が悪い。残念だけど、今日は家にずっといよう。


「じゃあ、お湯を沸かすからお茶にしよう。そこで待ってな」


「ありがとう」


お母さんはそう言って、家の中に入っていった。私はお母さんが戻ってくるまでトールの寝ている揺り籠をゆっくり揺らしながら町の風景を見る。本当にどこにでもある普通の村だと思う。だけど、私にとってはこの風景こそが全てだ。町にでも行けば、感想が変わるかもしれないけど、生憎そんな予定はない。恐らく私は、町に行くことも無くここで子供を産んで育て、そして死んでいくんだろう。





そう思っていた……その時までは。





「あれ、なんだろう?」


それに気づいたのは偶然だった。たまたま動かした視線の先、そこに奇妙な動きをしている人がいたからだ。


「どうしたんだい?」


お母さんがカップを持って戻ってきた。カップを受け取り、さっき見つけた人の事をお母さんに話す。


「ほらあれ、なんか変な動きをしているから……」


私が指さした方向をお母さんが見る。すると、みるみる顔色が青くなっていった。


「大変だ、お義母さん!お義父さん!」


突然お母さんが、家の中にいるお爺とお婆に声を張り上げる。その声量に私はビックリしたけど、そんな私にお構いなしにお母さんは家に戻っていく。


少ししてお爺とお婆と一緒にお母さんが戻ってきたけど、その顔は真剣そのものだった。


「ど、どうしたの?」


「エスカいいかい?ここで、お爺ちゃんとお婆ちゃんと一緒にトールを見ていて」


口答えを許さない、そんな雰囲気のお母さんに、私は頷く事しかできなかった。私が頷くのを確認したお母さんは、奇妙な動きをしている人の元へ走っていった。それはうちだけではなく、他の家からも大人たちが奇妙な動きをする人に向かって走っていた。


「お爺、あれなんなの?」


「うむ……取り越し苦労ならいいんじゃが」


お爺もそれ以上は話してくれなかった。お婆を見ても、小刻みに震えるだけだ。


「やはり起こってしまった……。昨日はまさかと思っておったが」


何の話?昨日……って、私たちがいっぱい魚を獲ってきたこと?そう言えば、その話を聞いたお婆は急に話を変えて話題を反らしてしまった。子供たちが魚をいっぱい獲ってくると悪いことが起きるの?なら、このイヤな感じを招いたのは……私?


「私もみんなの所に行ってくる」


場の雰囲気に我慢できず、私がそう言うと……。


「いかん!」


「ヒィッ!」


お爺にすごく怒られた。今まで、こんな風に怒られたことが無かったから、私は凄く悪いことをしてしまったと思って泣いてしまった。


「ご、ごめんなさん……グスッ」


「あぁ、悪かったなエスカ。だけど、今ここを動いたらいかん。いいな?」


「……うん」


お爺に怒鳴られて泣いてしまった私を、お婆が優しく抱きしめてくれた。お婆も震えているけど、私を抱きしめたことで落ち着いたみたいだ。そんなお婆に私も落ち着くことができた。


きっと大丈夫、お父さんとお兄ちゃんが戻ってくれば、またいつもの幸せな食卓が待っている。


ミシッ!


「!?」


そんな私の思いを踏み躙る、不気味な音が村中に木霊した。


「な、なに……今の音」


「ダメじゃ、壁が壊れる……」


「えっ……」


お爺が何を言っているのか解らない、そう思った瞬間。


バキィバキッ!!!


村を守るための壁――木製――が突然弾け飛んだ。その奥からは、おびただしい数の魔物の姿が……。


「ヒッ!?」


魔物の群れ、そして私の場所までの間にお母さんたち大人が集まっている。ダメ、今のままじゃみんな魔物に殺されちゃう。


「みんな逃げてぇ!!!」


私は力の限り叫んだ。


「ヒグゥ!?ビ……ビエェェエェ!」


ああ、私の声にトールが起きてしまった。だけど、そんなことを言っている場合じゃない。私はトールが寝ている籠を抱えてお爺とお婆に顔を向ける。


「逃げよう!」


「無理じゃ……ワシらは足手まといになる」


「ワシらは走れん……エスカ、トールを連れて逃げるんじゃ」


「そんな!?お爺もお婆も一緒に逃げよう!」


私とお爺、お婆がお諮問等をしている間に魔物たちが村の中に入ってきた。それは恐ろしい勢いで村中を蹂躙していく。私の目に入ったのは、お母さんが大きな魔物に頭から食べられる姿だった。


「おかあさん!」


「もう手遅れじゃ……エスカ、家の中に入りなさい」


「で、でも……」


「言う事を聞け!いいか、お前が死んだら、誰がトールを守るんじゃ?トールが生きている以上、お前は死んではならん」


お爺に言われて、腕の中で泣き叫ぶトールを見る。トールは魔物が怖いんじゃない、周りの恐怖が伝染して泣いているんだ。


「本来は村の外に逃がしたいが、もうどこに逃げても魔物に見つかってしまう。エスカ、トールを連れて家の中へ。地下の氷室に身を隠せ」


「お爺たちは?」


「もう、そんなことを言っている暇はない。ワシらの事は気にするな」


「エスカ、トールをしっかり守るんだよ」


もうお爺とお婆には会えなくなる。それが解っていたけど、今の私にはどうしようもない。今はトールを助ける、ただそれだけで身体が自然と動いた。


「お爺……お婆……」


「生きろエスカ」


「達者でな……」


最後に2人の顔を見て、私は家の中向けて駆けだした。地下室への階段は、厨房にある。急いでそこへ向かって階段への扉を開けようとした。その時……。


ガアァーン!


身体に強い衝撃を受けて、私は気を失った。





どれくらい経ったのか、周りは暗くなっていて、今が夜だと分かる。身体中が痛いけど、何とか立ち上がって家の外に出る。


そこで私が見たのは……地獄だった。


燃え盛る炎、崩された家々。すでに魔物の姿は無かったけど、あちこちに残る人だったもの。視線を横に向ければ、首から上がないお爺の姿が。その隣に寄り添うように横たわるお婆……お婆は下半身が無かった。


「お爺……お婆……」


涙も出なかった。私の脳が理解することを拒絶したみたいに働かない。そうして、しばらく呆然としてた時。


「君、大丈夫か?」


突然声をかけられた。ゆっくりと横を向くと、鎧を付けて剣を担いだ男の人が立っていた。よく見ると、周りにも何人か同じような人がいる。


「あ……あなたは?」


「俺たちはガンズの町から来た冒険者だ。村に魔物の群れが現れたと聞いて来たんだが……どうやら、一足遅かったようだ」


悔しそうにそう言う冒険者の人。別にこの人が悪い訳じゃ無いのに……。


「生存者は君だけか?他の家を見回ってみたが、生きている人間は君だけだ。他に生存者に思い当たることは無いか?」


「それなら……森に狩りに行った男衆が。お父さんとお兄ちゃんも、そこにいるはずです」


「……そうか。残念だが、その男衆は全滅した」


「……えっ?」


「森の中で10人前後の人の死体を発見した。損傷は酷く、身元の確認はできないが恐らく君の言っている、この村の男衆で間違いないだろう。狩猟を目的とした格好をしていたからな」


「そん……な……」


私は目の前が真っ暗になった。お母さんに続いてお爺、お婆。そしてお父さんとお兄ちゃんまで死んでしまった。私は……独りになってしまった?


「それと、これは言うべきか迷ったんだが……川の方でも何人か死んでいるのが見つかった。君と年恰好も似ている子たちだったから、恐らくこの村の子供たちだと思っている」


この人は、何か私に恨みでもあるのだろうか。ううん違う、この人は私に必要な情報をくれているだけだ。この人に怒っても何も変わらない。


「君意外に生存者はいない。この村は全滅したんだ」


全滅……本当にそうだろうか?


「家の中に私の弟がいます。他に生存者がいないのであれば、私と弟だけが生き残ったと言う事です」


「そうか……怪我はしていないか?」


「わかりません。私も気を失っていて、今さっき目覚めたので……」


「なら、一緒に弟の所に行こう」


「はい……」


色々あって頭がグチャグチャだ。状況が分かってきて、初めて弟の事を思い出すなんて、私は姉失格かもしれない。


「こっちです……」


冒険者の人を連れて、屋内に入る。玄関から入って居間、厨房と進んで行き地下室への扉の前まで来た。


「……どうしましょう、冒険者さん」


「どうした?」


「……生存者は、私だけだったみたいです」


私の目の前には、血に染まった揺り籠だけがあった。

もう1話間章を挟みます。

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